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小説紹介クリエイター・けんごさんのTikTok・YouTubeで道尾秀介さん『N』が再び!

発売2年半後に6度の重版で単行本が10万部突破!

2021年に発売された道尾秀介さんの小説『N』(集英社)が2024年の今、ふたたび脚光を浴びて書店店頭で売れています。そのきっかけとなったのは、小説紹介クリエイターのけんごさん。本書の発売当初もけんごさんのTikTokで紹介されて売行きが加速しましたが、今年1月に再度、けんごさんが投稿内容を変えてTikTokとYouTubeで紹介するや否や、書店では本書が瞬く間に売れ、出版元の集英社では増刷に次ぐ増刷を重ね、10万部突破しています。

ここでは、けんごさんに『N』をふたたび取り上げた理由とともに、再度火が付いた要因などを伺いました。

けんご
1998年9月17日生まれ。福岡県出身、東京都在住。小説紹介クリエイター。
TikTokやYouTubeで、わずか1分程度で小説の読みどころを紹介する動画を次々に投稿。作品の的確な説明と魅力的なアピールに、SNS世代の10代〜20代から絶大な支持を得ている。

 

発売当初よりもTikTok再生回数上回る!

――まず、『N』を最初に紹介したのはいつでしょうか? その頃の動画の再生回数などの反響はいかがでしたでしょうか?

2021年10月の発売直後にTikTokで紹介させていただきました。発売1週間前に、たまたま集英社にうかがった際に『N』をご紹介いただき、とてもおもしろく拝読しました。そもそも『N』は発売前から話題になっていましたし、僕自身、道尾秀介さんの作品も大好きでたくさん読んでいました。今回(TikTok111万回再生、YouTube387万回再生=3月22日現在)ほどではなかったですが、当時の再生回数は、40万~50万回くらいだったと記憶しています。

『N』
著者:道尾秀介
発売日:2021年10月
発行所:集英社
価格:1,870円(税込)
ISBN:9784087717662

全六章。読む順番で、世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語。

すべての始まりは何だったのか。結末はいったいどこにあるのか。

「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。
定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。
ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。
殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。

道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える。 /集英社

道尾秀介オフィシャルサイト『N』より

 

――今年また『N』を紹介した理由を教えてください。

2つあります。1つ目は、道尾さんが2023年11月に『きこえる』という斬新なテーマの作品を上梓されたことです。発売時にTikTokで紹介させていただき、とても視聴者の反響が大きかったんです。

道尾さんはそもそも人気作家ですので『きこえる』は当然売れましたが、僕の紹介をきっかけに読んだ視聴者の方もいました。その時に初めて道夫さんを知った視聴者の方から、「他にどのような作品がありますか?」「『N』というすごい作品を紹介してください」といったリクエストがたくさん集まりました。それでもう一回紹介しようと思ったのです。

2つ目は、2020年11月末からショート動画の活動をしているのですが、当初はTikTokのみでした。今は、YouTubeでも活動しており(登録者数33.5万人)、YouTubeでも『N』を紹介したかった。その2つの理由で再度、投稿することを決めました。

@kengo_book 六章しか収録されていないのに、720通りもの物語が読める奇態な小説📚 『N』の紹介です! #本の紹介 #おすすめの本 #小説 #小説紹介 ♬ オリジナル楽曲 - けんご📚小説紹介

――同じ書籍を2回投稿するのは初めてですか?

実は、視聴者のリクエストが多いときなどは、しばしば2度投稿しています。ただ、反響でいえば、『N』がとても良いですね。そのほかにも、僕の妻の木爾チレンの作品『みんな蛍を殺したかった』も2度、紹介しています。結婚前に1度取り上げていましたが、結婚しましたのでもう一回リメイクして発表したら、もっと反響がありました(笑)。この2作が、2回目の反響が大きかった作品の代表ですね。

――1回目より2回目の方が反響が大きい理由は分析されていますか?

自分自身の"紹介の能力"が上がったのだなと思っています。1回目より2回目の方がはるかにうまく紹介できました。これは『N』だけではなく、さまざまな動画の投稿を重ねるたびにクオリティが上がってきています。ようやく今、「本の紹介」のベストの形が見えてきました。とはいっても、まだまだ模索中です……。

――具体的にどのように紹介方法が変わってきましたか?

