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生産性の向上が組織を変える!ブックエースの取り組み

「品出しが終わらない」「日々の業務に忙殺されている」などさまざまな課題を解決し、作業生産性を向上するためのプログラムを開発しているブックエース(茨城県水戸市)。そのメソッドは他企業にも提供され、多くの成果をあげていることで注目を集めています。

無駄な時間や人件費を削減するだけでなく、売場づくりに注力できる体制づくりに貢献し、現場で働くスタッフのマインドにも変化がみられるという本プログラムの内容について、ブックエース取締役の金子直記氏と、業務改善推進室の中内義人氏にお話を聞きました。写真左から、ブックエース 取締役 金子直記氏、同 業務改善推進室 中内義人氏

 

総動員で現場の課題解決に取り組む

――2015年にプロジェクト化され、2016年から他企業の書店にもノウハウの提供を開始された「生産性改善プログラム」ですが、貴社ではどのようなきっかけで始められたのでしょうか。

金子 プロジェクトの前段の話になりますが、私はもともと業務委託として外部からブックエースの経営に関わっており、社長の奥野からは、会社として生産性を上げる必要性を問題提起されていました。当時の書店業界では、現場の生産性改善について科学的なアプローチはほぼされていなかったこともあり、改善の余地は多そうだと考えました。

弊社は現在年商96億円、そのうちBOOKの売上が52億円で、当時も今も売上の過半をBOOKが占めています。そこで、まずはミッションの柱のひとつとして、BOOKの生産性について改善することにしました。

ほかにも現場の課題は多くありましたが、中小企業ですから十分な人的リソースを割けるわけではありません。現場の力を借りて総動員で取り組みながら、人材を育てていくことにしました。当初、私はブックエースに来たばかりで社内のことがわかりませんでしたから、テーマに合わせてしかるべき人材を推薦してもらっていた中で、現場のことがわかっていて経験豊富だということで中内の名前が挙がったのです。

中内 私はBOOKの担当社員を経て店長をしていたのですが、その時にプロジェクトリーダーに任命され取り組みを開始し、その後、業務改善推進室に異動となりました。

――着手からは7年が経過されていますが、取り組みの現状について教えていただけますか。

中内 店頭作業のうち大きな割合を占める品出しを中心に、手順と所要時間を決めて作業を“標準化”し、投入人時の適性化を図ることで、FY15は6.0%だったPA人件費率をFY21は5.25%まで削減しています。

金子 プロジェクト以前はバックヤードが荒れていたり、ポスターがきちんと掲示されていなかったり、売場の導線を無視して雑多に商品が置かれていたりと、できていないことばかりでした。商品部がMD計画を毎週作成していても、現場では売場に手をかける時間が捻出できず、実施されていないので成果も出ていませんでした。

いまは当時より人件費率が下がっているにもかかわらず、売場全体の作り込みがなされてVMDのレベルも上がっていますし、バックヤードの整理整頓まできちんと行き届いています。平台やフェアの展開にしても、現在はルールに則ってどの店舗に行っても展開が行われていますし、MD計画の歩留まりは、ほぼ100%です。

在庫の管理に関しても、毎月の会議で売上に応じた調整ができるようになりました。返品の仕方もジャンル別のマニュアルになっていて、それがきちんと回って不良在庫を減らすことができています。今回のような機会をいただいて振り返ってみると、弊社もずいぶん垢抜けたなあと思います(笑)。

▲ブックエースでは6年間でPA人件費率が0.75%低下したにもかかわらず、売場に手をかける環境を整えたことでMD計画の実施率が大幅に改善、収益にも貢献している

 

ボトムアップで“カイゼン”が進む仕組みを作る

――すでに大きな成果を挙げていらっしゃることがわかりますが、プロジェクトは現在も継続されているそうですね。

金子 弊社では、毎期5~6のプロジェクト活動を走らせており、今期も6つのテーマで実施しています。環境整備やロス対策とともに、BOOKの生産性向上も我々の業績向上に不可欠な取り組みとして定着しており、ボトムアップで常に課題が提起される体制が整っています。

その中心となるのは、パート・アルバイトのリーダー格であるスタッフです。我々は作業の標準化のために業務別のマニュアルを作成していますが、社内モニターである彼女らがイエスと言わない限りは完成しません。マニュアルを作ると、まずはモニターに説明して実践してもらい細かいところまでダメ出しをもらうのですが、まったくの手加減なしで、6~7回差し戻されることもあります。このプロセスがあるからこそ、どのマニュアルも自信をもってご提供できます。

――作業マニュアルだけでも、「品出し」「雑誌付録付け」「抜取り」「ストッカー管理」「インカム使用方法」「問合せ対応」「客注管理」「返品」「配布物・特典管理」「売場メンテナンス」と10種類ものご用意があるそうですね。作成だけでも大変そうです。

