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【Vol.12:八木詠美】編集者が注目!2023 年はこの作家を読んでほしい!

新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。

まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

筑摩書房編集者 山本充さんの注目作家は「八木詠美」

八木詠美(やぎ えみ)
1988年長野県生まれ。東京都在住。早稲田大学文化構想学部卒業。2020年、「空芯帳」で第36回太宰治賞を受賞。同作は現在世界13か国語で翻訳が進行しており、2022年8月刊行の英語版は発売後まもなく増刷され、ニューヨーク・タイムズの今年の収穫に取り上げられるなど話題となった。2023年2月、長編第2作『休館日の彼女たち』(筑摩書房)を刊行予定。

 

世界に通じる〈嘘〉の送り手

八木詠美さんは2020年に「空芯手帳」で第36回太宰治賞を受賞してデビューしました。

当時、私は太宰賞の事務局長も務めておりまして、社内選考で最初にこの作品を読んだときに、誰かプロが変名で応募してきたのかなと思うほどの面白さ、テーマの鋭さがありました。女性が少なく「女性だから」という理由で雑用が押しつけられがちな職場での女性差別といういまなおポピュラーであろう問題に、主人 公がはずみで「妊娠しました」と嘘をつくことによって、がらっと周囲の対応が変わり、偽装するために妊娠を学ぶことから自分も変わっていく物語は、シリアスであると同時にとてもユーモラスで、選考を忘れてただ一読者として楽しく読んだことを鮮明に覚えています。

キャッチーな設定とアクチュアルなテーマ、それをスムースに読ませる文章力は世界においても評価され、現在13か国語で翻訳が進行し、特に2022年の8月に刊行 された英語版は即座に重版となり、ニューヨーク・タイムズやニューヨーク公共図書館のことしのオススメ本に取り上げられるなど話題となりつづけています。

その八木さんの満を持しての長編2作目が2月に刊行予定の『休館日の彼女たち』です。

今回も、主人公がひょんなことから、美術館のヴィーナス像の話し相手(それもラテン語で)というアルバイトを引き受けるところから始まる不思議なお話で、幼少期のある出来事をきっかけに自分にしか見えない黄色いレインコートに覆われて、誰も傷つけず誰にも傷つけられない世界に安住していた主人公がラテン語で二千年近い時を生きる女神像と心(?)を通わせることで、それぞれがとらわれている世界から踏み出していく、人間と彫刻の垣根を越える奇妙で爽快なシスターフッド小説として、またさまざまにコミュニケーション不全を抱えがちな日本人へのひとつの処方箋として広く読まれてほしいです。

(筑摩書房 編集部 山本充)

 

空芯手帳
著者:八木詠美
発売日:2020年11月
発行所:筑摩書房
価格:1,540円(税込)
ISBN:9784480804990