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児童書出版社の販売担当者が語る!この夏のおすすめ本と子どもの本の選び方

もうすぐやってくる夏休みシーズン。読書感想文や自由研究といった学習を深めるためにはもちろん、じっくり本と親しむ時間が取れるのも、長期休暇のいいところです。この夏休み、どのような本がおすすめなのか、また、お子さんが楽しめる本を選ぶためのアドバイスについて、児童書出版社の販売担当者3人にお話を聞きました。

(写真左から)
童心社 販売部 課長 細谷葉子さん
Gakken 出版営業部 出版販売課 児童書チームリーダー 後藤真宏さん
ポプラ社 カスタマーコミュニケーショングループ 営業企画ユニット チーフ 吉本宏美さん

 

▶夏の児童書特集2023~この夏に読みたい!おすすめ本~はこちら

 

児童書ジャンルにおける2023年夏のトレンド

――はじめに、昨今の児童書ジャンルの動向や、2023年夏の児童書におけるトレンドについて教えてください。

後藤 この時期は、長期休みの宿題にお役立ていただいたり、学びを深めていただいたりという観点から、自由研究や図鑑といった書籍が中心になります。

特に、図鑑の販売データや読者アンケートを見ると、昨今はボリュームゾーンが5歳、つまり未就学児となっています。学習図鑑はまだちょっと早いというお子さんには、他社も含め、イラストを用いた図鑑も数多く出されていますので、そちらもおすすめです。これから夏に向けては、豊富な図版でお子さんの興味をさらに深掘りできるコンテンツとしての図鑑をフックに、全年齢に対応した商品群をご用意しています。

トレンドという面では、新型コロナウイルスが5類感染症に移行し、消費マインドが外に向いている中で、昨年の秋ぐらいから出版業界が苦しい店頭状況になっているのは報道されている通りです。しかし、外出が増えるとなると、今度は“体験”が付いて回ります。弊社としても、6月に『星と星座』や『』、『鉄道』といった図鑑の新版をご用意しており、星空観察や旅行などに持って行って、親子で学びを深めていただく際にもご活用いただければと考えています。

細谷 童心社にはGakkenさんやポプラ社さんのような図鑑はないのですが、夏の店頭では課題図書をはじめ各種推薦図書も賑わいをみせます。その中でも弊社では、『かあちゃん取扱説明書』や『先生、感想文、書けません!』といった、小学3~4年生くらいからを対象にした読み物の売行きが明確に伸びます。

『かあちゃん取扱説明書』は弊社の年間売上でも第10位ととても人気の作品で、読書が苦手なお子さんも手に取りやすく、ご家族みなさんで楽しめる作品です。『先生、感想文、書けません!』は2021年6月の発売ですが、現在累計発行部数が57,000部と版を重ねています。感想文はすべての小学生が夏休みに頭を抱える永遠のテーマだと思いますので、こちらも多くの子どもたちから支持を得ています。夏はこの2点を中心として、小学生向けの読み物を打ち出して行きたいと考えています。

加えて弊社では、年間売上のトップテンがすべてロングセラーなのですが、その10タイトルが年間売上の35%を占めています。全体をみてもロングセラーの売上が主となりますので、しっかりと売り伸ばしを図っていきたいです。

吉本 ポプラ社でも、課題図書や推薦図書、自由研究といった学びに関する書籍を、夏のトレンドとして強く押し出していきたいと思っています。

それと同時に、赤ちゃんや幼児といった未就学児向けのアイテムも、特に大事な商材と考えています。

夏休みには、課題図書などをお求めにご家族で来店されるお客様が増えます。ごきょうだいがいらっしゃる場合、学校の教材だからといって、お兄ちゃん、お姉ちゃんにだけ本を買ってあげるのは、親御さんとしても忍びないのではないでしょうか。そういった時に、一緒にお買い求めになれる乳幼児向けの絵本もご展開いただけるよう、この春先から書店さんにご提案しています。

——その場合、乳幼児向けとしてはどのような絵本をご提案されているのでしょうか。

吉本 まずは季節感のあるものが店頭でも目を引きやすいと思いますが、絵本には、色や形をテーマにしたものなど、季節を問わないものもたくさんあります。その場合は、その本を読んだ子どもがどういう反応をしてくれるのか、モニターを使ったデータをご用意したり、シリーズ全体のブランディングを図った上でご提案したりしています。

