2021年9月1日、双葉社のWebマガジン「COLORFUL」がリニューアルされ、文芸総合サイトに生まれ変わりました。トップページを覗けば小説、エッセイ、コラムの連載にブックレビュー、新刊案内などさまざまなコンテンツが目に飛び込んできます。
インターネット上で文芸コンテンツを発信する媒体の先駆けとして、10年以上の歴史を持つ「COLORFUL」。そんな文芸総合サイトの新たな中身とこれからの展開について、編集長の大城武さんにお話を伺いました。(聞き手:ブックジャーナリスト 内田剛)
「COLORFUL」編集長 大城 武 氏
Webと紙の両輪で多様なコンテンツを届ける
――まずはリニューアルのきっかけから教えてください。
Webという媒体を、文芸作品の発表の場としてだけでなく、プロモーションの場としても重要なものとしてとらえています。作品、作家さんを広く知っていただくという意味では、これまで紙、なかでも新聞広告が主流だったのですが、これからは第2、第3の手段を開発していかなければなりません。
自社にこうしたツールがあれば著者インタビューもアーカイブできますし、帯替えをしたといったプチ情報もひとつのニュースとして読者に届けることができます。
弊社には「小説推理」が文芸誌としてありますが、同誌で執筆していただく作家の方にとっても、「COLORFUL」という媒体で、紙とは違った形で読者へアプローチできることも相乗効果として期待できると思っています。
――リニューアルにあたって一番意識した点はどこですか。
読みやすさです。複数ページに分割されていると、ページめくりの手間が発生してしまいます。そういう煩わしさを読者には与えないように、基本的に縦スクロールで全文が読めるようにしました。
回遊性も工夫した点です。サイトの中で、さまざまな作家や作品に触れながら読者に遊んでいただいて、どこから入ってもすべて体験できるような仕組みにしています。
――「COLORFUL」というWebマガジン自体はかなり前からありましたよね?
はい。10年以上前からありました。今回のリニューアルに際して改めて「COLORFULとは?」というページを作り、サイトとして目指す方向性をメッセージとして発信しています。
小説はもともとジャンルに縛られないものと考えています。私自身、「COLORFUL」を特定のジャンルに特化させたくはないですし、そもそもバラエティー感を彷彿とさせる意味合いでつけられたサイト名ととらえています。
――大城さんは「COLORFUL」の3代目の編集長だそうですね。
「COLORFUL」ができた時から文芸出版部の部員が編集長を務めており、その流れで私にお鉢が回ってきました。現在4年目となります。
小さい出版社ですので、「小説推理」も作りますし、連載をまとめて単行本にもします。Webについても編集部のメンバー全員がチームとなって取り組んでいます。
鮮やかなイラストに込められた想い
――トップページのイラストも綺麗で印象的ですね。
イラストは北澤平祐さんにお願いしました。北澤さんは文芸ジャンルの装画も数多く手掛けられていますし、なにより見たときに心地よさを感じる画風を当初からイメージしていました。
北澤さんは幅広い作風をお持ちですが、今回は季節の草花と風景をテーマに描いていただきました。定期的にイラストを変えることで、季節感を出していければいいなと思っています。
▲文芸総合サイト「COLORFUL」のトップに据えられた北澤平祐さんによるイラスト
――近い将来、イラストはダウンロードできるようになるそうですね。
弊社の営業部員からも評判で、「かわいい。壁紙にしたい」と反響がありました。僕自身にはそういう発想はなかったので、新鮮でした。イラストの魅力が定期的にサイトを訪れていただくきっかけにもなると思い、急遽ダウンロードのアイデアを盛り込みました。
――壁紙もいいですが、ブックカバーで欲しいと思いました。
いいですね。検討しましょう(笑)。
キーワード検索という本との新しい出合い方
――想定している読者層は?
