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【神永学さんの書店との出合い】作家デビュー20周年!『心霊探偵八雲』のヒットは書店員の情熱から

神永学

書店にまつわる思い出やエピソードを綴っていただく連載「書店との出合い」。今回は、作家デビュー20周年を迎えた神永学さんです。

デビュー作『心霊探偵八雲』が多くの読者に届いたのは書店員のおかげ、という神永さん。20年を経た今も、小説を書く原動力となっている書店とのエピソードについて、綴っていただきました。

神永学
かみなが・まなぶ。1974年、山梨県生まれ。日本映画学校(現日本映画大学)卒。自費出版した「赤い隻眼」が編集者の目に留まり、大幅に改稿の上、2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』として刊行され作家デビュー。「心霊探偵八雲」シリーズとして人気を集める。小説のほか、舞台脚本の執筆なども手がけている。他の著作に、「怪盗探偵山猫」「天命探偵」「確率捜査官 御子柴岳人」「革命のリベリオン」「浮雲心霊奇譚」「悪魔と呼ばれた男」の各シリーズ、『コンダクター』『イノセントブルー 記憶の旅人』『ガラスの城壁』などがある。

 

「熱」

私のデビュー作の『心霊探偵八雲』は、今でこそ累計発行部数750万部に達しましたが、刊行した当時は苦戦を強いられていました。

一応は、商業出版という形ではありましたが、私は新人賞を受賞したわけではなく、自費出版上がりで何の実績もありませんでした。刊行した文芸社も、自費出版をメインにしていたので、書店との繋がりも薄く、宣伝のノウハウもなく、売上が振るわなかったのは、必然といえます。

本当なら、そのまま消えていくはずだったのですが、その流れを大きく変えてくれた書店がありました。明正堂書店アトレ上野店です。

私のような無名の作家の作品は、配本されたとしても、奥に追いやられる。それは、売上の観点からみれば正しい判断です。しかし、明正堂さんは違いました。私の本を読み、おもしろいと感じてくれた。そして、これを読者に届けたいと、熱い情熱を持ち、書棚一つを全部私の本で埋め尽くすという、暴挙ともいえる大展開をしてくださったのです。

さらには、手書きのPOPや手書きの帯まで用意して、書店を挙げて、私の本を推してくださいました。あまりのことに、私の方が「大丈夫か?」と心配になったほどです。しかし、当時の担当さんは「売れると分かっている本を売っても、おもしろくない。埋もれている作家を、売ってこそ価値がある。それに、君の作品はおもしろいから、必ず売れる」と、私の背中を押してくださいました。

あまりの売上の悪さに、もう書くのを止めようかと思っていたのですが、書店員さんの気持ちに応えるためには、書かなければならない――と強く思ったのを昨日のことのように思い出します。

そこから、じわじわと広がりをみせ、ほかの書店にも派生していきました。やがて、それは大きなうねりとなり、私は多くの読者を獲得し、20年経った今でも、小説を書き続けることが出来ています。

『心霊探偵八雲』がここまで大きなシリーズに育ったのは、特別な戦略の結果ではありません。書店員さんの「おもしろい作品を読者に届けたい!」という熱い気持ちのおかげにほかなりません。その気持ちこそが、読者の気持ちを動かすのです。どんな広告より偉大で、素晴らしいものです。

もちろん、売上という数字だけでなく、小説家にとっても、自分を信じてくれる書店員さんがいるということは、何よりの励みになりますし、創作意欲に繋がるものです。一人一人の書店員さんの気持ちが、読者に楽しみを提供し、新しい作家を育て、出版業界そのものを支えているのだということを、私は誰よりも知っています。自費出版上がりの無名の作家を、ここまで引き上げてくれたのは、書店員さんなのですから。

昨年、明正堂は惜しまれつつ閉店しましたが、その遺伝子はきっと受け継がれていることでしょう。

 

著者の最新刊

神永さんが全身全霊をかけて読者に挑んだ初の本格ミステリ!20周年記念作品『ラザロの迷宮』発売中

ラザロの迷宮
著者:神永学
発売日:2023年09月
発行所:新潮社
価格:1,980円(税込)
ISBNコード:9784103066088

湖畔にある洋館を友人と共に訪れた月島。殺人事件の犯人を当てる、脱出型の謎解きゲームが開催されるという。だが、男女8人の参加者たちの前で、本当の殺人が起きる……。戦慄の最終章に備えよ! 大人気シリーズ「心霊探偵八雲」著者が全身全霊をかけて読者に挑む、一頁先さえ予測不能のノンストップ・ミステリ。

(新潮社公式サイト『ラザロの迷宮』より)