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日本でもっとも歴史あるライフスタイル誌のひとつ「婦人画報」が志す不変と進化

1905年の創刊以来、衣食住の上質な情報を読者に届けてきた「婦人画報」。現在は、雑誌にとどまらず、WEBサイトをはじめとするインターネット上の発信でも多くの支持を集めています。

紙とデジタル双方の編集長を務める西原史さんに、同誌のこれまでの歩みと時代を見据えた進化について、綴っていただきました。

婦人画報 2023年 04月号
発売日:2023年03月01日
発行所:ハースト婦人画報社
価格:1,300円(税込)
JANコード:4910077550437

 

変わらぬ価値を、いまの時代に届けるために

2003年、夏。「婦人画報」編集部に配属されたばかりの私が毎日を過ごしていたのは、バックナンバーの合本が果てしなく並ぶ書庫の中でした。雑誌の100周年を間近に控え、立ち上げから任された周年記念連載のリサーチのため、創刊号から一冊ずつ目を通す作業に没頭していたのです。

我国婦人の活動殊に目覚ましく(略)此(この)雑誌は此時勢に促されて生れたるなり(略)幸に能(よ)く女界(じょかい)の活動、教育、好尚、流行等の事実を画報し得て、更に善美なる傾向を助長し得ば本誌の発行亦(ま)た徒爾(とじ)ならず

1905年の創刊号の冒頭、編集長・国木田独歩の「発刊の辞」をはじめて目にしたのもそのときでした。大隈重信による女性論。渋沢栄一邸の誌上公開。与謝野晶子の愛用コスメ紹介。日本でまだ馴染みのなかった本格的な西洋料理のレシピやイブニングドレス……。

この雑誌はまさに日本史の教科書のB面、それもとびきりハイエンドな。なんだかすごい編集部に来てしまったぞ。心が躍る一方で、ごくごく普通の家庭で育った自分にこの雑誌の編集が務まるのか? 焦りに似た不安を感じたことをいまでも思い出します。

不安は的中。座布団に正面がある? きものの畳み方って? 床の間のしつらえに要求される“間合い”って? 大亀老師って誰? 「婦人画報」の制作現場は、知らないこと、わからないことだらけ。毎日が勉強の連続でした。

幸いなことに、その都度、周囲の人々の助けを得て乗り切りましたが、この雑誌ならではなのではと思うのは、編集部員のみならず、著者や取材先、写真家やスタイリストなど制作スタッフ、読者の方々にまで「婦人画報」ではこんなメッセージを伝えたい、こんなビジュアルで表現したい、こんなものを紹介したい、されていて欲しい、とそれぞれの思いが溢れていることでした。独歩以来の先人たちが築いてきたこの信頼関係が私を導き、成長させてくれました。

編集長を拝命し、このかけがえのない財産をどう受け継いでいくか悩んだ末に浮かんだのが「新しい上質」というキーワードでした。創刊以来の理念はそのままに、「婦人画報」の世界を更新していくこと──。2022年10月号の特集「コドモ画報」は、その思いが結実した一冊になりました。子どものやわらかな感性やものの見方を通して、これからの幸せの形や人生に必要な美しいもの、大切なことをあらためて考える特集です。

高円宮妃久子殿下をはじめ各連載陣にも子どもをテーマに執筆していただき、ファッションや美容ページも含めまるごと一冊、子どもを切り口に制作。さらに、雑誌の売り上げの一部を子どもの支援活動を行う認定NPO法人に寄付させていただきました。“子どもも大人も楽しめる婦人画報”というはじめての試みには大きな反響をいただきました。本質を外さず、いかにアップデートしていくか。編集部員それぞれが考え、手応えを摑んだ体験だったと思います。

いまや「婦人画報」の舞台は、雑誌に限りません。ECサイト「婦人画報のお取り寄せ」は12周年を迎え、ビジネスとしても順調です。昨年末にはWEBサイト「婦人画報デジタル」内で有料会員サービス「婦人画報プレミアム」を開始しました。名作アーカイブ記事と動画を含む最新のオリジナル記事が同列に並び、いつでもどこでも楽しんでいただけます。おかげさまで、十数年前の記事がデジタル上で再び反響をいただくといった嬉しい出来事が続いています。

変わらぬ価値を、いまの時代に届けるために。「婦人画報」はこれからも進化を続けます。ぜひ、ご注目ください。


ハースト婦人画報社「婦人画報」「婦人画報デジタル」編集長
西原 史 NISHIHARA Fumi
2003年の入社以来「婦人画報」編集部に在籍。「婦人画報」副編集長と兼任で「美しいキモノ」「婦人画報デジタル」の編集長を務め、2021年7月より現職。2児の母。


(「日販通信」2023年3月号「編集長雑記」より転載)