和多屋別荘(佐賀県嬉野市)が主宰する第2回三服文学賞の受賞作が発表され、大賞は葦田不見(あしだ・みず)さんの「水のからだ」に決定しました。
「器」がテーマになっている本作品は、美しい比喩で新しい本との出会い、読書体験がわたしたちを形づくることを丁寧に表現しています。
「わたしたちのうちには言葉という水が張られている。
わたしたちは語る、そうして己の液体を少しずつ溢(こぼ)していく。」「水のからだ」より引用
▲葦田不見さん
第2回三服文学賞の大賞受賞、ありがとうございます。偏に普段から応援してくれている方々のおかげです。
受賞作「水のからだ」では、誰もが水のからだであるとし、人の営みを水の流れに喩えましたが、今日流れているのはきれいな水ばかりではありません。
水の惑星、地球は人の手で汚されていますし、望まれないはずの赤い水が今この瞬間もあちこちで流れています。
どうかあなたの水が「正しく」使われることを願っています。
葦田さんを招いた授賞式は今夏に開催される予定です。授賞式では葦田さんへのインタビューや、ライターインレジデンスの権利で1年間滞在できる客室のメディアツアーなど、三服作家のこれからの活動に迫るほか、三服文学賞の裏側も紹介されます。
※ライターインレジデンスの権利とは、「三服文学賞」大賞受賞者に授与される、“三服作家”として和多屋別荘に1年間宿泊して執筆活動ができる権利です
選考委員長、選考委員のコメントは以下の通りです。
●選考委員長 コメント
○小原嘉元(和多屋別荘 代表取締役)
嬉野で400年続く「肥前吉田焼」と同じ「器」がテーマとなっている作品ですが、何かを入れることで意味を成すという自然すぎる役割が器にはあるとハタと単純ですが気付かされました。
また、人間もまた器であり、本や伝承・経験を通して満たされていく様がなるほどと思わされる点でもありました。
器の中は、如何様にでもなる。日々、流動的に動き、時に緩やかになること。そして激しく流れ、器からこぼれ、新しい動きや出会い、考えが溜まり、流れを繰り返す。
この11年間の和多屋別荘の動きそのものであり、この文学賞もこの動きの中で生まれたものです。
作品内で語られた生き物のような動きは、旅館や経営もそうであるようにと納得させられ共感した作品でした。●選考委員コメント
○染谷拓郎(株式会社ひらく プロデューサー)
民藝運動の中心人物であった陶芸家・河井寛次郎は「新しい自分が見たいのだ 仕事する」という言葉を残しています。
器、というものを作りつづけることで新しい自分に出会うこと。
そして、本を読むことも、新しい自分に出会う助けになります。
この作品が、多くの人に読まれ、作品自体が一つの器になることを期待します。○深井航(株式会社ひらく ブックディレクター)
抽象的な問答でありながら、各所にちりばめられた比喩によって読み手を置いていくことなく、瑞々しく読ませる力強さを感じました。
この作品が、2万坪という器を持つ和多屋別荘と共鳴するのも必然かもしれません。○堤優衣(日本出版販売株式会社)
目の前にある一杯のお茶から哲学的に広がる表現力は、まさに“本を飲む(読む)”感覚を与えてくれます。
もしかすると、この世には多くの、「器」と呼べるものが存在しているのかもしれません。
そして、それがいずれは、私たちの生に繋がっているかもしれないことが尊く、美しく、この言葉たちを何度も反芻し、味わいたくなるような作品でした。
そのほかの受賞作品、各作品の選評コメント、次点作品一覧は以下からご覧いただけます。
〈受賞作品・次点作品紹介〉https://wataya.co.jp/topics/2024/05/9698
三服文学賞とは
お茶と本を愉しむための書店「BOOKS&TEA 三服」を館内に開業した旅館・和多屋別荘が主宰する温泉旅館発の新しい文学賞です。
三服や嬉野温泉に関わりのある7つの事柄をテーマに文学作品が募集され、大賞受賞者には受賞作の書籍化と和多屋別荘に1年間宿泊して執筆活動ができる“三服作家”としてのライターインレジデンスの権利が進呈されます。
三服文学賞は「暮らしのなかで書く時間を愉しむ」という理念のもと立ち上げられました。料理を食べる楽しみがあれば作る楽しみもあるように、文学にも読む楽しみがあれば、書く楽しみがあっていい。
普段なかなか文章を書く機会がない方、嬉野温泉や三服に訪れたことがない方、プロアマ問わず、全国から広く作品を募っています。
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BOOKS&TEA三服とは
BOOKS&TEA三服は、 和多屋別荘(佐賀県嬉野市)が開業した、「お茶」「暮らし」などのテーマにあわせた、約1万冊の書籍を自由に閲覧・購入可能な書店です。
お茶に関する貴重な古書や、「一服、二服、三服」とジャンルを横断して深く知ることができる特集コーナーなど、知的好奇心を刺激するセレクトとなっています。
「三服」という名称には、お茶を飲んで一服する体験をより多く・深く体験していただきたいという想いが込められています。ストレスが多い毎日のなかでふっと息を抜いてリラックスし、お茶と読書を愉しめる空間です。
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