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作家・中山七里さんに聞く 三省堂書店神保町本店の魅力と中山さん流「書店」の使い方

2010年のデビュー以来、驚異のハイペースでヒット作を生み出し続けている中山七里さんは、毎日1冊本を読むという並外れた読書家としても有名です。そんな中山さんは神保町に仕事場を構えていて、5月8日(日)をもって一時閉店となる三省堂書店神保町本店はまさにご近所。特に、同店2階にあるUCCカフェコンフォートの常連としても知られています。

作家として、また読者として日々三省堂書店神保町本店を「定点観測」しているという中山さんに、お話を聞きました。

(2022年4月1日取材/「日販通信」2022年5月号から一部編集してお届けします)

▲中山七里さん(UCCカフェ コンフォート 三省堂書店神保町本社ビル店にて)

 

書店は「物書きにとっての通信簿」

――中山さんは、こちらのカフェの常連でいらっしゃるそうですね。

僕の事務所が、このお店から歩いてすぐの距離にあるんです。最初に出版社さんと打ち合わせをする際に「事務所に近い喫茶店で」とお願いしたら、このお店を指定されました。その後も出版関係の人と打ち合わせとなるとこの場所になることが多くて、確かに同業者の人をよく見かけます。さすがに声はお掛けしませんけれど、おもしろいなと思って通っています。

――まさに出版関係者御用達のお店なのですね。

作家は特に、目の前にゲラを広げているのですぐわかります。僕は周りを観察するのは好きなのですが、観察されるのは苦手(笑)。連載のゲラでしたら、だいたい5分ぐらいで見られるので、注文した物が来る前には終わります。あとは話をしていることが多いです。

――中山さんのゲラチェックの早さは有名です。

500枚くらいの長編でもたいてい1時間で終わるので、編集者からゲラを受け取って確認して、この場でお戻しします。

自分で書いたものだからだいたい記憶していますし、仕事はさっさと終わらせてしまいたい(笑)。それに、メールや電話では伝わりにくいところもあるので、対面でやりとりした方がわかりやすい。そのスタイルを、デビュー以来12年間続けています。

――中山さんは、よく書店巡りをされるとのことですが、書店さんにある喫茶店はまさにうってつけの場所ですね。

このカフェに来たら、必ず三省堂書店の店内を見て回ります。というのは書店さんも商売なので、当然にシビアなところがあって、売れる本は目立つところに置いてあるし、その逆もまたしかりです。

評価が良くて話題になった本でも、残念ながら売れるとは限りません。店頭を見ると、「今、本当にお客さんが求めているのはこういう本なのだな」ということや、業界内の評判と世間のニーズが乖離している場合も見て取れます。流行りに追従するわけではないですが、どういう本が求められているのかについては、常に把握しておきたいですし、来るたびに勉強になります。

その分、書店というのは物書きにとっては通信簿みたいなもので、自分の本がどこに、どのように置かれているかで扱いがわかってしまいます。僕は本が好きなので本屋さんは本来憩いの場なのですが、商売にしてしまうとなかなかそれだけとはいきませんね。

 

皆に愛されるオールマイティな書店

――三省堂書店神保町本店は本の街のランドマークともいわれるお店ですが、どういったところをもっとも参考にされているのですか。

毎日来て棚を見ていると、この本は「飛び抜けて売れているな」ということはもちろん、じわじわと動き出している本もよくわかります。商品を補充する時間が決まっていたりすると、さらに状況が掴めます。今はそこまでやっていませんが、昔は店内で1時間粘って、定点観測していたこともありました。

特にこのお店は、平日の、いわゆる混雑する時間帯以外でも常に多くのお客さんがいらっしゃいます。本の街といえど、神保町で新刊を販売しているのは書泉グランデや東京堂書店などほんの数軒ですよね。その中でも三省堂書店さんは客層に偏りがなく、老若男女が満遍なく来店している。皆さんから愛されている、オールマイティな書店だなという印象があります。

――建替えを記念した店内の展示では、驚かれたことがあったとか。

いま、エスカレーターの壁にズラッと作家の写真が飾られています。立松和平さんや西村京太郎さんをはじめ、この店舗でイベントに登場した錚々たるメンバーが並んでいて、「懐かしいな」「さすが神保町本店だな」と眺めながらエスカレーターを降りていたら、最後に自分の写真が出てきてびっくりしました。ちょうど1階に降りるところだったので、ずっこけなくてよかったです(笑)。