最近ですと、弊社では『あかまる どれかな?』をはじめとする『あかまるフレンズ』シリーズにおいて、キャンペーン・イベントの実施や関連会社でのアプリ化など、ご家族一緒に遊べるシリーズとしてさまざまなご紹介を行っていますので、この夏もご注目いただきたいです。

 

子どもと一緒に選ぶのがおすすめ!興味関心に沿った本選びを

――日販でも、「いくつのえほん」という年齢別におすすめの作品を掲載した絵本ガイドを展開書店様の店頭で配布していただいています。「絵本は種類がありすぎて、どれを選べばよいのかわからない」「どの絵本が自分の子に向いているのだろう?」といった声にお答えすべく制作していますが、絵本の選び方について、アドバイスをいただけますか?

吉本 0~2歳ぐらいのお子さんにとっては、絵本は見て読むものというより、読んでくれる人とのコミュニケーションツールであり、手触りなど知覚に結びつくようなものだと考えています。ですので、親御さんや大人の方が、「こういう本に触れてほしい」と思われるものをお選びになるのが一番だと思います。

そのためのガイドとして「いくつのえほん」も作られていると思うのですが、私たちも書店さんにお伺いしている際に、お客様に「○歳なんですけれど、おすすめの絵本はどれですか」と声をかけられることがあります。

細谷 書店員さんだと思って声をかけられることは時々ありますね!

吉本 書店員さんがレジ対応などでお忙しそうなときには代わりにお答えすることがあるのですが、まずは「お子さんが自分で読むのか、誰かに読んでもらうのか」をお聞きしています。自分で読める場合も、絵が多いものがいいのか、どのくらいの文字数なら読めるのかによって異なってきます。

小学生以上だからといって、必ずしも「絵本は卒業」ということではないですし、お子さんの年齢だけでなく、本を読むことが苦にならない、読書が楽しくなるような、その子に合った本を選んであげるのがいいのではないでしょうか。

細谷 弊社でも各社様同様、読者向けの絵本ガイドを無料配布しています。年齢別の帯をロングセラー絵本につけた店頭フェアも企画しており、書店さんからは目印になってお問い合わせにすぐ対応できる、お客様からは探しやすいとご好評をいただいています。

一方で、ファーストブックを年中・年長さんが何回も読んで楽しんでくれているという声もたくさんいただきますし、まだ小さいけれど、虫や乗り物などに興味が出てきて、実年齢以上のグレードの絵本でも楽しめることもあると思います。

これだけたくさんの絵本がある中、情報が何もないところから一冊を選ぶのは難しいと思いますので、対象年齢はひとつの目安として、お子さんお一人お一人の興味や関心に合わせて選んでいただくのが、本を好きになってもらうという観点からもいいのではないでしょうか。

▲ロングセラーの年齢別フェア展開のようす(写真:有隣堂ニッケコルトンプラザ店)

 

——その際は、子どもと一緒に選んだ方がよいのでしょうか。

後藤 私も書店さんにお伺いした時やイベントの時などに、直接ユーザーさんとお話しする機会があります。同じように「○歳の子に」とお問い合わせを受けて、いくつかピックアップしてご覧いただくのですが、そうすると、みなさん実際のお子さんの年齢よりも1~2歳、対象が上のものをお選びになる傾向があります。

それが決して悪いわけではないのですが、せっかくプレゼントしてもその本にお子さんが興味を持てないと、結局本棚に入ったままになってしまいがちです。やはり本は読んでもらってこそだと思っていますので、迷った場合はどちらがいいかお子さんに聞いてみていただけると、改めてお子さんの興味関心への理解がより深まるのではないでしょうか。

Gakken  後藤真宏さん

 

——絵本の次のステップとして、読み物への移行の難しさを感じている親御さんも多いかと思います。

細谷 たしかに絵本から読み物への橋渡しになるようなグレードの本自体が少ないかもしれませんね。

吉本 お子さんそれぞれの読書力に大きく差が出る時期ということもあると思います。

たとえば弊社ですと『かいけつゾロリ』のシリーズは、著者の原ゆたか先生ご自身が「絵本から読み物への橋渡しとして」という思いを込めて書かれています。物語のおもしろさはもちろんですが、次へとめくらせる仕掛けがすべてのページに散りばめられていますので、お子さんが読み物へと興味を持ち始める時期に、ぴったりのシリーズとしておすすめです。

