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2年で40作品を復刊、累計6.5万冊超が再び読者へ|復刊企画「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」のこれから

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始動から2年を迎えた「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」とは?

――読者の“もう一度読みたい”を叶える復刊プロジェクト

書泉が2022年にスタートした復刊企画「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」は、今では手に入りにくくなった名作や隠れた良書を、読者の声をもとにもう一度世に送り出すプロジェクトです。
コンセプトは、「読んでみたい! 読んで欲しい!のに手に入らない本を、手の届く価格で」。この想いに賛同する複数の出版社とタッグを組み、これまでに合計40タイトル、累計65,000冊以上が復刊されてきました。累計売上は1億5,000万円を突破し、多くの読者に喜びを届けています。最近では復刊にとどまらず、過去に発表されたものの書籍化されていない作品に書き下ろしの新作を加えた“同人誌スタイル”の書籍も制作し、著者とのご縁を活かしながら、商業出版とは一味違う形での作品提供にも挑戦しています。

 

「惚れ込んだ本は、できるだけ多くの人に読んでほしい」––本屋としての矜持

この企画の根底にあるのは、「惚れ込んだ本は、できるだけ多くの人に読んでほしい」という強い想いです。
日々無数の新刊が生まれていく中で、光が当たるのはごく一部です。多くの作品は知られることもないまま、静かに流通を終えていきます。しかし、時を経てもなお心に残り続ける本があります。そんな「昔読んで惚れ込んだ作品」「読んでみたかったけど手に入れられない作品」を、手の届く価格で読者に届けたい。これは、単なる復刊ではなく、“本屋としての矜持”を体現する取り組みの一つであると言えます。

 

書店にしかできない価値をつくる––ビジネスの視点から見た取り組み

現代の読書環境は大きく変わりました。ほとんどの本はインターネットで検索すればすぐに見つかり、翌日には手元に届く時代です。さらに、本の価格は全国どこで買っても基本的に同じです。そんな中で、書泉があえて目指したのは、「うちでしか売っていない本」をつくることでした。ここでしか手に入らない本だからこそ、わざわざ店舗やオンラインに足を運んでくださる。それが、リアル書店としての存在意義にもつながっています。

また、出版社とは直接「買取契約」を結ぶことで、通常よりも高い粗利率を確保します。販売価格についても協議しながら決めることができるため、「この価格でこの内容なら間違いなく価値がある」と自信を持って販売できるのも大きな強みです。このように、本の魅力を最大限に引き出しながら、書店としての経営の安定化にもつなげることが、この企画のもうひとつの大きな目的です。

 

書店発の復刊企画が、全国へ––広がり続ける「10冊プロジェクト」

「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」は、もともと書泉グループの店舗とオンラインショップだけで展開されていた限定復刊企画です。しかし現在では、いくつかの形でその枠を越え、さらなる広がりを見せています。

1)限定販売から全国流通へ

書泉での限定販売がきっかけとなり、全国の書店で再び取り扱われるようになった例もあります。
たとえば『中世への旅 ~騎士と城~』は、書泉での復刊が好評だったことを受け、出版社の協力により全国展開が実現。読者からの声が、眠っていた名作を“ふたたび世に出す”後押しとなりました。

中世への旅 画像1

▲復刊本の中で売上TOP3を独占した「中世への旅シリーズ」

中世への旅 騎士と城書影

中世への旅 騎士と城
著:ハインリヒ・プレティヒャ、訳:平尾浩三
発売日:2010年2月
発行所:白水社
定価:1,980円(税込)
ISBN:9784560721117

城での生活、食物と衣服、日々の仕事と娯楽、合戦と攻城、十字軍遠征など、騎士文化最盛期のヨーロッパの騎士たちの日常生活を、豊富なエピソードを交えながら生き生きと描きだす。

(白水社公式サイト『中世への旅 騎士と城』より)

 

2)他書店との共同販売という新たな展開

他の書店と力を合わせて展開したケースも増えてきました。
『殉教カテリナ車輪』では、ブックセラーズアンドカンパニーとの共同企画により、紀伊國屋書店新宿本店や梅田 蔦屋書店など複数の店舗で販売されました。また、鉄道関連書籍『キハ82物語』では、鉄道書に強みを持つ旭屋書店とのコラボレーションが実現し、関西地域の読者へとリーチを広げました。

 

3)復刊から文庫化・全国発売へ

復刊をきっかけに文庫化された作品もあります。飛鳥部勝則さんの『堕天使拷問刑』は、もともと2008年に刊行され古書市場で高値がついていた一冊でしたが、「芳林堂書店と、10冊」で4,985冊が販売されました。その反響の大きさから、1年後には文庫化され全国発売に至りました。
紀伊國屋書店新宿本店の文庫ランキングでも、数週間にわたって上位にランクインするなど、書店発の企画が出版の流れを変えた好例となりました。

堕天使拷問刑

堕天使拷問刑_書影

堕天使拷問刑
著者:飛鳥部勝則
発売日:2025年1月
発行所:早川書房
定価:1,980円(税込)
ISBN:9784150315870

中学生のタクマを待ち受けていたのは、魔術崇拝者の祖父の密室死、ある一族の女三人の斬首、「月へ行きたい」と呟く謎の少女……

(早川書房公式サイト『堕天使拷問刑』より)

 

4)同人誌という新たなかたちでの創作・販売

この企画は“復刊”にとどまらず、未書籍化作品の同人誌化にも広がりを見せています。
飛鳥部勝則さんの未書籍化作品「フィフス」は、新作短編を加えて文庫本型の同人誌として刊行。これまでに1,600冊以上を販売し、すでに4刷目に入るロングセラーとなっています。販売だけでなく、文学フリーマーケットへの出店やSNSでのプロモーションも積極的に展開し、「本をつくって、読者に届ける」という書店の原点を体感する取り組みになりました。現在は、第2弾として篠たまきさんの「観音異聞」が展開されています。SNSでも大きな反響を呼んでおり、他の書店での取り扱いにもチャレンジしています。

 

「100冊」への道、そしてその先へ––「10冊プロジェクト」のこれから

「書泉」と「芳林堂書店」が独自の個性を持ち続け、ユニークな書店として選ばれ続けるために、復刊企画「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」は、これからも続きます。次なる目標は、このプロジェクトから“100タイトル”を世に送り出すことだそうです。その節目には、「書泉・芳林堂書店と、100冊」として、売場を大々的に展開、さらには全国を巡る“出張POPUP本屋”として、この企画を携えて旅をする構想もあるそうです。たくさんの魅力的な本が「再度発見されて」「多くの人に読まれる」ことを待っていると思います。最近では、出版社の方々から「この作品を一緒に復刊しませんか?」とお声がけいただくことも増え、さらにSNS上では、「この本が復刊されるなら、次はあの作品を…」といったコメントも見られるようになりました。

次はどんな本が復刻されるのか、どんな出会いが待っているのか。「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」のプロジェクトから目が離せません。

 

復刊企画「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」売上数上位10作品

書泉復刊企画top10

 

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