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Interview:史上初の参加型謎解きミステリー!小説を新たな形で体験する、岩井圭也の話題作

いつも駅からだった

岩井圭也さんプロフ2

岩井圭也
1987年生まれ、大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野生時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。

 

いつも駅からだった

『いつも駅からだった』
著/岩井圭也
祥伝社文庫
836円(税込)

 

“小説×謎解き”を楽しむ新しいジャンルの本

作家デビューして6年。新作を発表するたびに作家としての新しい一面を見せ、注目を集める岩井圭也さん。この秋に刊行された『いつも駅からだった』は、小説を新たな形で体験できる話題作です。

「この本は、京王電鉄の5つの駅を舞台にした連作短編シリーズですが、普通の短編集とはちょっと違い、各編に“謎解き”の要素を盛り込んでいます。小説を読みながら登場人物と一緒に謎解きに挑戦したい人は、謎が出てきたところでいったんページをめくるのをやめて推理してもいいし、普通の小説のように読み進めて最後に真相を知ることもできる。“小説×謎解き”という、今までにないジャンルの本です」

最初は、京王電鉄とのコラボで始まった企画で、小説の前半はウェブサイトで試し読みできますが、結末は所定の場所で無料配布される冊子を読まないと確かめることができないというもの。さらに、冊子を手に入れた人だけが、小説内の二次元コードから声優による朗読を聴くことができ、それを聴きながら街歩きを楽しめる画期的な企画でした。
「第一弾は下北沢編で、公開されると予想をはるかに超える反響があり、高尾山口編、調布編、府中編、聖蹟桜ヶ丘編と続きました。小説を無料で配布するのは出版業界では考えられないことですが、最終的には5編合わせて累計9万部以上を配布しました。嬉しかったのは、『久しぶりに小説を読んだ』『これを機にまた小説を読もうと思う』といった感想が多かったことです」

このシリーズを本にして、全国の人に読んでほしいという思いが実現し、文庫本として出版されました。

 

気になる小説の結末は舞台となった駅で配布された。街歩きと小説を掛けあわせた新しい試み。

 

岩井圭也さん3

岩井圭也さん
1987年生まれ、大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。2018年『永遠についての証明』で第9回野生時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。『最後の鑑定人』『楽園の犬』で日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、『完全なる白銀』で山本周五郎賞候補、『われは熊楠』で直木賞候補。『文身』でKaBoSコレクション2024金賞を受賞。他の作品に『水よ踊れ』『付き添うひと』『舞台には誰もいない』などがある。

 

謎解きミステリーに隠された心あたたまるストーリー

『いつも駅からだった』の5編に共通しているのは、謎解きミステリーのおもしろさとファンタジーを思わせる優しさが重なりあっていることです。たとえば調布編は、暗号のような手紙を孫娘に送り、姿を消した祖母を、孫娘が手紙の文言に隠された真意をさぐりながら探しだすストーリー。どの物語も、すべての謎が解き明かされたときにほろっと涙して、心があたたかくなります。

「この小説は、自分が持っているいろいろな要素の中から、一番ハートウォーミングなところを使って書き上げました」

昨年は7冊、今年も4冊と次々と新刊が出ていますが、毎回、全く異なる題材をテーマにした作品を発表している岩井さん。今年9月に刊行された『舞台には誰もいない』は、日常でも演じることをやめられなかった女優が、舞台のリハーサル中に不可解な死を遂げ、その「死」の真相を探るほどに、次第に女優の「生」が露わになっていく――という長編小説で、同じ作者が書いたとは思えないほど作風が違っています。

「意識して作風を変えているというわけではなくて、ノンフィクションを読んだりニュースを見たときに、ちょっと違和感を覚えたこととか、外から刺激を受けてテーマを思いつくことが多いです」

書きたいテーマがたくさんある中で、これから自分はどういう作家になっていきたいのか、どういう作品を届けていきたいのかを考える新たなステージにきていると話します。

 

ふらっと立ち寄った書店で小説を書く夢を思い出す

岩井さんに「小説を書きたい」という思いが芽生えたのは、小学4年生のとき。その思いはずっと残っていたものの小説家を目指していたわけではなく、好きな生物を学ぼうと北海道大学農学部へ進学します。

「大学に入ってからは、ほとんど本を読みませんでした。でも、大学2年の終わりに剣道部の関東遠征で東京に滞在し、空き時間にふらっと立ち寄った書店で、なぜか急に“俺は小説を書くんじゃなかったのか”と思い出したんです」

ただ、すぐに書き始めても書けないだろうと、大学院を修了するまでジャンルを問わず本を読むことに集中。その間にも、小説のアイディアを書き留めていました。

「東京の企業に就職して、新人研修の期間は結構時間があったので小説を書き始め、原稿用紙100枚くらいの小説を書き切りました」

次に300枚ほどの長編が書けたので新人賞に応募してみると、思いがけず1次審査を通過。作家になる夢が現実的になり、文学賞に投稿するようになったといいます。

「それから作家デビューまで、結局6年かかりました。デビュー後も仕事を続けながら小説を書いていましたが、妻が『会社を辞めてもいいよ』と背中を押してくれ、2年前に作家専業になったんです。じつは妻は山形の出身で、八文字屋さんは以前からなじみのある書店でした」

つねに新しい挑戦を続けている岩井さん。次は一体どんな作品が生まれるのか……、いつか山形駅から始まる謎解きミステリーを読んでみたい――そんな期待がふくらみます。

 

紙の本でしか解けない、もう一つの謎が??

史上初の参加型謎解きミステリーとして話題の『いつも駅からだった』には、もう一つの隠れされた謎が! 書店で紙の本を購入した人だけが楽しめる謎が密かに隠されています。どんな謎が隠されているのか、ぜひ本を手にしてお楽しみください!

 

(取材・文/たなかゆうこ)


※本記事は「八文字屋ONLINE」に2024年11月15日に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。

 

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