本の街・神保町にある大型書店、三省堂書店神保町本店、東京堂書店神田神保町店、書泉グランデは6月2日、2025年上半期のベストセラーランキングを発表しました。※現在、三省堂書店神保町本店は建て替えのため小川町で仮店舗営業中
徒歩10分圏内にある3書店ですが、「ほぼ同じ本がランキングに入っていない」という結果になりました。関係者一同もびっくりしているそうです。
ベストセラーランキングはオールジャンルで集計し、「売上冊数」と「売上金額」の2種類を発表しています。それでは各書店のランキングをみていきましょう。まずは売上冊数ベスト10です。
売上冊数ベスト10
三省堂書店神保町本店
東京堂書店神田神保町店
書泉グランデ
3書店共通のランクイン作品はなし!
3書店共通でランキングに入った作品は1つもなく、『よつばと!(16)』と『本なら売るほど(1)』 が2店舗でランクインしたのみでした。それぞれのお店の個性が活きたランキングになったようです。
3書店の店長から自店のランキングと、他店のランキングについてのコメント・分析は次の通りです。
【三省堂書店神保町本店・店長の杉浦さん】
当店のランキングの上位には、幅広い層から支持される人気作や、教養を深める一冊がランクインしており、お客様の知的好奇心に応える品揃えができていることを嬉しく思います。
また、東京堂書店さん、書泉グランデさんのランキングも拝見し、それぞれのお店が持つ独自の個性や強みが色濃く反映されていることを感じました。東京堂書店さんは幅広いジャンルを網羅しつつも、学術・教養書に強みをお持ちだと改めて認識いたしました。
書泉グランデさんは、鉄道やアイドル関連といった専門性の高いジャンルで独自の地位を確立されており、その熱心なファン層を掴んでいらっしゃることに感銘を受けました。
両店のランキングから、書店の多様なあり方や、お客様のニーズに応えるためのヒントを多く得ることができました。
【東京堂書店神田神保町店・店長の星野さん】
台湾出身の漫画家・高妍さんの新作『隙間』が第1位、第2位。当店でコミックが第1位になるのは非常に稀なことだと思います。当店には台湾に熱い担当者がおり、昨年閉店したカフェの空きスペースを活用して「刊行記念ブックフェア&パネル展」を開催しました。シリーズ続刊3巻もランク外ですが売れ続けています。
第3位の『読書アンケート』は各界の著名人152人の最近の本の収穫を見ることができる本で、発売前には発売日の問い合わせを数多くいただき、お客様の注目度が高いと感じます。
第10位の『校正・校閲11の現場』は、刊行時に3週連続で当店の週間ベストとなり、通算11回のベスト10入りとなりました。著者の牟田都子さんの既刊『文にあたる』も同時に売れて、既刊も週間ベスト同時ランクインの快挙を成し遂げました。
それにしても三者三様、ここまで違うとは驚きです。書泉さんの時刻表(鉄道)関連本の強さがここまでだったとは…。理工書・プロレス関連がもう少し出てくるかと思いましたが、鉄道強しですね。三省堂書店さんと東京堂の第1位、第2位、気づけば両方ともKADOKAWA! 昨年はシステムトラブル・注文システムへの影響など大変な年でしたが、今年は両店ともよく売れています…。
【書泉グランデ・店長の高松さん】
鉄道ジャンルがワンツースリーフィニッシュ。
大きく話題にしていただいた『ゲームフリーク』は復刊施策(「書泉と、10冊」)、『聖と性』はたくさんの方にご参加いただいた“まりてんさん”のイベント、というわけで、純粋に(と言うのも変ですが)売場でたくさん売ってランキング入りしたのが『よつばと!』最新刊のみで、他は全部鉄道ジャンルという何とも偏った…とても特色のあるランキングとなりました。
まさに「鉄道の聖地」の名にふさわしい結果。
鉄道、すごい!
最近は復刊施策「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」を中心に頑張って文芸書にも力を入れていますが、まだまだ三省堂書店さん、東京堂書店さんにはかないません。
ちなみに三省堂書店さん、東京堂書店さんにランクインしている『本なら売るほど』の1巻は、グランデでは第11位でした。
う~ん、惜しい!!
