怪談愛好家を唸らせた『怪談青柳屋敷』の続編が登場! ミステリ作家が丹念に聞き集めた、しみじみ怖くて不思議な実体験の数々。
「浜村渚の計算ノート」シリーズで知られる人気ミステリ作家の青柳碧人は、実は無類の怪談好きでもある。今春にはその趣味を生かし、怪談業界を題材にしたミステリ『怪談刑事』を発表、そのユニークな試みが話題を呼んだ。本書はそんな著者が昨年刊行の『怪談青柳屋敷』に続いて手がけた、待望の実話怪談集の第二弾。仕事の合間を縫って蒐集された怪談が、残暑の厳しさを忘れさせてくれる。
たとえば表題作「踏切と少女」は次のような怪談だ。ある男性が自宅に戻る途中、踏切のところで60歳くらいのおばさんと5、6歳くらいの少女を見かける。少女はおばさんの手首を握りながら、男性のことを睨みつけてきた。おばさんが掴まれていた手を振り払うと、少女は恐ろしい形相で男性の方に手を伸ばしてくる。この子はこの世のものじゃない、そう気づいた男性は走って逃げたという。
少女の正体は最後まで不明のままで、一般的なエンタメ作品としては尻切れとんぼなのだが、その余白のある語りが生々しい恐怖とリアリティを生んでいる。印象深かったのは体験者がふと「今の体験はきっと、二度としないんだろうな」と確信したというくだり。この一言には体験者ならではの異様な説得力があり、通り魔のような出来事を一層忘れがたいものにしている。
テーマ別に分類された怪談が、屋敷の部屋になぞらえられているのは前巻と同様。子どもが出会った怪異を納める「子ども部屋」、猫にまつわる怪談が並んだ「猫ちぐら」、病院が舞台の「医務室」など9章からなり、怪しい部屋を順番に訪ね歩くような楽しさがある。読む人の恐怖のツボによって居心地のいい部屋は異なるだろうが、私は“よくわからない話”をテーマにした「行き止まりの階段」がお気に入りだ。大根が話しかけてきたり、電車の両隣に座った乗客が意味不明な会話を始めたり、という従来の怪談の枠からもこぼれ落ちそうな妙な体験談にこそ、創作では味わえない実話の醍醐味があるように思う。
それにしても人はなぜ、怪談を語り続けるのだろうか。それは怪談でなければ伝えられない感情や風景が、この世には確かに存在しているからに違いない。本書には怪談マニアの作者が丹念に聞き集め、巧みに作品化した人生の忘れがたい一瞬が詰まっている。読んでいると「そういえば自分も……」と記憶の蓋が開きそうになるのがまた面白い。何か思い出した人がいたら、ぜひ作者までご一報を。第3巻に掲載されるかもしれない。
- 踏切と少女 怪談青柳屋敷・別館
- 著者:青柳碧人
- 発売日:2024年08月
- 発行所:双葉社
- 価格:704円(税込)
- ISBNコード:9784575527766
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・青柳碧人さんの対談と、『踏切と少女 怪談青柳屋敷・別館』の試し読みが公開されています。
『小説推理』(双葉社)2024年10月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
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