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  • 本屋大賞は9月発売が有利!?その一方で…… 過去ノミネート作の傾向から“理想の売り方”を考える

    2018年10月10日
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    古幡瑞穂(日販 マーケティング部)
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    今年も本屋大賞の選考時期が近づいてきました。

    文芸書の店頭POS実績(日販調べ)は好調が続いており、8月期・9月期は2か月連続で前年比100%をクリア。しかし一般的には「小説が売れなくなった」といわれています。

    そこで今回は、小説、そして本屋大賞関連作の動きを見ていきます。

     

    小説は3月・9月の発行点数が多い

    そもそも、小説はどのくらい発行されているのでしょうか。日本図書コード分類(C0093)で「日本の小説」に分類されている商品の点数を見てみました。

    ▼小説の年間発行点数(2018年9月は中間実績)※クリックすると新規タブで画像が開きます。

    発行点数は増加傾向にあり、直近では3000点弱の小説が発行されています。付番されているコードでの区別がつかないため正確には把握できませんが、増加の主な要因は、いわゆる「新文芸ジャンル」と呼ばれている小説のようです。

    月次で見ると3月・9月が多めで、発行点数全体の傾向と変わりません。ただ「本屋大賞・このミス狙いの本を9月に出す」というのはよく聞かれる話で、他ジャンルと比べると、注目の新刊が9月に多く刊行される傾向があります。

     

    受賞作品は8月・9月発行が多い

    続いて「9月発売の小説が有利」という説を検証すべく、本屋大賞の過去ノミネート作・受賞作の発行月を調査してみました。

    ▼本屋大賞ノミネート作、受賞作品の発行月(過去15回)

    これによると発行月としては8月がもっとも多く、それに9月が続いています。

    なんと8月から10月まで(3か月間)の発行点数が、全体の40%を占めるという結果に。さらに大賞作品に関しては、9月発売の作品がダントツという結果になっています。

    ちなみに年度別に見てみると、本屋大賞がスタートした頃から5回目くらいまでは、これほどまでの大きな山はできていません。つまり夏以降に発売された商品に集中する傾向は、年々強まっているということです。

    本屋大賞は毎年、12月1日から11月30日までに刊行された日本の小説がノミネート対象となっています。8月・9月に注目作品の発売が集中するのは、年末のミステリベストも見据えての動きだといわれています(たとえば『このミステリーがすごい!』は、10月末までに刊行された作品が選考対象です)。より記憶の新しいところで確実に読んでもらうため、プルーフが発行され発売が集中し……ということが、過熱傾向の背景にはあるようです。

     

    受賞作品の販売ピークは3か月

    さて、本屋大賞に話を戻します。

    過去5年の本屋大賞受賞作について、発売以降の月別売上・累計売上をグラフにしてみました(※『村上海賊の娘』『鹿の王』についてはいずれも上巻の売上です)。

    ▼本屋大賞受賞作品の月別売上


    ▼本屋大賞受賞作品の累計売上

    グラフから見て取れるとおり、本屋大賞の売上効果は、発表月をピークにして大きな反応が3か月ほど続き、その後6か月くらいすると平常月と同じ水準に戻っています(その頃ちょうど翌年の投票が始まります)。

    このブレイクは本屋大賞の発表会がテレビなどの各メディアで大きく取り上げられることによって発生するのですが、一方で近年は、『君の膵臓をたべたい』や『コーヒーが冷めないうちに』といった第2位以降の作品が発表以降も売上を伸ばし続け、累計売上数で大賞受賞作を抜くという事例も出てきました。

    ノミネートや受賞はあくまで一つの要素でしかなく、独創的・継続的な販促が大切だということがよくわかります。

     

    注目作を話題作に育てる取り組みを

    例年、9月は新刊発売が集中し、取次の現場・書店店頭ともパンク状態におかれます。

    カレンダーや日記・手帳といった年末商品の送品が一斉に9月に行なわれること、各社の決算との関係など理由はさまざまですが、この状況は「目玉商品を発売し、注目してもらう」ということの難易度が年々増しているということでもあります。

    比較的発行点数の少ない月に発売し、じっくりと話題作に育てていく。そして投票の時期には、そういった“年間の注目作品”に再度光をあてる。このような動きが各社でできるのが、理想的な形なのではないでしょうか。

    文芸書の売上を作るだけでなく、本屋大賞のノミネート作は、その後文庫化された際にも“目玉作品”として各社の棚を引っ張っていってくれる存在となります。そういった意味で、ノミネートはさまざまなことの始まりなのです。

    第16回本屋大賞ではどんな本が顔を揃えるのか、そしてどんな結果になるのか。今から楽しみに待ちたいと思います。

    (文化通信BB 2018年10月1日増刊より転載 ※一部編集)

     

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