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温泉旅館にオープンした「BOOKS&TEA 三服」|旅館は「泊まる」から「通う」場所へ

開業71周年を迎えた、佐賀県・嬉野温泉の温泉旅館「和多屋別荘」。2021年11月には、旅館内に読書とお茶を愉しめる書店「BOOKS&TEA 三服(さんぷく)」(以下、「三服」)がオープンしました。

和多屋別荘は「日本三大美肌の湯」と称されている嬉野温泉を楽しむことができる老舗温泉旅館。嬉野は「釜炒り茶発祥の地」とされ、澄んだ空気と清らかな水に恵まれたこの地で作られる嬉野茶は、爽やかな香りと奥深い味わいが特徴です。

1,300年前から湧出する嬉野温泉、500年前より栽培が始まった嬉野茶という、歴史的伝統文化が息づく場所にオープンした「三服」は、「お茶」「暮らし」などのテーマにあわせた 約1万冊の書籍を自由に閲覧・購入することが可能です。宿泊客だけではなく一般の利用者にも開放されており、好評を博しています。

近年、書店以外の業態が本の販売をするケースは増えていますが、老舗旅館での書店運営は全国でも珍しいケースです。

そんな歴史ある旅館に本屋を開業するという新しい取り組みについて、和多屋別荘代表取締役の小原嘉元(こはら よしもと)さんにお話を伺いました。

小原嘉元(こはら よしもと)
1977年生まれ、嬉野市出身。佐賀県嬉野温泉の旅館「和多屋別荘」の代表取締役。
2000年に大学を中退し、株式会社和多屋別荘へ入社するも家業の不振により退職し、旅館再生コンサルタントの道へ。約10年にわたり全国の温泉旅館70軒もの再生に携わる。
2013年に和多屋別荘の代表に就任後、それまでに培った発想力と人脈を生かし、経営危機を乗り越える。
また、旅館経営以外にも、2014年に「箱庭の芸術祭」、2016年に「嬉野茶時(ティーツーリズム)」、「宵の美術館」を立ち上げ、温泉地・嬉野に新風を呼び込む事業をプロデュース。2018年には有田にオーベルジュ「aritahuis」を開業し、2020年には国内初の旅館内へのサテライトオフィスを誘致し、2021年11月にはRebornWatayaProjectの一環として嬉野茶と読書を愉しむための書店「BOOKS&TEA 三服」を開業。
2021年、一般社団法人嬉野温泉観光協会副会長にも就任。



――まずは「旅館内に書店をオープンする」ことになった経緯をお聞かせください。

和多屋別荘は2万坪以上の敷地面積を持っていますが、宿泊業だけでは使いきれていませんでした。一方で、私は旅館というのは宿泊するためだけではなく、日本の伝統文化の集積地のようなものであると考えていました。

そういった場所だからこそ、使いきれていない空間を「時間を過ごす場所」というキーワードで何かできないかと考えました。そこで、2021年11月に創業71周年を迎えるにあたり、「泊まるから通う」をコンセプトとしたイノベーションプロジェクトを進めました。「三服」はそのプロジェクトの一環となります。

――ただ単に「書店を作るという」構想ではなかったのですね。

「温泉旅館に来る人に本を読んでほしい」という考え方というより、「人を感動させる」「時間を過ごす」場所を作りたいという考えが先にありました。

そこから、同じ佐賀県にある武雄図書館や、ブックホテルの箱根本箱など、新しい形の本屋の存在を知り、「旅館に図書館のような書店を作る」という着想に至りました。

――オープンしてからの反応はいかがでしょうか。

一番わかりやすいのは「朝のお客様の動きが変わってきた」ということです。いままでは、お客様はチェックアウト後に売店で買い物をしてそのまま帰られていたのですが、横に「三服」がオープンしたことにより、チェックアウト後にお茶を飲みながら本を読まれたり、購入されたりするお客様が増えました。

「宿泊翌日は帰るだけ」という選択肢しかなかったところに、「本を読んで過ごす」という選択肢が増えたことが非常に大きいと考えています。

チェックアウト後だけではなく、チェックイン直後、夕食前後、就寝前など、さまざまなタイミングで「新しい体験」を届けられるようになった気がしています。

木目調で統一された本棚には、「お茶」「暮らし」などのテーマにあわせた書籍が約1万冊あり、自由に閲覧と購入が可能。

「学び」コーナーには、「学校の勉強は全然好きになれませんでした。でも、大人になってから、自分のペースで自分の興味のあることを調べていくと、これがめっぽう面白い」というコメントを掲載。手に取る人が学びを通して「新しい自分を見つけるきっかけとなる本」を選書している。

閲覧のみだが、お茶にまつわる古書も数多く蔵書。嬉野茶を飲みながら、日本茶を深く知ることができる。

 

ローカルの価値が見直されている今だからこそ、この取り組みを伝えたい

――イノベーションプロジェクトは三服のほかにも、世界的に有名なパティスリーショップ「PIERRE HERMÉ(ピエール・エルメ)」とのコラボレーションなど、さまざまな業態を展開されています。

PIERRE HERMÉさん以外にも、日比谷花壇さんや日本香堂さんなど、名だたる企業が佐賀の嬉野という地にオープンしてくれました。

地方での出店というリスクを背負いながらも新規出店していただいた背景には、ローカルの価値が見直されていることもあると思います。

都市部ではないからこそ、地方の魅力を前面に出すことができます。それはもちろん、我々だけではなく、どこの地の旅館でも可能性は秘めています。

日本中のすべての大型旅館とまではいいませんが、各都道府県にこういったモデルの旅館やホテルが増えていくと面白いなと思っています。

――最後に、「三服」の今後の展望をお聞かせください。

現在、「三服」は1階だけで営業しているのですが、将来的には地下の宴会場まで広げて、二層に広げていきたいと思っています。

宴会場は、新型コロナウイルスの影響で使われる機会が減ってしまいました。そういったスペースを「BOOKS&TEA」だけではなく、嬉野にまつわるさまざまなものとコラボレーションをしていきたいですね。

 

「BOOKS&TEA 三服」施設概要

営業時間 一般利用:9:00~22:00(最終入場 20:00)/宿泊者利用 8:00~22:00
定休日 年中無休
お席料 大人 1,100円/人、 小学生550円/人、 小学生未満 無料 *宿泊者、書店利用のみの方は無料

【施設のご利用について】
・お席での読書をご希望される方は受付にてお席料をお支払いください。
・お席をご利用の方には受付にて副島園本店の歩茶(温・冷)引換券が渡されます。
*宿泊のお客様にはチェックインの際にお渡しします。
・一部の古書を除き、 店内の本はすべて購入できます。
*お席ではブックカバーやコースターなどをご利用いただき、 本の汚損防止にご協力ください。
・館内施設でご購入の商品に限り、 お席でご飲食になれます。

※お知らせ※2021年11月1日(月)より「和多屋別荘」駐車場は有料となります。
宿泊や日帰り利用のお客様は割引料金にてご利用可能です。
■宿泊1,000円/泊 ■日帰り3時間まで300円/5時間まで500円/日帰り終日1,000円

 

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