中内 マニュアル化と聞いて、僕自身も最初は「え?」と思いましたけれど、実際には楽しく取り組むことができました。売場で棚を触っていると、ありとあらゆる問題が起きますが、マニュアルはそのソリューションにもなります。

スタート時は自社の24店舗からコツやノウハウを集約し、「ベストプラクティス」(最適解)をまとめたマニュアルをもとに改善を進めてきました。他社の店舗にお伺いするようになってからは、その企業さんにより良いノウハウがあればマニュアルに還元させていただくこともあります。

――マニュアルも絶対ではなくて、良い事例を取り込んでブラッシュアップされているのですね。

中内 私も当初マニュアルと聞いたときはそれが100%正しくて、それに沿って型にはめていくというイメージがありましたが、弊社の品出しマニュアルなどは、おそらく20回に迫る勢いで改訂を繰り返しています。設計目的さえブレなければ、ルールや手順はどんどんいいものを吸収していこうと考えていますね。

――そうやってマニュアルを進化させるのも、中内さんたちプロジェクトメンバーの方々なのですか。

金子 プロジェクトメンバーは3~4人いますが、彼らの大きなタスクはマニュアルとして標準化されたルールやアプローチ方法が、現場で徹底されているかのチェックが半分、さらなる修正や改善が半分となります。チェックの仕組みがしっかりと機能することで各店の達成度合いが「スコア」として可視化され、結果が定期的に経営側に上がってきます。そのオペレーションがあるからこそ、今あるリソースの中でもみんなで回せているという実感があります。

現在は、スコアが高止まりしているのであれば、現場から上がってきた課題を追加して繰り返し難易度を上げていくという段階にきていますので、このプロジェクトに関しては、トップダウンであれこれ指示を出すことはほぼありません。

――プロジェクトが自発的な改善を促し、組織がレベルアップしていく仕組みとなっているのですね。中内さんのプロジェクトでの現在の役割は。

中内 すでにリーダーは後任に託していて、メンバーとして調整役に徹しています。
メンバーも棚を触ることが主の書店員なので、例えば調査をする、計画を立てるといった場面では、これまであまり必要とされてこなかったスキルを身につける必要があります。そのアドバイザー的な役割が担えればと考えています。

――プロジェクトメンバーは任期が1年で、実務に通じているほかに、成長が期待される方が任命されるそうですね。

金子 当初から、ボトムアップで改善が進んでいく仕組みを作りたいと体制を整備してきました。プロジェクトというと、トップが概要を指示してあとは現場任せになりがちです。プロジェクトの要件定義は経営側がするにしても、リーダーやメンバー、権限や使える予算、具体的なゴールなど、当たり前のことではありますが、まずはそういった設計をきちんとしていきました。

その上でプロジェクトを組織化して、リーダーがプロジェクトオーナーである社長に月次で直接レポートし、その場で決済と意見を仰ぐなど、非常にシンプルな仕組みが継続して行われています。

片や、店舗のスタッフたちにも直接声を届けるために、当初からウェブ会議の仕組みを活用して会議を定例化し、決定事項を共有しやすい環境づくりも行いました。▲ブックエースでのプロジェクトの組織図。メンバーを入れ替え、手当も拡充することで、人材育成の機能も担う。実地調査から修正・改善までの流れを確実に回転させることが効果を高める

 

経営と現場を数字でつなぐ

――貴社では現時点で合計25社50店舗にこのプログラムを導入されているそうですね。実際のトレーニングはどのようにされているのですか。

中内 マニュアルの読み合わせだけでなく集合研修を行うことによって、実地で体を動かしながら動きを覚えていただきます。トレーニングでは、目や手をどう動かすかというOJTの部分を重視しています。

チェックに伺う際も、トレーニングを十分に行った後で、各々が標準化されている手順通りに体を動かせているか、また作業の偏りをなくし、全体として生産性が改善されているかという観点で実施します。その場で修正いただきたい点や改善方法のアドバイスもお伝えし、チェックと修正のサイクルが回るようサポートを行っています。

――チェックをスコア化とおっしゃっていますが、改善の進捗だけでなく、作業の標準化においても“数値化”が欠かせませんね。

金子 数字の良さは成果がもっとも顕著に出るところです。どの会社でも、人件費のコントロールについては「いくら削減しろ」「売上比〇%にしろ」という指示になりがちではないでしょうか。中小企業では尚のこと、経営者の鶴の一声でそれが通ってしまう。その数字に合わせるために現場の人員を減らすだけでは、売場に手をかけるといった本来大切なことが欠落していきます。そうやって短期的に利益を得ても、長期的にはいい結果は生まれません。

しかし、入荷量や客数によって投入すべき人時を合理的に考えると、時間ごとに適正値を算出することができます。「標準からいえばこの時間はこれだけ人時を適正化できるはず」という話ができますし、「むしろここは人時が足りていないから業務が回っていないのでは」と建設的な会話がスマートにできて、経営側、現場双方のストレスがなくなりました。