30~40歳代の女性がコアターゲットです。
また、リニューアル前に当サイトのデータ解析を行ったのですが、そこで、いわゆるこれまでの“本読み”とはまた違う読まれ方をしているという発見がありました。
――それは非常に気になります。
どんなワードが検索されているかを調べたところ、「生きづらい」「死にたい」がランキング上位という衝撃的な結果が出てきました。
ちょうどその頃、連載中の作品にネガティブな心情を描いたものがあったことも影響しているかもしれません。読者も自分の想いに引っかかる、境遇に近い小説を探しているようでした。物語に救いを求めているのか、同じ境遇に共感や癒しを求めているのか、いずれにしてもキーワードで本を探す方が多いのは確かです。
そこで、今回のリニューアルに際して「#(ハッシュタグ)」での検索を意識しました。たとえばお仕事小説というジャンルにしても、仕事が楽しいのか辛いのかによって検索されるキーワードは違ってきます。料理小説も「美味しい」や「癒し」をキーワードとするなど、読者の気持ちにあった作品にリーチできるよう工夫していきたいです。
――書店の店頭でも泣ける、笑えるなど、小説の“効能”を聞かれることが増えました。キーワード検索は読者ニーズがあると思います。
また、今後は特色のある書店さんを紹介するなど、書店や書店員さんに関する記事も掲載していきたいです。地域や規模にかかわらず、そのお店独自の取り組みや街の魅力も含めてコラムの形で紹介したいと思っています。
昨今は、書店の減少が続いていて寂しく思っています。書店の数だけ物語があって、なくなる書店を惜しむ声も多く聞かれます。店主や読者の想いが伝わるドラマを読み物にして、届けていけたらと考えています。
――僕も昨年まで約30年間書店に勤務していましたが、双葉社は営業力のある出版社として定評があります。御社ならではの書店とのパイプを活かして、現場の肉声を拾ってもらえるとうれしいですね。
「COLORFUL」はこれからどんな色に染まるのか
――今後はどんな作品を掲載していく予定ですか?
たとえば「小説推理」に「したいとか、したくないとかの話じゃない」を連載していただいた脚本家の足立紳さんは、夫婦の赤裸々な日常をフィクションとして発表されています。ひと癖ある内容の本でも、読んで笑えたら「小説もいいな」と気づいてくれる読者が増えていくのではないでしょうか。
リニューアル前から編集方針として持っているのが、書き手と編集者にとって自由に、便利に使える場であるということです。「小説推理」といい意味で棲み分けをしながら、Webならではのフットワークの軽さを活かし、文芸誌には向かないような実験的な作品の掲載や、刺激的な書き手を積極的に登用していきたいです。
――「COLORFUL」はこれからいったい何色に染まっていくのでしょうか。
この色と決めないところに良さがあると思っています。雑誌は昔から編集長のものと言われてきましたが、「COLORFUL」はいろいろな編集者や書き手に色を染めてもらいたいです。
編集者の数だけいろいろな企画が出てきますが、僕が唯一条件を出しているのは必ず単行本にするということです。書き手にとってはモチベーションに、編集者にとっては責任を持つことにつながります。
――そういった取り組みが、さまざまな本と出合うきっかけにつながりそうですね。
「COLORFUL」を入口に双葉社の本をより知ってもらいたいと考えています。また「小説推理」と連携することで、強力な書評陣が推薦する、他社本も含めた注目の本を、「今月のベスト」という形でジャンルを超えてご紹介していきます。
小説は答えが一つじゃないことや、事実ではなくとも真実を教えてくれます。そんなフィクションならではの豊潤な世界を味わっていただきたいです。本に触れると世界が広がります。そのきっかけに「COLORFUL」があるとうれしいです。
文芸総合サイト「COLORFUL」
https://colorful.futabanet.jp/
【取材を終えて】
抜群の営業力で書店員たちの支持を集め、新人作家を生み出し育てることでも定評のある双葉社がWeb媒体の強化に乗り出したことは当然の流れだ。紙からWeb、そしてSNSへ。自由な感性で編集者たちが書き手を刺激し、より面白い物語がここから芽吹いていくであろう。ポイントとなるのは新たな読者の誘導と書店員たちとの連携である。さまざまな色に染まる可能性を秘めた文芸総合サイト「COLORFUL」がこれからどんな化学反応を起こすのか楽しみでならない。
▼元書店員であり、「POP王」としても知られる本記事を執筆したブックジャーナリスト・内田剛が作成したPOPがこちら