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「お酒でも飲もうかなあ…」「じゃあなんかつまみ作るよ」性格が真反対の姉×弟の美味しい生活『よなよな。―今夜も呑んで忘れましょう―』

「じゃあなんかつまみ作る」

家に着いて玄関のドアをぱたんと閉めてから「お酒でも飲もうかなあ……」とため息交じりにつぶやいて、そのつぶやきを「じゃあなんかつまみ作るよ」と受け止めてくれる相手がいたら最高だろうな。


そうそう、こういう感じ! 「じゃあなんかつまみ作る」、大好きなセリフだ。やったー!って思う。お店で飲むのも楽しいけれど、家で飲むのはピクニックのようで妙にワクワクする。『よなよな。ー今夜も呑んで忘れましょうー』“福久(ふく)”は、姉の“萩(はぎ)”のためにいろんなおつまみを作ってくれる。このときの福久はちょっと疲れているようだけど、酒好きの姉のためにいつも何かを作ろうとしてくれるのだ。

家でつまみを作るということは、「よし、飲もう」というサインでもある。疲れてイヤになっちゃった夜を暖めるお酒とおつまみ(と、猫)がたくさん登場するマンガだ。

これはある日のおつまみ。豆腐のつくね、竹輪ボート、ツナともやしのナムル。そして福久が手にしているのはおいしそうな日本酒。癒やされるー!

「家飲み」の喜びをしみじみ味わえる。ところでなんで萩はそんなに飲みたいの?

 

“言えない”姉と、“言っちゃう”弟

萩と福久は、8年ぶりに一緒に暮らすことになった。お互い「ある事情」によってそれまでの生活を保つことが難しくなってしまったからだ。

まず萩。

上下左右すべての隣人に恵まれなかったのだ。でもそれより気になるのは、同僚からの「管理会社には言うべきだったでしょ」だ。なんで賃貸マンションのいちユーザーがそこまで責任を負わなきゃいけないのか。余計なお世話すぎる。でも「そうですね、すみません」と言っちゃう萩。そう、萩は他人からいろいろ言われがちな人。萩だって内心「は?」と思っているけれど、それを表には出せない。

一方、弟の福久は萩とは逆のパターンで表に出しまくることで、対人関係がサビ付いている。

正論をどんどん言っちゃって周囲から距離を置かれるタイプ。社員寮でも一悶着あったようで、それで萩との同居が始まったようだ。

そんな二人が日常のささくれを持ち寄って夜な夜なお酒を飲むのだ。先ほど紹介したように大半のおつまみ作成は福久が担当する。

福久が前日のカレーの残りで作ってくれたカレーうどんは、めんつゆでカレーをのばして和風に仕上げたもの。思わず立ったまま食べちゃうよね。

萩はお酒担当。ジン、日本酒、ウォッカ、そして大量の炭酸水。引っ越し初日からちょっとした酒屋さんのようだ。

萩の酒好きな様子はいろんな場面で拝める。たとえば、全然行きたくないが流れでつい参加してしまった職場の女子会。

ビールを頼んだだけで酒飲みと言われる空間で「居づれぇ……」みたいな表情の萩がかわいい。

なお、この女子会で萩が選んだ飲み物は白ワイン。自宅で福久と飲むのとはワケがちがうのだ。ここは女子会、ちょっとでも酔っ払ったら言っちゃいけないことまでぽろっと言いそうで怖い! で、酔えない酒をちびちび飲みながら、適当に相づちを打ち、萩は「普通の女子」の様子を観察している。

無難なメイクをして、無難なファッションに身を包んでいるけれど、女子会に参加しても上手く話せないし、揚げ句それを誰かに茶化されたりする。萩は「普通の女子」になんとか混ざろうとしてずっと苦労している。だから女子会から帰宅して強いウォッカで飲み直し。

福久はいいことを言ってくれるなあ。そんな福久にも辛い夜はいっぱいある。彼も「普通に」生きることに四苦八苦しているのだ。

帰ってくるなりネコを抱っこして癒やされたくなったり、

ヤケ酒ならぬヤケ唐揚げをやってみたり。ジューシーな唐揚げにカラッとおいしい焼酎。いいねえ。

ときには料理をしない萩がおつまみを作ってくれることも。弟がクタクタに疲れているときは、お姉ちゃんの出番なのだ。

缶詰とオーブントースターとマヨネーズとチーズとお酒があればそれだけで幸せ。甘いお酒よりもドライなお酒を合わせた方がおいしいよね。

おいしいおつまみと、お酒と、姉と弟が少しずつ繰り出す人生の本音トーク。沁みる。

 

(レビュアー:花森リド)

 

よなよな。ー今夜も呑んで忘れましょうー(1)
著者:我楽谷
発売日:2023年3月
発行所:講談社
価格:748円(税込)
ISBN:9784065310298


※本記事は、講談社コミックプラスに2023年4月1日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。