経営においては、数字ではなく感性的な話になってしまうとトップが強いに決まっています。数字で経営と現場をつないでいくことは必須です。悪い部分を良くするのが「改善」、現状を見直しよりよく変化するのが“カイゼン”とも表されますが、数値化して見える化することは、いわゆる“カイゼン”の王道だとつくづく思います。

――中内さんが執筆された「作業の生産性を上げる~普通の本屋を続けるために~」(明日香出版社無料謹呈本)でも、「基準があれば困らない、迷わない、余計な気を使わない。基準があって初めて良し悪しが判断でき、改善に参加できる」と書かれていますが、まさにその通りですね。

中内 弊社では作業のルールについても30年以上現場任せになっていて、個々人のやり方でなんとか回してきたという状態でしたから、当然スタッフそれぞれのこだわりも多分にありました。雑誌のゴムの掛け方一つとっても美しさやスピード、付録の抜き取りを防止したいなど価値観は違います。それを、「標準のやり方であればほかよりも〇秒早いから、これまでより〇分時間が浮いて、ほかの仕事に使えます」ということを数字で示せれば、スタッフにもすんなり受け入れてもらえます。

研修を通してその効果が納得できれば、現場もそれまで長年やってきた方法から切り替えてくれますし、継続して時間を記録することで作業が早くなっていることを実感できます。その結果、「楽になった」「本来やりたかった棚を触る時間が増えた」という感想をもらえるのは何よりの喜びです。

――他企業への導入の成果についても教えてください。

金子 駅ビル内のBOOKの売場600坪、月商6000万円のA書店では、品出し作業時間の短縮で1日あたり8.1人時、手持ち時間の短縮で同12.2人時を捻出する定量目標を立てました。改善の結果、品出し作業時間は同9.5人時、手待ち時間は同13.8人時の捻出となり、試算より大きな効果が出ました。適正化人時は年間人件費に換算すると、約535万円となっています。

中内 弊社のプログラムを導入いただく際は、実地調査で解荷作業や品出し、雑誌の付録付けなどの作業状況を分析し、定量目標を決めて、お店の方と一緒になって取り組んでいきます。

書店の場合、たいていジャンルごとに担当がわかれていますので、品出し作業や棚の管理など、自分の持ち場だけで作業しているお店が多いように思います。レジのヘルプにしても、「担当の売場がレジに近いので、私ばかりが入っている」と、私が店舗にいた時にもスタッフによく言われました。そういうお話をすると、たいてい「あるあるですね」「確かにルールを決めないといけませんね」と共感してもらえます。

ルールを設定して、入荷量に応じた作業時間や役割分担を決めて作業を標準化していくと、自然と声掛けやフォローなどのコミュニケーションも活発になります。そうした「人の変化」が感じられることは、一番のやりがいにつながっています。

▲品出し朝礼で作業の終了目標時間を設定し、あわせて前日の結果を確認。入荷量に応じた人員配置を行う
▲品出し朝礼フォーマットで記録をつけることで、改善の進捗が確認できる

――生産性改善の業務はブックエースさんにとってどのような位置づけになっていますか?

金子 自分たちが必要に迫られて取り組んできたことなのですが、中内もお話ししたように、他社でも使ってもらえたり、喜ばれたりするのはやはりうれしいですね。認めていただけることが実感できるので、社としての誇りになっています。

オペレーションでどうこうなるようなご時世ではないので、我々のご提供するプログラムも今の業況に対する一発回答にはなり得ません。ですが、出版社さんも取次さんも身を削る思いをしている中で、私たち書店も案外やれることはありますし、やってみると現場が元気になる。「このやり方で生産性を上げるともう少し儲かるようになりますよ。一緒にやってみませんか」という気持ちでいます。

――今後の展開についてはどのようにお考えですか。

金子 業務改善においては、我々よりも多くの店舗があり、売上規模も大きい企業の方々とも、一緒にお仕事ができたらエキサイティングだなと思います。

また、改善のサポートをさせていただく際は、先方の社員さんのような立場で現場に入り、店舗のみなさんとともに進めていきます。その過程で築いた人間関係は、すごく大事なものだと中内とも話しています。業界では経営者同士の集まりはいろいろとありますけれど、現場レベルでのつながりも貴重です。本気で業務の改善をしている人たちのネットワークが出来上がるのは素敵なことですし、その中心に中内をはじめとするブックエースがいてくれたらいいなと思います。

中内 私は学生時代から本屋でずっと働いてきて、本屋に行くのも本屋で働いている人も大好きです。

改善のネットワークが広がった結果、生き残っていくお店が1軒でも増えればうれしいですし、それが我々業務改善推進室がご提供できる一番のサービスだと考えています。いろいろな書店さんと情報交換をしてソリューションを進化させ、結果的に双方がよりよくなる関係性を構築していければと思います。


(2022年9月29日取材/「日販通信」2022年11月号より転載)

 

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