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縛られて、目隠しされて……告白された。容疑者はこの4人!?『正体不明と恐怖』

主人公の男子が、たくさんの女性から想いを寄せられる「ハーレム漫画」。男性諸氏ならだれもが一度は憧れる夢のシチュエーションです。あまりにも理想的過ぎる展開に(そんなわけあるかい!)という現実的なツッコミを入れてしまいながらも、(こんな状況、最高過ぎる……!)と、夢のような世界についズブズブとハマってしまうのが「ハーレム漫画」の面白さ。

本作もまた、そんな「ハーレム漫画」のひとつと言えるでしょう。

主人公となる高校生・石動(いするぎ)かなめは、かつて交通事故で両親を失い、自身も顔に大きな傷を負ってしまいます。それが理由で他人からも少し距離を置かれてしまっている現状。

学校から少し浮いた存在になっている石動は、スクールカウンセラー・須賀田鳥子(すがたとりこ)の策略により、この学校で問題を抱えている女子生徒4人のケアをすることになります。

この4人の女子生徒たち、それぞれに異なる悩みを抱えており、また、石動に対して悪い感情を持っているわけではなさそうですが、ストレートに「好き」を表現するタイプでもなく。そういう意味で、わかりやすい「ハーレム漫画」とは少し毛色が異なります。

永輪紫夕日(ながわしゆひ)が抱える悩みは、友人どころか家族相手でも、声を出すことができないこと。

伊舞七星(いまいななほし)の問題点は、現在調査中。明るく元気で、石動に対してちょっと警戒心はありながら、その言葉とは裏腹に、そこまで嫌ってはいない感じも。

杜下エリス(もりしたえりす)は、人前でマスクを外せないのが悩み。マスクに隠された素顔とも相まって、謎めいた魅力の持ち主です。

橙海凛空(とうみりく)はこの学校の生徒会長。視界左側の気配に恐怖を感じており、眼帯をすることでなんとかその恐怖から逃げています。

ひと癖もふた癖もありそうな4人の女子生徒たちですが、なかでも特筆すべきなのは、この4人の中の誰かが、石動の背中にカッターを突き付けた挙句、拉致したうえに正体を明かさないまま告白をするという、「好き」を拗(こじ)らせすぎた行為をしてしまう点。

これこそが本作のタイトルの由来ともいえるのですが、この物語は、石動に告白した生徒が誰なのかを、石動自身が探り当てていくミステリー仕立てのラブコメ、と言えるでしょう。

また、可愛いは正義という名言がある通り、石動がケアする4人の女子生徒それぞれのビジュアルもバッチリ。恋愛系の作品でヒロイン候補が可愛い、というのは必要不可欠な要素。しかもメガネにマスク、眼帯などバリエーションも豊富。一読者として、自分だったらこの子が気になる……と想像しながら楽しむこともできます。

個人的にはショートカット女子がひとり欲しいところですが。ちなみに自分が石動だったら、生徒会長の橙海さんが気になります。年上の強い女性がふと自分だけに見せてくれる信頼……これは燃えます。

こんな先輩に「別の日を私にくれよな」などと言われたら、もう即オチです。残り全ての日をあげたくなります。自分で言うのもなんですが、チョロいもんです。

個々の4人のキャラを観察すると、それぞれに魅力的な部分がいろいろわかってきますし、どの子たちも皆いい子に見えて、まさかこの中の誰かがカッターナイフ片手に男子をひとり拉致るなんて、と思ってしまいます。

でもそこが人間の怖いところ。素直になれない感情の大暴走。表の顔と裏の顔。きっとどんな人にも存在するこの裏面に、石動と読者は向き合うことになるのでしょう。

石動は、4人を前にして拉致&告白の事の顛末を共有し、このことを踏まえてなお、皆の問題を解決していくと力強く宣言します。恋愛には疎いながらも、モテる男なら確実に選ぶ正解ルートを辿る石動。

なんだかちょっと悔しいですが、こんな男なら自分が女子でも惚れてしまうかもしれません。欲望よりも誠実が前に出る天然モテ男・石動。しかもまだ高校生。4人の顔には早くも「好き」の2文字が浮かんで見えるような。

告白少女の正体、謎の彼女と石動の恋の行方、そして女子4人が抱える悩みの解決方法と、気になるポイント満載。自分にとっての推しの子と併せて、物語の行く末を見守りたくなる作品です!

(レビュアー:ほしのん)

正体不明と恐怖 1
著者:脊髄引き抜きの刑 フライ
発売日:2024年01月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065343197

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年2月7日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。