後藤 書店さんの構成として、絵本から読み物の棚に横移動できる売場はなかなかないかもしれません。絵本だけで売場が完結していて、その背中側だったり、棚の反対側だったりに児童文学が置いてあると、そこで導線が切れてしまう難しさがあります。

その場合、書店さんの展開の妙だと思うのですが、絵本売場からも見えるところにゾロリのPOPがポンと出ていたりすると、「あそこにゾロリの本があるんだ、行ってみよう」となると思うんですね。

吉本 「自分が読むべき本があそこにあるかもしれない」とわかるのは、特に絵本から読み物に移行したいと思っている過渡期のお子さんには、よいきっかけになりますね。

ポプラ社 吉本宏美さん

 

——同じ児童書売場でも、いつもと違う通路にも足を運んでもらうと、本への興味を広げるきっかけが生まれそうですね。それでは最後に、各社のこの夏おすすめの作品をご紹介いただければと思います。

細谷 弊社では、『14ひきのシリーズ』が今年40周年を迎えます。全部で12作ある中で、『14ひきのひっこし』と『14ひきのあさごはん』の2冊が1983年7月に同時に刊行されました。

世界16か国語で翻訳出版されており、世界での累計発行部数は1,500万部を超えています。野ねずみの家族が自然とともに暮らす姿を描いたシリーズで、これからもロングセラーとして長く大切に、読者のみなさまに届けていきたいです。

童心社 細谷葉子さん

 

吉本 弊社では、柴田ケイコ先生の新シリーズ『パンダのおさじとフライパンダ』が5月に発売となりました。イチオシの絵本として、今、各書店様で大きくご展開をいただいています。

物語のおもしろさはもちろん、本作には「アポパイ ポコパイ パンパンパン」と、主人公のおさじがダンスをしながら唱える呪文が出てきます。私はリズム感や語感、音のおもしろさを伝えられるのは絵本の特権だと思っているのですが、本作はその魅力が全面に出ている作品です。

我が家でも毎晩、寝る前に子どもたちと読んでいるのですが、そうやって絵本を楽しみながら一緒に過ごせる時間は一読者としても幸せだなと感じます。ぜひ読者のみなさまにも楽しんでいただければうれしいです。

もう1点、さきほどから名前を挙げさせていただいていますが、『かいけつゾロリ』は昨年35周年を迎えました。35年というと、一人の人が大人になって、家庭やお子さんを持っていらっしゃるような年月ですよね。

そして、ゾロリはすでに親御さんご自身が子どもの時に読んでいて、お子さんにも「おもしろい」と実感を持ってすすめていただける本だと思います。親子で共有できるシリーズとして、これからも愛していただければうれしいです。

後藤 絵本ということで申し上げますと、『ぴよちゃんのえほん』シリーズのいりやまさとしさんが、今年、画業20周年を迎えられます。6月にも新刊『ぴよちゃんとひまわり』が発売となりますが、現在も改訂版や新刊を発売しており、本シリーズも、日本国内だけでなく世界を含めた累計発行部数が1,000万部を突破しました。

先日開催されたイベントでも、「子どもの頃、『ぴよちゃん』の絵本で育ちました」という若いお母さんが、「今度は生まれた子どもに買っていきます」とおっしゃってくださって、私もロングセラーの力をまざまざと感じています。

また、『しましまぐるぐる』というファーストブックのシリーズもおかげさまで好評をいただいていますが、この『しましまぐるぐる』の少しお兄さん・お姉さん版である『しましまぐるぐるたいそう』が7月に発売となります。立ち上がったり、体を動かしたりできるようになったお子さん向けに、オリジナルの歌と体操が楽しめる、次の段階へのスイッチメディアとして楽しんでいただける内容です。

本だけでなく、アニメーション動画と 、「おかあさんといっしょ」(NHK)で “たいそうのお兄さん”を務められたよしお兄さんが登場する実写動画が付いていて、親子で一緒にからだを動かすことができます。人気シリーズにひさかたぶりに強いコンテンツが加わりますので、どうぞよろしくお願いします。

(2023年5月29日実施)

 

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