全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第72回は、広島県福山市にある啓文社コア福山西店のリファレンス担当、肥後いつかさんのご登場です。
今回、肥後さんが紹介してくださるのは、家にまつわるひと夏の物語『何かの家』です。その特殊設定により、「なんとも紹介しづらい小説」という本書ですが、「本の虫」として知られる肥後さんが昨年の夏から推し続けている、まさに「イチオシ本」。果たして肥後さんはどのように本書を読み進めたのか、おすすめポイントとともに綴っていただきました。
肥後さんは、啓文社の公式サイト内でも井上いつかの筆名で、「いつか読書をする人へ」というコラムでおすすめの本を紹介中です!
こちらもぜひチェックしてみてください。
『何かの家』
著者:静月遠火
発売日:2024年8月
発行所:KADOKAWA
価格:825円(税込)
ISBN:9784049157758
読むたびに不安が深まる、怖くも悲しい特殊設定ミステリー
文庫の新刊台にそれはやってきた。1か月経って次の新刊と入れ換えられてもこっそりおすすめ本の棚に移動させる。POPも付けて目立つように平積みして、ちょっとずつ、1冊ずつ売れていき、いつの間にかチェーン店内で一番の売上冊数になっている。
本屋で働く醍醐味はこれです! わたしの推し本を(できる範囲でですが)ひいきして応援して一人でもこの本推しの仲間を増やしたいの!!です!! 楽しい、やめらんない。
ランキングの棚の横に当店のSNSで紹介したおすすめ本コーナーがあります。その一等地にまずPOPを付けて展開します。そしてそこに置かれた本は、その素敵ポイントを本社のホームページの読書感想文コラム、お店のインスタグラムやX、コミュニティFMの本の紹介コーナーなどで何度も何度も紹介されるのです。何度言っても言い足りない、この本面白いんですよーっ!!
時々、著者の方やお客様に直接コメントをいただけることがあって、そんな時はめちゃくちゃ嬉しいです。好きな本のことは、いつでも、誰とでも語り合いたい!!
そうやって夏からこつこつ推しているのがこの文庫、『何かの家』です。
とある仕掛けのある特殊設定ミステリーなので、なんとも紹介しづらい小説です。まずタイトルの『何か』って何??と思うのですが、読み進めるともうほんとに、何か、としか言えない……!
決して一人で入ってはいけない、いわくのある家にまつわる物語。てっきりホラーだと思って読み始めると、大きなミステリーの仕掛けにまんまと捕まってしまっていました。
何を信じればいいのかわからない、ひどく先が見づらくて不安になる。こうなると一歩も踏み外さないように慎重に、ゆっくりと読み進めるしかない。大丈夫。落ち着いて、わたしはひとつひとつ物語をたどりながら進む。
なのに、え!? あれ!??
一歩も踏み外さないように慎重に読み進めていたはずなのに、物語が、世界がわたしを裏切ってきます。めちゃくちゃ怖い! けれど思っていたのと全然違う怖さだ! そして思っていたような怖さもある! 余計怖いです!
一章読み進めるごとに、謎というか不安が深まります。本を読んでいて、恐怖で胸がどきん!としたのなんていつ以来だろう。時々びっくりし過ぎて「えっ!?」と声が出た。
登場人物のことを知るたびに彼らのことが分からなくなっていく。それどころか、わたし自身のことも分からなくなっていきます。自分の好ましいと思っている所と嫌いで目を背けたい部分をしっかりと握りしめて、怖くて走り出してしまったみたいにがむしゃらに読み進めてしまいます。
そして読み終えた後、何度も隅々まで読み返してしまいます。どんだけ読み返しても、新鮮に怖いです。そして新たに怖い所と悲しい所が見つかります。
めちゃくちゃに怖いのに、この世界を嫌いになれなくなり、人間を断じられなくなる。わたしも『何かの家』に入って出てきてしまったんだとどこかで疑っています。
あと、犬派のわたしが大満足の犬かわいい小説でもあるので、そこの所もおすすめポイントです!
これからも推していこうと思います!!
◆作り手からのメッセージ◆
入口はホラーですが、特殊設定ミステリ要素もある本作。張り巡らされた仕掛けは、何度読んでも新たな発見があるはずです。さて、ここで画面の前のあなたに一つ問いを。「あなたは本当に、あなたですか?」精緻に組み上げられた『何かの家』の世界を、ぜひ体感してください!
(KADOKAWA メディアワークス文庫編集部 担当Oさんより)
啓文社コア福山西店
Tel.084-930-0901
〒729-0106 広島県福山市高西町4-3-61
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