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業界一丸となって本や読書の可能性と魅力を発信:「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT」JPIC特別委員会委員長・奥野康作氏インタビュー

これまで個々に読書推進に取り組んできた団体や企業が集結し、さまざまな取り組みが行われる「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT」では、実行委員会や出版社から提供される企画、店舗独自のイベントなどが、期間中、全国各地の書店店頭にて開催されます。

急ピッチで実施にこぎつけたという今回のキャンペーンについて、JPIC(一般財団法人出版文化産業振興財団)特別委員会委員長であり、「秋の読書推進月間」実行委員であるブックエース代表取締役社長の奥野康作氏に、その趣旨や思い、業界横断型で取り組むことの意義などについてお話を聞きました。(2022年10月13日取材)JPIC特別委員会委員長、「秋の読書推進月間」実行委員
ブックエース代表取締役社長 奥野康作氏

 

全国各地でより多くの来店を募るイベントを

――奥野さんは、JPIC特別委員会委員長として今回のプロジェクトに携わられていますが、まずは特別委員会とはどういった組織なのですか。

特別委員会は昨年の11月にJPIC内に設置された組織で、業界三者の有志と有識者で、書店の経営課題の解決に取り組んでいます。「書店の収益改善」「読書推進と店頭活性化」「書店員の人材育成と労働環境の改善」の3テーマが設定されていて、常設の委員会で検討しています。私は「読書推進と店頭活性化」のメンバーでもあります。

――10月27日からは、いよいよ出版業界が一丸となって展開する「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT」が始まります。

正直なところ、もっとうまくできたのではないかと思うところもあるのですが、1年目である今年は、まずは始めることに意義があると考えています。特に業界横断型で取り組むことが重要だと思っており、ようやく始まるなという気持ちです。

――キャンペーン名にはどのような思いが込められているのでしょうか。

業界の方にアンケートを実施し、そのうちテーマや取り組みの項目については800名ほどの方にご回答をいただきました。内容を見ると、「普段読書をしない人にもこの機会に本を読んでほしい」といった、本との新しい出会いを届けたいという意見が多かったので、その思いをタイトルとして掲げました。

――その出会いを届けるべく、今回は多種多様な企画が用意されていますね。

より多くのお客様に書店に来店いただけるようなイベントをたくさん企画しています。

まずは10月27日に、紀伊國屋ホールにてオープニングイベントを開催します。作家の今村翔吾さん、角野栄子さん、女優・作家・歌手の中江有里さんにご登壇いただきます。

実行委員会の企画としては、デジタルキャンペーンを実施します。スタンプラリーハッシュタグキャンペーンの2本立てで、スタンプラリーは、書店に掲示してあるキャンペーンポスターのQRコードを読み込むとデジタルスタンプがもらえ、それが5つたまると豪華賞品が当たるキャンペーンに応募できます。

賞品は「本にまつわるプレミアムな体験」をキーワードとしていて、「箱根本箱宿泊券」「BOOK HOTEL 神保町宿泊券」「角川武蔵野ミュージアム 1DAYパスポート」などが当たります。スタンプは1日1回取得できますので、買い物をする、しないにかかわらず、期間中に5回、参加書店に足を運んでいただければ応募が可能です。

当初はファッション雑誌の撮影や、漫画家さんと編集者の打ち合わせに参加できるといった出版業界ならではの体験ができる企画もご用意したいと思っていたのですが、実現には時間が足りませんでした。次回の課題にしたいと思います。

ハッシュタグキャンペーンでは、 TwitterやInstagramなどのSNSで、「#本との出会い」を付けて投稿いただいた中から優秀作品を選定し、図書カードネットギフトをプレゼントします。本との思い出や人生を変えた一冊など、皆さんに自由に本への思いを発信していただければと期待しています。

また、2018年の本屋大賞受賞作である『かがみの孤城』の映画が12月23日に公開されることを記念して、「かがみの孤城」映画化記念店頭企画が実施されます。原作を購入された方には特典としてオリジナルミラーカードを配布し、さらに店頭イベント「ねがいが叶う鍵探し」を同時開催。店内のキャラクターパネルでQRコードを読み込んでNFTカードを7つ集めると、オリジナルメッセージカードがもらえます。

――今回、本企画に関しては1書店3000円の参加料がかかる形で実施されています。

今回のフェアはプレゼントや仕掛けがあり、費用が発生します。業界の状況が厳しい中、こうした取り組みを続けていくためには、受益者負担という考え方も必要だと考えています。
今回の参加料は、「BOOK MEETS NEXT」全体の収入として、ポスターなどの製作並びに運営に関わる費用に充当するものです。

書店を含め各社が費用を出し合うことでより良い企画にしていきたいですし、お金を出すからこそ、費用対効果を真剣に考えますよね。その上で効果検証を行いつつ、意見をいただきながら次につなげていければと思っています。

 

