「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は、「ビジネス書における有益性を評価できるのは読者である」というコンセプトのもと、一般投票により表彰されるビジネス書の年間アワードです。今年も、エントリーされたビジネス書の中から総合グランプリを決める一般投票が、12月4日(水)にスタートしました。
さらに「読者が選ぶビジネス書グランプリ」の10回目となる今回は、〈特別賞「10年を彩るビジネス書」〉が設けられています。既刊本を対象に、ビジネスパーソンが「この激動の10年で最も支えになった」と考えるビジネス書に投票し、最も得票数が高かった書籍が特別賞「10年を彩るビジネス書」に選出されます。
そこで、「ほんのひきだし」では、「ビジネス書グランプリ」の歴代の総合グランプリに輝いた作品をピックアップし、フライヤーの要約と合わせて3回にわたってご紹介します。今回は、2019~2021年の3作品です。折々に読み返したい名著の数々を、この機会にぜひ手に取ってみてください。
【2019 総合グランプリ】
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』
- the four GAFA
- 著者:スコット・ギャロウェイ 渡会圭子
- 発売日:2018年08月
- 発行所:東洋経済新報社
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784492503027
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の要点
1.グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの「四騎士」は世界のあり方を大きく変えた。その影響を避けることはできない。テクノロジーに興味がなくとも、「四騎士」を理解することは、デジタル時代の今後を生き抜くために不可欠である。
2.四騎士は、差別化した製品、大きなビジョン、高い好感度、膨大なデータとそれを活用するAIという点で、大きな成功を収めている。
3.グローバル化した四騎士以後の世界では、超優秀な人材のチャンスが増える一方で、「凡人」は苦戦を強いられることになる。
『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』レビュー
グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。これらの企業とまったく関わりをもたずに生活している人は、おそらくほとんどいないだろう。この20年ほどでテクノロジー界の「四騎士」は大躍進し、世界のあり方を大きく変えた。
本書は「四騎士の時代」のいまとこれからを考えるものである。四騎士の出自や戦略を分析することは、デジタル時代のビジネスへの理解に直結すると著者は主張する。四騎士はテクノロジーを駆使し、人間の本能を利用し、法の抜け道をくぐって成功してきた。四騎士の事業である検索、ブランド、ソーシャルネットワーク、小売りのあり方を考えることは、現代のビジネスそのものを考えることだといっても過言ではない。
本書では四騎士それぞれのビジネスについて詳細に考察されているほか、「第五の騎士」になり得る企業の検討、四騎士以後の世界で生き延びるために必要なスキルなども紹介されており、読み応えたっぷりである。
輝かしい成功の裏で、情報管理の問題や技術の盗用、さまざまな責任逃れや脱税など、多くの負の側面を抱えている四騎士。彼らの登場によって便利な生活を手に入れた一方で、わたしたちは何を手放してきたのだろうか。
日々変化するデジタル時代を生きる、ビジネスパーソン必読の一冊だ。
【2020 総合グランプリ】
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』
- FACTFULNESS
- 著者:ハンス・ロスリング オーラ・ロスリング アンナ・ロスリング・ロンランド 上杉周作
- 発売日:2019年01月
- 発行所:日経BP
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784822289607
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』の要点
1.世界はどんどん物騒になり、社会の分断が進み、環境は悪化していると多くの人は思い込んでいる。しかし統計データを見ると、世界は基本的にどんどん良くなってきている。
2.人々が世界を誤って認識している原因は、本能からくる思い込みにある。
3.本書で紹介する「ファクトフルネス」を日常に取り入れていくことで、そうした思い込みから脱して事実に基づく世界の見方ができるようになる。判断力が上がり、何を恐れ、何に希望を持てばいいのかを見極められるようになる。
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』レビュー
もし「世界はどんどん悪くなっている」と感じているとしたら、それは事実に反している。それどころか世界は確実に、どんどん良くなっている。
ファクトフルネス(FACTFULNESS)とは、「データを基に世界を正しく見る習慣」を意味する。多くの人は、「自分が知っている世界は、事実とそうかけ離れたものではない」と信じこんでいるだろう。それでは本書に用意された、人口、貧困、教育などについての13の質問に答えてみて欲しい。国際的に活躍しているエリートさえ、ほとんど正解にたどり着くことができなかった質問である。
どうして世界についての間違った認識が蔓延しているのだろうか。もちろんセンセーショナルなジャーナリズムや、脅しをかける活動家の責任もある。しかしその根本には、私たちの本能に根ざした思い込みがある。本書ではデータに基づいた真実の世界の姿を私たちに示し、そうした思い込みを克服する習慣、すなわちファクトフルネスを身につけるよう提唱している。
事実に基づいて世界を見ることのメリットは、なんといってもそれが役に立つからだ。世界が少しずつでも良くなっていることがわかれば、極端な意見に惑わされることもなくなり、世界を確実に変えている小さな進歩が見えてくる。そしてそれを後押ししようという勇気も湧いてくるはずだ。
【2021 総合グランプリ】
『シン・ニホン』
- シン・ニホン
- 著者:安宅和人
- 発売日:2020年02月
- 発行所:ニューズピックス(ユーザベース)
- 価格:2,640円(税込)
- ISBNコード:9784910063041
『シン・ニホン』の要点
1.本書は、著者が極めて広範なテーマで生み出してきた数十のバージョンの「シン・ニホン」をひとつなぎに俯瞰したものを描く試みである。
2.現在終わりつつあるデータ×AIの革新の「第一フェーズ」に乗り遅れた日本の勝ち筋は、「第二フェーズ」「第三フェーズ」にある。
3.未来を創るのは若者だ。時代に合わせて教育を刷新し、他人とは異なる軸で勝負する、「異人」をうまく育て上げることが重要だ。
4.未来を創るための仕掛けとして、著者は「風の谷を創る」という運動論を進めている。
『シン・ニホン』レビュー
日本はもう終わった――失われた30年の間に幾度ともなく口にされてきたこの言葉は、多くの日本人の心に陰を落としている。無力感が蔓延するなかで、この『シン・ニホン』についたコピーは「この国は、もう一度立ち上がれる」だ。本書は「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」の総合グランプリおよび政治・経済部門賞を受賞した。多くの読者が、このような本を待ち望んでいたのだろう。
著者である安宅和人氏は、感情論ではなく、事実とデータに即した分析をもとに、世界とこの国の現状の苦しさを冷静に見つめる。そして、単なる悲観論を「逃げだ」と喝破し、未来を自ら目指し創るために行動を続けている。
たとえば、日本の国家予算を分析すると、金はあるのに未来への投資である教育や科学技術の予算が削られていることがわかる。日本の科学技術の予算は圧倒的に不足しており、主要国で唯一、博士号の取得にまとまった費用がかかる国だ。米国の主要大学と大きな差を生んでいる収入は投資からの運用益であることを踏まえ、著者は本書で国家レベルの基金システムの設立を提言した。理想を語っても現実は変わらないと思う人もいるかもしれない。しかし、本書の刊行後の2020年12月、10兆円規模を目指す大学ファンド創設が盛り込まれた緊急経済対策が閣議決定した。まさに、「未来を創る」を体現している。
著者の描くこの国の状況は厳しい。それでも、著者の眼差しは、日本への愛に溢れている。希望を灯す一冊を手に、あなたもいっしょに未来を創る一人になってほしい。
〉第1回(2016~2018)、第3回(2022~2024)はこちら
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