全国の書店員さんが、もっともお勧めの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第45回は、新潟県長岡市にある文信堂書店長岡店の文芸・ビジネス書担当、實山美穂さんのご登場です。
實山さんが紹介してくれたのは、2016年本屋大賞の発掘部門「超発掘本!」にも選ばれた『八本脚の蝶』。「運命的なものを感じた」という本書と推し続けることへの思いについて、實山さんに綴っていただきました。
八本脚の蝶
著者:二階堂奥歯
発売日:2020年2月
発行所:河出書房新社
価格:1,430円(税込)
ISBN:9784309417332
書店員として1冊の本を売り続ける意味
出会いは2010年9月。津原泰水著『琉璃玉の耳輪』(河出書房新社)のあとがきで、『八本脚の蝶』について知りました。それより前に、『桜庭一樹読書日記―少年になり、本を買うのだ。』(東京創元社)でも紹介されていた本だったので、運命的なものを感じたのです。
しかし読みたくても、その頃は出版社品切れ。そこから紆余曲折を経て、実際に私が本を手にするまでのことは、『本屋大賞2012』と『本屋大賞2016』(ともに本の雑誌社)に掲載されているので、今回は省略することにします。超発掘本にも選んでいただきましたので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
著者は、二階堂奥歯。1977年に東北で生まれ、早稲田大学第一文学部哲学科を卒業後、出版社に就職。ファッションとお化粧を愛した女性で、大変な読書家でした。2001年6月から、2003年4月に亡くなるまでのブログと、彼女と公私で付き合いのあった方々の文章が一冊にまとめられています。単行本が2006年にポプラ社より発売され、数年間の品切れを経て、何度かの重版後、2020年2月に河出書房新社より文庫化されました。
私が『八本脚の蝶』と出会って10年以上経ちます。私は残念ながら、生前の奥歯さんを知りません。でも、この本がきっかけで、たくさんの人たちと関わることができました。奥歯さんのご両親にお会いし、奥歯さんの師匠ともいうべき書店員さんともお話しできました。今でも店内には、奥歯さんが好きそうな、読んでほしいと、私が勝手に選んでいる本のコーナーがあります。ときどきお客様から、本やコーナーについて、質問されることもあります。この本で人生が変わったとおっしゃる方にもお会いしました。
当店では単行本が107冊売れました。文庫は今現在62冊です。まだまだこれからも仕掛けていきます。
御書印プロジェクトに参加している当店では、御書印帖へ書き込む一文に、『八本脚の蝶』を選べるようにしています。本来は著作権の切れたものを採用することになっていますが、出版社の許可を得て、自由に使用させてもらっています。
『八本脚の蝶』が、この本を必要とする人のところへ届いてほしいという気持ちは変わりません。超発掘本に選ばれた際、帯にも使われたコピーで、この文章を終わらせたいと思います。
私が書店員である限り、置き続けることをここに宣言します。そして、同意してくださる方が増えますように。
◆作り手からのメッセージ◆
私は2019年、本作の単行本の刊行元であるポプラ社から河出書房新社に転職しました。歌人の穂村弘さんにそのご挨拶をしたときに、「ポプラ社といえば『八本脚の蝶』は文庫化しないのかな」とおっしゃったことが、この文庫化のきっかけです。物語の愛好者として編集者として、奥歯さんを尊敬しています。
(河出書房新社 「文藝」編集部 矢島緑さんより)
文信堂書店長岡店(Tel.0258-36-1360) 〒940-0061 新潟県長岡市城内町1-611-1 CoCoLo長岡 本館M2F
※営業時間 10:00~19:30
(「日販通信」2021年9月号「わが店のイチオシ本」より転載)