業界内外を盛り上げる取り組みに

――店頭活性化委員長として携わっていらっしゃる「本の日」実行委員会の企画も用意されていますね。

「本の日」実行委員会では「秋の読書還元祭2022」「ブックカバー大賞」「店頭イベント助成企画」「湊かなえ店頭飾りつけコンクール」を行います。

読書還元祭は、長年親しまれてきた書店くじに変わり、2021年の春からスタートした企画です。今回は総額500万円分の「図書カードネットギフト」 をご用意しています。期間中に書店店頭に掲示されたポスターや店頭配布の「名画しおり」に掲載されているQRコードから応募いただいた方のうち、抽選で2200名の方に賞品が当たります。

また、一般の方からデザインを募集するブックカバー大賞を今年も実施します。「本の日」である11月1日に発表イベントを開催し、その日から参加書店約260店で大賞作品のブックカバーを配布します。

店頭イベントの助成は、各書店が実施するイベントの費用の一部を拠出するものです。現時点で全国から40ほどの申請が来ています。キャンペーン期間中は全国各地の書店でイベントが目白押しの状態を目指しており、秋の読書推進キャンペーンの公式サイトでも、いつ、どこでどんなイベントがあるのかを一覧で掲載しています。

湊かなえさんの「店頭飾りつけコンクール」は、『告白』 の文庫300万部突破と、来春に発売される『告白 限定特装版』の予約開始にあわせて開催するものです。『告白』をはじめとする湊さんの作品を店頭で展開していただき、北海道・東北、関東、中部、関西、中四国、九州・沖縄の6ブロックごとに、湊さんに優秀店舗を選んでいただきます。その6店舗にて、『告白 限定特装版』の発売に合わせた湊さんのサイン会を実施します。

この企画では、Twitter上で展開写真をハッシュタグをつけて公開することで応募が完了しますので、湊さんのファンをはじめ、広く一般の方にも力のこもったディスプレイを楽しんでいただけます。すでに1000店舗以上から参加の意思表明がありますので、発売に向けてどんどん盛り上げていきたいですね。

ほかにも出版社さんからの提案企画として、大沢在昌さんをはじめ、さまざまな作家さんのオンラインイベントやサイン会が予定されています。各社に主体となっていただき、さまざまな作家さんや作品がクローズアップされるような楽しいアイデアが続々と集まっています。

――まさに業界一丸となって取り組むキャンペーンとなっていますが、その意義についてはどのように感じていらっしゃいますか?

業界外の方に広く知ってもらうことももちろんですが、業界内を盛り上げていくことも重要な役割だと考えています。これまでも各団体や企業が独自に読書推進活動に取り組んできましたが、連携してより多くの方を巻き込むことで、「自分たちも参加しないと乗り遅れるのでは」という雰囲気を作ることも意識しています。

また、出版業界には強力なコンテンツがたくさんあります。コミックや児童書、文芸など各社が得意なジャンルで企画を展開していただくことで、キャンペーンについて読者に伝わる機会が増えます。そういった意味でも一同に取り組むことで、より強力な展開になっているのではないでしょうか。

 

業界全体が揃って前を向いていく機会にしたい

――一方で、今後に向けて課題と感じていらっしゃることはありますか。

参加団体や企業の足並みは、まだ揃っているとはいえないところもありますので、こういう機会を通して前向きな形で合わせていければと思っています。

先行き不透明な時代ですので、今回のようにやってみて初めてわかることのほうが多いのではないかと感じています。慎重になりすぎて、石橋をたたき壊してしまっても何も生まれないですし、未来がわからないからこそまずやってみて、気付きを修正して行く方が時代に合っているのではないでしょうか。良かったことは継続して、直すべきところは改善する。そのアプローチを続けていくことを大事にしていきたいです。

――奥野さんのところには、間際になっても新たな企画のご相談があるそうですが、そういったアイデアも次回につながっていきそうですね。

こういった活動は続けていかないと意味がないですし、そのための仕組みに変えていくことが重要です。1年目でうまくいくことはなかなかないですし、5年、10年と進化を続けていくことでお客様にも定着していきます。「秋はやっぱり読書だよね」「今年はどんなすごいイベントがあるのかな」と期待感を持っていただけるよう、「やり続ける」という気構えを持って取り組んでいきたいです。

――今回はJPICが主体となって進められていますが、「続けていくための仕組み」についてはどのように考えていらっしゃいますか。

JPICは業界横断型の団体として、最初にお話しした通り、業界の課題解決のために取り組んでいます。主体としては適任と考えていますが、事務局の方々には今回もかなりのご負担をおかけしています。今後は取次さんや日書連をはじめ各関係団体が人員を出して、継続して運営できるような体制を整えていくことが必要ではないでしょうか。

――続けていくためには効果を実感できることも必要ですね。今後、効果検証なども実施されていくご予定ですか。

個人的には、このキャンペーンで来店客数や売上実績など、業界全体に対してどのくらいの押し上げ効果があったのかを検証していきたいと考えています。特に店頭イベントの助成企画については報告書の提出が必須ですので、実施状況の詳細がわかる仕組みになっています。

キャンペーンによってこの文庫が売れた、予約がたくさん入ったという結果が今後につながる材料になると考えていますので、今回の成果についてみなさんに報告する機会を設けていきたいと思っています。