――あのお写真はいつ頃撮影されたものですか。

『闘う君の唄を』(朝日新聞出版)のサイン会の時のものなので、2015年ですね。

闘う君の唄を
著者:中山七里
発売日:2018年08月
発行所:朝日新聞出版
価格:726円(税込)
ISBNコード:9784022648945

――新しいビルの竣工は3~4年後ということで、しばらく仮店舗での営業となるそうです。中山さんが新店舗に期待されることはどのようなことですか。

神保町のランドマークということもあって、三省堂書店に置いてある本はどれも確かです。ビジネス書や専門書、学習参考書などそれぞれのジャンルが充実しているので、それはもちろんそのまま、それに加えてマニアックなものや、ちょっと怪しげな本を扱う一区画を作っていただけるとうれしいですね。

一つのジャンルに特化した新刊書店は神保町にもそうないので、三省堂書店さんにそういう作品をまとめたフロアが一つぐらいあってもおもしろいなと思います。

 

本の“手触り”はリアル書店でないとわからない

――書店数の減少が問題になるなど、厳しい状況が続いています。

コロナ下では、この神保町本店をはじめ、多くの書店が休業していた時期がありました。その間はネット書店で買う人が増えましたが、緊急事態宣言が明けて営業を再開した時には、多くの人が書店に殺到したことは記憶に新しいと思います。やはり、皆さんリアルな書店を求めているし、そのニーズにより応えていくことで、書店は生き残れると信じています。

何より「こういう本を探しに来たけれど、隣に置いてあった本が気になる」「知らなかったけれど、こんな本も出ていた」と発見できるのはリアル書店ならではの強みですよね。

加えて三省堂書店さんは、突出した発信力のある書店員さんを送り出しています。どの本が売れているかがわかるだけでなく、「この本を売りたい」という想いをアクティブに出せる方の棚づくりには特色があって、必ず特定の場所に売りたい本を置いていることもあります。そんな想いや特徴がわかってくるのも書店巡りのおもしろさですね。

――中山さんが、書店員さんの棚づくりそのものを楽しんでいらっしゃる様子がうかがえます。中山さんは毎日1冊本を読まれるとのことですが、そういった棚から本を選ばれることが多いのですか。

平台に置いてある本はたいてい読みます。書店さんが「これを売りたい」と思っている本ですからね。小説に限らず、できる限り目を通すようにしています。

読書は僕にとって役に立つかどうかではなく、食事と一緒。それを摂らないと死んでしまいます。実際に、食事を抜くことはあっても、だいたい毎日本を1冊読んで映画を1本見る。そんな生活を、中学生のころから続けています。

特に、本はもっともコストパフォーマンスに優れたエンターテインメントです。どこでも楽しめるし、機械も電気もいりません。

これは古い人間の感覚かもしれませんけれど、本の手触りはリアル書店でないとわかりません。本は内容も大事ですが、装丁や、ハードカバーなのかソフトカバーなのか、文庫にしても各社で断裁の仕方が違うし、スピンの有無もある。本を好きな人間は、そういったことをすべて触感で覚えています。そういうものに魅力を感じる人たちがいる限りは、紙の本も書店さんもなくならないと思っています。

 

「とにかくおもしろい小説を」と生み出された『人面瘡探偵』シリーズ

中山七里さんの新刊『人面島』は、毒舌人面瘡のジンさんと、ポンコツ相続鑑定士ヒョーロクが事件に挑む人気シリーズの第2作。発売元の小学館も神保町にあり、本作の打ち合わせやゲラチェックもUCCカフェコンフォートで行われました。

人面島
著者:中山七里
発売日:2022年03月
発行所:小学館
価格:1,760円(税込)
ISBNコード:9784093866408

編集者のリクエストに応じて自在に作品を生み出してきた中山さんですが、本作の連載立ち上げ時のオーダーは「とにかくおもしろい小説を」だったそう。

横溝正史の名作『犬神家の一族』へのオマージュだったというデビュー作『さよならドビュッシー』。それをもう一度やってみたいと書かれたのが、『犬神家の一族』と『悪魔の手毬唄』にインスパイアされた前作『人面瘡探偵』です。『人面島』は『獄門島』+『八つ墓村』だそうなので、それがどのように中山さんならではのミステリーとなっているのか意識して読んでみると、また読書の楽しみが広がりそうです。

 

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