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  • 返品コスト増、最低賃金上昇、消費増税……「書店が生き残るためには」三洋堂ホールディングス 加藤和裕社長インタビュー

    2019年06月24日
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    新聞之新聞社 諸山 誠
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    返品コストが経営圧迫 書店粗利35%の施策を提言

    三洋堂ホールディングス 加藤 和裕社長
    かとう・かずひろ。1983年3月三洋堂書店(現・三洋堂ホールディングス)入社・取締役。同年4月監査役(ビジネスコンサルタント入社)87年3月取締役。96年1月常務取締役、同年10月代表取締役副社長、2000年7月代表取締役社長。11年6月最高経営責任者兼最高執行役員。58歳。

    三洋堂ホールディングスの加藤和裕社長は、業界関係者を集めた創業60周年記念の「LIVE PARTY」の席上、粗利率を7年で35%(現在は約30%)にまで引き上げるなどして新たなブック・バラエティ・ストアを展開していくと発表した。

    これを受けて、「書店が生き残るためには」をテーマに加藤社長に単独インタビューを行なった。加藤社長は、返品運賃や人件費などの経費高騰と、消費増税と政府の痛税感緩和対策のポイント還元施策が書店経営の喫緊の課題であると強調。そこに対処するには、返品率10%・書店粗利率35%以上とする完全なマーケットインの流通に移行すべきと提言した。

     

    「構造変わらないと書店は救われない」

    ―― 出版市場の縮小により書店を取り巻く環境は厳しさを増していますが、昨今は特に返品費用の負担が重くのしかかっていると聞きました。

    首都圏や大阪、名古屋などの大都市圏の一部において、取次会社が自社で配送している「自社配地区」の書店は、返品運賃を負担する必要はありませんが、私たちを含めてそれ以外の書店はとても高額な返品運賃を負担しています。また、2020年3月期については、現在交渉中ですが、大幅な値上げを受け入れざるを得ない状況です。さらに、今後も徐々に上がっていく見通しです。

    そういう状況で、返品運賃を一部の書店は負担しないという旧来の慣例は果たして公正と言えるのでしょうか。さらに、書店は一方的に“配本”された本を返品するための費用を負担しないといけないのでしょうか。

    ―― 確かに返品の輸送運賃が上昇した上、返品も増えれば、粗利率22~23%という薄利の書店経営にとっては大きな痛手ですね。

    今後予想される返品運賃の高騰に対し、弊社ではまず、返品削減を目下の課題に据えました。トーハンとプロジェクトチームを結成して、まず2020年3月末には現状の返品率40%超から30%に減らし、最終的には10%にまで下げたいと考えています。10%にまで下げると、総物流量も半分近くになり、返品の物量に至っては6分の1~7分の1にまで減る試算です。そうなれば、運賃単価が3倍に上がっても、トータルの返品コストは下がります。

    返すことを前提としている出版流通の仕組みは、これほどまでに輸送コストが増大していく中では成り立ち得ません。今という時代においては、このビジネススキームそのものがおかしいと言えます。私が返品率10%と申し上げたのは、基本的には返品が出ない出版物流の仕組みが必要だと考えているからです。それを絵空事という人もいますが、実際にドイツの書籍の返品率は10%程度です。乱暴な言い方ですが、ドイツと同じ仕組みを取り入れれば、日本でもできないことはありません。

    ―― 仕入れ先であるトーハンも、最大手の日本出版販売もマーケットイン型の出版流通の構築を目指しています。

    トーハンは、書店からの注文を元に本を流通させるマーケットインを進める一方で、AIを使った配本にも取り組んでいますので、プロダクトアウトも残すという考え方だと思います。それ故、返品率の目標は20%と言っています。私は正直に申し上げますと、もうプロダクトアウトは認めてはいけないと思うんですね。実際にドイツにはありません。

    日本でも、出版社には全ての書籍の新刊情報を事前に出していただき、書店からの初回注文を募って初版部数を決定し、取次へは注文数しか納品できないような体制に移行すべきです。もちろん取次がバッファとして予備分の在庫を持つのはいいです。書店や取次が本の事前情報をきちんと把握して注文する形が実現できれば、ドイツ並みの返品率は可能です。

    ―― マーケットインオンリーでは、出版社の売上や出版物の刊行点数も劇的に減少してしまうのでは。

    一気に切り替われば、かなりの数の出版社がつぶれる可能性がありますので、それは現実的ではありません。私が言いたいのは、出版社が資金繰りのために本を作って納品すれば、その場はしのげるという自転車操業を続けていては、この業界は持続しないということです。例えば、「出版指標年報」の書籍の推定販売部数や製本部数などの数値から試算すると、返品率が36.3%から10%に下がると製本部数は70.8%に減らせます。

    もちろん印刷・製本の原価はこれほど単純な話ではありません。ただ、同じ売上を維持しながらコストを下げることは可能なのではないかということです。であれば、返品減による利益増を書店の正味に回すこともできるはずです。

     

    返品削減待ったなし 完全なマーケットインへ

    ―― 返品運賃だけでなく、最低賃金の上昇による人件費の増加も書店経営を圧迫するともおっしゃっていました。

    返品運賃同様に人件費も上昇しています。最低時給が26円上がると4,400万円、パートの年次有給休暇5日消化義務化で1,000万円、社員定期昇給で1,300万円など合計で9,100万円も今より増える計算です。しかも、政府は早期に最低賃金の全国平均を1,000円にすると言っています。

    この早期という期間は分かりませんが、3年と仮定します。今の全国平均は874円ですので、差額126円を3年で割ると、1年に42円も上がる計算です。前回の上昇額の26円を大きく上回りますので、人件費は急激に上昇してしまいます。特に書店はパートとアルバイトで成り立っており、地方の書店では最低賃金で雇っているところも多いです。そこに対処するには、粗利率を上げてセルフレジを導入するなどの人手がかからない店舗運営の仕組みに変えていかなければなりません。