 

本を扱う書店ならではの地域貢献を模索

――さきほど店頭イベント助成企画に多くの応募が集まっているというお話がありましたが、ブックエースさんではどのようなオリジナル企画を予定されているのですか。

今回のキャンペーンにふさわしい大型企画をということで、2021年にショパン国際ピアノコンクールで第2位に入賞した反田恭平さんのイベントを開催予定です。反田さんは今年の7月に『終止符のない人生』を出版されていますが、イベントでは演奏もしていただいて、地元の吹奏楽をやっている高校生を招待できればと考えています。

また、弊社は茨城県ビブリオバトル実行委員会の事務局を務めています。今年もキャンペーン期間中の11月6日に全国大学ビブリオバトルの地区決戦大会が行われ、5大学から選ばれた代表者5人が挑みます。昨年は特別枠が設けられたことで茨城県から2人が本戦の決勝戦に進出して、そのうち1人が準グランドチャンプ本を獲得しました。今年はぜひグランドチャンプ本を目指してもらおうと、盛り上がっています。

――実行委員さんの意気込みも素晴らしいですね。

はい。僕が実行委員長ですから(笑)。

いまは、これらを含めこのキャンペーン期間中に業界全体、自社ともにたくさんの企画が実施されますので、その告知方法について議論を重ねています。どのような告知をすれば、より多くの読者の方に参加してもらえるのか。独自の販促ツールを工夫しています。

――具体的にはどのようなものを作成されていますか。

期間ごとの展開内容と方法を説明した展開指示書を作成しており、完成次第、それをもとにWEBで社内説明会を実施して徹底を図っていきます。また、指示通りに展開できているかどうかのチェックリストも用意しています。効果はあると考えていて、実際に昨年の読書還元祭では、全国から約7万件くらいあった応募のうち、3分の1は弊社のお客様からだったと聞いています。

――それはすごいですね。実際の告知はどのように取り組まれているのですか。

まずは応募用のQRコードが記載されているポスターを、売場にわかりやすく掲示します。その上でポケットティッシュサイズのチラシをご用意して、購入されたお客様にレジでお渡しし、「図書カードが当たるキャンペーンをやっているので、ぜひご応募ください」というトークを徹底しています。

当店に来店されているお客様であれば、当選された場合はその図書カードを当店でご使用いただける可能性が高いですよね。であれば、一人でも多くのお客様に当選していただいて、当店に帰ってきていただきたい。自店の売上につながることでもあるので、毎年万全の体制で臨んでいます。▲ブックエースでお買い上げのお客様に配布している手配りチラシ(本画像のQRコードはダミーです。ぜひ全国書店の店頭ポスターにて読み込んでください!)

――さきほどのビブリオバトルのサポートをはじめさまざまな取り組みをされていますが、読書推進活動への思いをお聞かせください。

読書推進活動において、いろいろなキャンペーンやイベントを通して店舗に来てもらう取り組みはもちろん必要ですが、中長期的には「本を好きな人を増やす」ことが欠かせません。弊社では毎年夏休みに「小学生読書マラソン」を開催しています。本好きの方に聞くと、8割の方は小学生の時に本を好きになっていますし、その理由は「たまたま読んだ本が面白かったから」という声が多い。そのため、小学生時代に素敵な本に出会うきっかけづくりとして、自治体にもご協力をいただき続けています。

――地域との取り組みも、今後広げていかれると伺っています。

本を読んで知識を得ることがその人の世界を大きく広げます。本を読む人を増やすことは知的な生産活動ができる人を育て、地域を活性化させることにつながります。企業として自分たちがお世話になっている地域に、そういった側面からも貢献していきたいと考えています。

昨今は、人口流出や少子化といった問題を抱える自治体が多くあります。もはや子育て支援策は当たり前でそれだけでは流入の増加にはつながらないですし、流入が進まない背景としては買い物をする場所やコミュニティがないといったことが大きいようです。地域によって違いはあると思いますが、そうした場所で欲しい施設についてアンケートを取ると、ニーズが高いのはカフェ、ユニクロ、書店の3つなのだそうです。

そういったご意見を受けて、最近は自治体からご相談をいただくことも多く、他企業とともに地域の開発に取り組んで、コミュニティの核になることも目指していきます。店舗やイベントを通して、街の人たちが集えるような場所を作り地域のハブとなることは、書店の生き残り策の一つして示せる形でもあると思います。一社でできることは限られますが、さまざまなつながりを持つことによって、より高い価値を生み出すこともできるでしょう。

特に「本」はみなさんがいいイメージを持っていて、一緒にやりましょうとお声がけをして断られることは、まずありません。そういった面でも、「本」という知的財産の、廃れることのない価値をひしひしと感じています。今回の読書推進キャンペーンでも、本を扱う業界として一丸となって盛り上げていき、読書の可能性と魅力を発信していければと考えています。

※「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT」のイベントの詳細については、公式サイトをご確認ください。

 

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(「日販通信」2022年11月号より転載)