続いて「売上金額」の上位ベスト10です。これは本の値段や、店舗でのイベントなどで、数字が大きく動きますので、さらに各店舗の特長がでるランキングかもしれません。
売上金額ランキングトップ10
三省堂書店神保町本店
東京堂書店神田神保町店
書泉グランデ
売上冊数ランキングには登場しなかった、1冊28,600円の『物語要素事典』が東京堂書店神田神保町店、書泉グランデでランクインしました。ネットニュースや新聞でも話題となりました。高くても分厚くても欲しいものは欲しい!と清水の舞台から飛び降りるつもりで買うことから「キヨブタ本」と言われているそうです。
3書店の店長は、「この本はこんな感じで売りました!」「この本が売れているとはうちでは考えられない!?」などの視点からコメントされています。
【三省堂書店神保町本店・店長の杉浦さん】
当店の金額ランキングでは高単価の書籍や幅広い層に購入されることの多い賞レース関連書籍が売上を牽引していることが分かりました。冊数ランキングでは上位でなくとも、専門性の高い書籍や充実した内容のものが金額面で大きく貢献しており、お客様が書籍の内容や価値を重視されていることが伺えます。
また、東京堂書店さんの金額ランキングからは、単価が高い書籍が売上を支えていることが推察されます。これは知的な探求心を求めるお客様の層が厚いことの表れであり、貴店の選書眼の確かさを改めて感じます。
書泉グランデさんのランキングでは、購買意欲を直接刺激するような趣味関連の書籍が金額面で寄与しており、お客様の熱量に応える商品展開が素晴らしいと感じました。各店舗の戦略が売上金額という形で明確に現れており、非常に示唆に富む分析となりました。
【東京堂書店神田神保町店・店長の星野さん】
第1位は川本三郎さんの作品、毎回当店のベストセラーにランクインしとてもよく売れています。第3位の『デザインのひきだし』は刊行のたびに上位に入ります。
毎号色々な印刷製本に関連する特集で本の世界の深みを感じます。第6位『近代出版研究4』は関連書を含めた大型フェアを4月から開催したところ非常に好評で多くのお客様に手に取っていただきました。(6月中旬終了予定)
文芸書に加えて編集・校正本の新刊もランクインするところは東京堂ならではのランキングだと思います。ちなみに第11位は『スピノザ全集6』で、これまた東京堂らしいところです。
【書泉グランデ・店長の高松さん】
鈍器本、キヨブタ本の最たるものとして担当者が激推ししている『物語要素事典』が堂々第4位。
2022年に150年の節目を迎えた我が国の鉄道総合史として刊行された『鉄道百五十年史』では、通販を中心に全国からご予約をいただきました。
『同志少女よ、敵を撃て』(三省堂書店さんランクイン)、『古本屋の誕生』(東京堂書店さんランクイン)はグランデ1階でも展開していましたが、残念ながら選外…まだまだです。
代わりにエルフに特化した歴史本『エルフ史』(第5位)、人類の遠未来の姿を描き出した『マンアフターマン』(第6位)、売上冊数でも第4位ランクインした『ゲームフリーク』がこちらでも第2位にランクインするなど、他のお店ではそうそう目にすることのないような書籍が上位にランクインしているのは、いち書店員としても、一人の本好きとしても、とても喜ばしいです。
『マンアフターマン』と『ゲームフリーク』はともに復刊施策です。
第2シーズンに突入した「書泉と、10冊」「芳林堂書店と、10冊」は、すでにそれぞれ第6弾まで進んでおり、もちろん今回も1年間で10冊の復刊を目指しています。
第1シーズンとはまた一味違う、バラエティ豊かなラインナップをどうかお楽しみください。
これほど近くにある書店でも、売れている書籍はかなり異なることがわかりました。
お客さまがどのような考えで本を探しにくるのか? 3書店それぞれに、何を期待されているのか? 日々突き詰めて売場を作り続けた結果、書店という言葉でひとくくりにできない、それぞれの「書店の姿」が浮き彫りになりました。
そんな個性の塊、本の街・神保町の3書店へ、気になる本を探しに行ってみてはいかがでしょうか?
三省堂書店神保町本店
東京堂書店神田神保町店
書泉グランデ
三省堂書店
本の街神田神保町に書店を構えて143年。現在、神保町本店ビルは建て替え工事が進み、2026年の新本店開業を目指して書店の未来を描いています。工事期間中はお隣の小川町にて仮店舗営業中です。
東京堂書店
1890年創業の神田神保町すずらん通りに面した新刊書店。文芸書、人文書をはじめ、各ジャンルの担当者が厳選した品揃えが特徴です。1階レジ前の平台「知の泉」(通称「軍艦」)は必見。新刊刊行記念の著者イベントも開催しています。
書泉
「書泉」「芳林堂書店」の2つの屋号の書店を展開。「鉄道」「アイドル」「プロレス」をはじめ「数学」「占い」など様々なジャンルの本・雑貨を深く扱っています。著書にまつわるイベントも多数実施。