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【Vol.4:クリス・ウィタカー】編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!

新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。

まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

早川書房編集者 井戸本幹也さんの注目作家は「クリス・ウィタカー」

クリス・ウィタカー
ロンドン生まれの作家。フィナンシャル・トレーダーを経て、2016年に『消えた子供 トールオークスの秘密』(集英社)で作家デビューし、翌年の英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞。2021年には『われら闇より天を見る』(早川書房)で英国推理作家協会賞最優秀長編賞を受賞する。

 

人生の闇の中に射す、一条の光のような赦しを描いた一冊

新人研修の一環で、読んで内容をまとめてほしいと渡された一冊の原書。それがWe Begin at the End、のちに『われら闇より天を見る』と邦題がつけられる本との出会いだった。

著者はクリス・ウィタカー。当時は唯一の邦訳だった『消えた子供 トールオークスの秘密』(峯村利哉訳、集英社文庫、2018年)を読んで、犯罪が起こったときにどのような影響が人々に与えられるのか、ということを描くのがうまいと思っていた作家だった。

そんな彼の作品である『われら闇より天を見る』が、2021年度の英国推理作家協会(CWA)賞最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)の候補作になったということで、翻訳出版の検討のために、当時まだ入社したばかりだった私が試しに読んでみることになった。

読み終わったときに、これは絶対に邦訳されるべき作品だと強く思ったことを今でも鮮明に覚えている。慣れない英語での読書でもページをめくる手が止まらないリーダビリティの高さ、ミステリとしての完成度、ラスト1行の感動……。どこをとってもオールタイム・ベスト級の傑作だった。

物語の舞台はアメリカ、カリフォルニア州の海沿いの町ケープ・ヘイヴン。30年前に起きた、シシーという少女が命を落とし、命を奪った少年ヴィンセントが逮捕された痛ましい事件は、いまだにこの町に暗い影を落としている。

主人公を務めるのは、30年前の事件によって過去に囚われ続けている町の警察署長ウォークと、まだ幼い14歳の少女で自称「無法者」のダッチェス。30年の刑期を終えてヴィンセントが町に戻ってきたことをきっかけとして、ウォークは再び過去に向き合うことになり、ダッチェスは苛烈な運命に翻弄されていく。そして新たな事件が起こり、彼らは悲劇の渦へと飲み込まれていく――。

クリス・ウィタカーは、強盗に襲われ、重傷を負ったトラウマに立ち向かうために、犯罪と、犯罪の影響を主題にしたこの小説を書き始めたのだと言う。この小説に書かれているのは、過ちを犯した人間と、その過ちをどうすれば赦すことができるのかということだ。人は誰しも間違う。だが、そこからやり直すこともできる。闇の中から天を見上げるように、終わりから始めることができるのだ。2022年最も注目を集めた翻訳ミステリである本作を、ぜひお読みいただきたい。

(早川書房 ミステリマガジン編集部 井戸本幹也)

 

われら闇より天を見る
著者:クリス・ウィタカー、鈴木恵
発売日:2022年8月
発行所:早川書房
価格:2,530円(税込)
ISBN:9784152101570