4月14日(水)「2021年本屋大賞」の受賞作が発表され、町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』が大賞を受賞しました。
今回の本屋大賞には、伊坂幸太郎さんのデビュー20周年記念作『逆ソクラテス』や、『恋愛中毒』『プラナリア』などで知られる山本文緒さんの7年ぶりの長編小説『自転しながら公転する』、第164回芥川賞を受賞した宇佐見りんさんの話題作『推し、燃ゆ』などがノミネート。一次投票(2020年11月1日~2021年1月4日)には全国438書店から546人、二次投票には305書店から355人が参加しました。
ノミネート10作の順位は以下のとおりです。
第1位『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ/中央公論新社)
第2位『お探し物は図書室まで』(青山美智子/ポプラ社)
第3位『犬がいた季節』(伊吹有喜/双葉社)
第4位『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎/集英社)
第5位『自転しながら公転する』(山本文緒/新潮社)
第6位『八月の銀の雪』(伊与原新/新潮社)
第7位『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう/中央公論新社)
第8位『オルタネート』(加藤シゲアキ/双葉社)
第9位『推し、燃ゆ』(宇佐見りん/河出書房新社)
第10位『この本を盗む者は』(深緑野分/KADOKAWA)
また、翻訳小説部門は、アメリカの作家・動物学者ディーリア・オーエンズさんによる『ザリガニの鳴くところ』(訳:友廣純)が受賞しました。
- ザリガニの鳴くところ
- 著者:ディーリア・オーエンズ 友廣純
- 発売日:2020年03月
- 発行所:早川書房
- 価格:2,090円(税込)
- ISBNコード:9784152099198
『52ヘルツのクジラたち』は孤独ゆえ愛を欲し、いつも裏切られてきた“ひとりぼっち同士”の物語
『52ヘルツのクジラたち』は、2016年に「女による女のためのR-18文学賞」で第15回大賞を受賞し、受賞作を収録した『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビューした町田そのこさんによる初の長編小説。人生を家族に搾取され、逃げるように港町へ引っ越してきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年、孤独ゆえ愛を欲するも裏切られ続けてきた2人の出会いと変化が描かれています。
通常の個体よりはるかに高い周波数で鳴くことから、“世界でもっとも孤独な鯨”ともいわれる「52ヘルツのクジラ」。ひとりぼっち同士の出会いから始まるこの物語は、昨年4月に刊行され、「読書メーター OF THE YEAR 2020」第1位、「第4回未来屋小説大賞」大賞を受賞するなど、多くの読者・書店員から支持されています。
- 52ヘルツのクジラたち
- 著者:町田そのこ
- 発売日:2020年04月
- 発行所:中央公論新社
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784120052989
発掘部門は『「ない仕事」の作り方』に
また、本屋大賞受賞作の発表よりも早く、4月5日(月)には発掘部門から「超発掘本!」が発表されました。
発掘部門は、本屋大賞のエントリー対象よりも前(今回は2019年11月30日以前)に刊行された作品の中から、ジャンル不問で「時代を超えて残る本」「今読み返しても面白いと思う本」を選ぶもの。
今回は、2015年に刊行、2018年に文庫化された、みうらじゅんさんの『「ない仕事」の作り方』が選ばれました。「マイブーム」や「ゆるキャラ」の名付け親としても知られるみうらさんの“一人電通”手法(企画、営業、接待まですべて自分でやる手法)を、過去の作品とともに解説した一冊です。
- 「ない仕事」の作り方
- 著者:みうらじゅん
- 発売日:2018年10月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:748円(税込)
- ISBNコード:9784167911669
この本を推薦したのは、丸善博多店(福岡県)の脊戸真由美さん。ちょうど1年前、緊急事態宣言で店舗が休業せざるをえなくなったとき、「いまこそこの本を読み直すとき」と手にとったのがこの『「ない仕事」の作り方』だったのだそうです。
受賞を受けみうらさんからは「“超発掘”だということで、大変、御苦労をおかけしました。それにあやかって、今後、みうらじゅん改め、ミイラジュンにしてもいいなと思っています」「1980年に一応、漫画家としてデビューしましたが、以降、世間的には何をしているのかよくわからない変人でやってきました。たしか『「ない仕事」の作り方』は、そんな僕がデビュー35周年を迎えて、もう一度、自分が何をしてきたのかを再確認するために企画した本だったと思います」「賞に選んでくださった方々に改めて感謝の意を述べさせていただき、ミイラジュンの話は終わりといたします。ありがとうございました」とお礼のコメントが寄せられました。
ちなみにみうらさんにとって、子ども時代、映画館と書店はシェルターのような存在で、店を訪れては流行りでは“ないもの”を本屋さんで発掘するのが喜びだったのだそう。仏像にはまった小学校4年生の頃に自ら“発掘”した『邪気の性』の衝撃が今の自分につながっていると、発表会当日のスピーチで語っていました。
コロナ禍によって、それまで当たり前に「あった」のに「なくなってしまった」ものの存在を感じた方も多いことでしょう。
そんないま、「ない」ものから新しい何かを作るには? 自分を取り巻く“いまの当たり前”を、あらためて丁寧に見つめるきっかけになりそうです。
昨年の本屋大賞受賞作は『流浪の月』
昨年本屋大賞を受賞したのは、凪良ゆうさんの『流浪の月』。
以下、先日土村芳さん主演でのTVドラマ化が発表された小川糸さんの『ライオンのおやつ』(ドラマは6月よりNHKプレミアムドラマで放送)、砥上裕將さんの『線は、僕を描く』、横山秀夫さんの『ノースライト』と続きました。
第1位『流浪の月』(凪良ゆう/東京創元社)
第2位『ライオンのおやつ』(小川糸/ポプラ社)
第3位『線は、僕を描く』(砥上裕將/講談社)
第4位『ノースライト』(横山秀夫/新潮社)
第5位『熱源』(川越宗一/文藝春秋)
第6位『medium 霊媒探偵城塚翡翠』(相沢沙呼/講談社)
第7位『夏物語』(川上未映子/文藝春秋)
第8位『ムゲンのi』(知念実希人/双葉社)
第9位『店長がバカすぎて』(早見和真/角川春樹事務所)
第10位『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人/双葉社)
※凪良ゆうさん受賞時のインタビューはこちら
・漫画家志望から本屋大賞作家へ 凪良ゆうに聞く、創作のルーツといま思うこと
※翻訳小説部門・発掘部門を含む受賞内容はこちら
・2020年本屋大賞は凪良ゆう『流浪の月』 “普通”を揺さぶる、引き離された男女の物語