    さらに、ドイツのような出版流通になれば、適正な入荷量なので品出しも返品作業も少なくなり、店頭での生産性は相当向上するはずです。返品率削減は輸送コストだけでなく、店舗オペレーションの軽減による人時生産性の向上にもつながるのです。その意味でも、書店側として返品削減は待ったなし。少しずつ改善していくなどと悠長なことは言っていられません。早急に返品率を減らしていかないと我々は本当に生きていけません。

    ▼人件費高騰・人手不足の解消に一役買うセルフレジ

    ―― 返品を10%にまで下げるには、どこから手を打つお考えですか。

    これは書店だけで解決する話ではありません。今は、プロダクトアウト型の物流が前提になっている以上、取次の蛇口をどう締めるか、取次がどれくらい本気でやれるかにかかっています。見計らいによる配本はばくちと同じです。なぜ取次や書店が出版社のばくちに付き合わないといけないのか。店内作業の人件費や返品の物流コストはばかになりません。かつてはそのコストを意識しなくてもよかった時代はありましたが、もはやそれは昭和の時代の話です。

    ―― 取次としてはどう考えているんでしょうか。

    業界三者の正味も返品負担といった既得権益も、一度ご破算にできればいいのですが………。返品率10%という世界に移行して、取次は出版社からの仕入れ正味は一律、本体価格の55%と宣言していただき、取次が7~10%、書店が35~38%という正味体系を実現してほしい。

    ―― 返品削減を狙いとした大胆な流通構造の改革とともに、出版社、取次、書店のレベニューシェアも変えていくべきと。

    日本の書店の粗利は22~23%、一方のドイツの書店正味は4割以上あります。そもそも、日本の書店の粗利率で商売するのは無理があります。他の書店の決算書を見てください。あるチェーンは、長年ローコーストオペレーションに努めてきたにも関わらず、2018年2月期に赤字に転落しました。まともな経営者がきちんとした立地で商売していても赤字になるんです。特にこのチェーンは本専業に近い。これまでも言われてきたことですが、本専業では本屋が成り立たないというのを、この事例が証明しています。

    今は、誰が経営者になっても本専業ではもうからない構造なのです。バックリベートを含めても25%あるかないかの利益率では、小売業は成り立ちません。その上、クレジットカードなどの非現金決済が増えていくと、その手数料がどんどん加算されていくことになります。そうすると、今の粗利率から5%増やさないと黒字にはなりません。

     

    迫る消費増税 粗利5%アップは必須

    ―― 三洋堂書店の粗利率は約30%ですが、20年3月期に30.8%、21年3月期に31.5%と毎期0.7%ずつ上げて26年3月期に35.0%とする計画を立てていますね。この「5%」という数字の根拠は何ですか。

    この5%は今年10月に予定されている消費増税と、同時に実施される政府の痛税感緩和施策(キャッシュレス・消費者還元事業)によって、書店を取り巻く小売業がどう変化するかをシミュレーションして算出しました。政府の施策は消費者が非現金決済をすれば、5%のポイントを付与するというもので、中小企業を対象に9か月間、ポイント分を政府が負担します。

    さらに、コンビニエンスストア(CVS)のFC店に対しても2%を補うとも言っています。CVSチェーン各社は直営・FCとも足並みそろえてポイントを付けてきますし、その競合であるドラッグストアも対抗してくるでしょう。さらにはドラッグストアの競合であるスーパーマーケットも手を打ってくるはずです。そうなると、小売業のメインどころはこぞってポイントを競い合うはずです。弊社は中小企業には当てはまりませんので、自腹で最低でも2%のポイントを付けなければ、売上がダウンする恐れがあります。さらに、20年6月末までの政府の補助が終了した後もポイント競争が収束するとは思えません。

    また、非現金決済で最も利用されているのがクレジットカードです。ペイペイや楽天ペイなど新しいキャシュレス決済も出てきていますが、地方ではクレジットカードの方が使用割合が高まると思います。弊社のクレジットカード決済による売上金額比率は9.0%(18年8月時点)あります。その手数料は約3%で、年間5,400万円も負担しています。そのクレジットカードの使用割合が増えていくことも見据えると、その手数料である3%とポイント付与の2%を合算して5%と設定しました。

    ―― 日販もポプラ社とグループ書店とで、返品率10%以下で書店粗利35%を目指す新たなモデルづくりに取り組んでいます。

    これまでは本の粗利を変えずに、フィットネスや文具・雑貨などを複合することで店舗全体の粗利率を変えようとしてきました。しかし、本来的に言えば、出版業界そのものの粗利構造が変わらないと書店は救われません。

    先ほど申し上げた返品率10%、取次仕入れ正味55%、書店粗利35~38%、取次7~10%、という構造に早急に転換していくべきです。この粗利率と返品率であれば、送品・返品の物流費は書店が負担します。ドイツでも実際にそうです。適正な発注による適正な返品率を実現することで、トータルの物流量は57.1%と、4割以上削減される計算になります。

    ▼業態転換で導入進めるフィットネスジム

    そうなれば、普通に本だけで商売が成り立つ世界ができます。もしも出版業界でその話がまとまらなければ、書店はなくなり、取次は取次ではなくなり、出版社もどんどん減っていくでしょう。

    残るのは自社ビルの趣味と道楽の本屋くらいでしょうか。ビジネスが成り立たないのですから、壊滅的な状況になるのは目に見えています。しかも、それはもう目前に迫っています。

    (「新聞之新聞」2019年6月14日号より転載 ※一部編集)

     

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