始めた当時は、視聴者さんの反応を考えずに、ぼんやりと本紹介の正解を考えて投稿していました。今は、視聴者がどういうリアクションをするか、そこを想定して動画をつくるようになりました。つまり、視聴者からどのようなコメントが返ってくるかを予測しているのです。

例えば、『N』の場合、6章建ての物語にもかかわらず、順不同で720通りの読み方ができることが魅力です。これを説明するのに、「6の階乗」と言えばわかりやすいのですが、あえて言わずにまどろっこしく720通りの読み方を説明をしました。言った方がすんなり伝わりやすいけれども、言わない方がいい情報だと思ったのです。つまり、視聴者がコメントで「6の階乗」ワードで盛り上がるかもしれないなと。そうしたら、案の定、そうなりました。

ーー今は、どのくらいのペースで動画を投稿していますか。

今の制作本数は2年前よりも落ちていて、週に2、3本くらいのペースです。その分、再生回数が示す通り、1本あたりのクオリティは確実に上がっています。SNS活動者の中には、毎日投稿するのが正義という考え方の人もいますが、僕は投稿頻度は落ちたとしても、1本1本の動画のクオリティを上げていきたいですね。

動画制作は自分でやっています。動画にこだわりがあり、1フレーム単位で調整しています。この感覚は、僕自身でないとできない作業ですので外部へ依頼はしていません。

ーー紹介する作品の基準や選書のポイントなどを教えてください

最近でこそ、出版社さんから依頼をいただくことはありますが、自分が読んでおもしろいと思った作品だけを紹介しています。そこは通常の投稿と変わりません。これは、活動当初から意識していることです。

僕自身は、ミステリーやホラーなどの作品をたくさん読んでいて偏りもありますが、新刊を中心に好きなジャンルの好きな作品を紹介しています。既刊の場合も、例えば本棚を整理している時にたまたま見かけた本などSNS活動前に読んでおもしろいと思った本を紹介しています。

ーー道尾さんとは対談もされていますが、道尾さんの印象をお聞かせください。

道尾さんは、数々の作品からもひしひしと伝わってくると思うのですが、『N』を筆頭に『きこえる』や『いけない』など、本当に知恵を振り絞って、新たに読者を増やそうとする姿勢がすごいんです。

実際にお話をして、新しい読者に意欲的に作品を届けたいと考えられている作家さんだとを改めてわかりました。僕も小説を読んだことがない人にその魅力を伝えたいと考えて活動しています。大変僭越ではありますが、道尾さんの考えにも似ていると思っています。

道尾秀介(みちお・しゅうすけ)
1975年東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞を、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を、2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞を、同年『光媒の花』で山本周五郎賞を、2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。その他の著書に『向日葵の咲かない夏』『鏡の花』『いけない』『きこえる』など多数。

 

ーー今回の件で、さらに多くの人が『N』を手に取りました。既刊の作品を新しい読者に届けてくれるけんごさんの一連の活動は、出版業界にとってとても大事なことだと思っています。

僕が一番やってはいけないと思っているのは、「いまさらこの作品を」という考え方です。どれだけ売れている作品でも、どれだけ読まれている作品であっても、世の中には読んでいない人の方が確実に多いのです。これは小説だけではありません。漫画もアニメもゲームも、どんなコンテンツだって知らない人の方が多い。

出版業が衰退産業といわれていますが、「いまさら」という、この考えが現状を招いていると思っています。そう思ったきっかけが、昨年に紹介した『アルジャーノンに花束を』(早川書房)です。ドラマ化もされた相当な名著です。しかし、この作品が、近年では一番反響がありました。つまり、『アルジャーノンに花束を』ですら、読んでいない人が大勢いるということです。他の作品についても同様で、「いまさら」という思い込みは絶対にしてはいけない考え方だと、活動を通して学ぶことができました。

――『ワカレ花』で小説家としてデビューされたり、『江戸川乱歩 傑作選』を出版されたり、書店のイベントへ出演されたりと、本との関わり方が増えてきましたね。

ここ数年、自分の本の出版のほか、書評や巻末に掲載される解説文の寄稿、帯コメントの推薦文など、文章を書く仕事もいただくようになりました。僕の力で役に立てるのであれば、積極的に取り組んでいきたい。出版社や書店などのイベントに、ほぼ毎月、呼んでいただいております。今後も積極的に参加していきたいと考えています。

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