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原宿から世界へ。復刊した「Zipper」編集長が挑戦する「雑誌にしかできないこと」

2017年に惜しまれつつ休刊し、今年3月に復刊を果たした原宿発のファッション誌「Zipper」。令和にリスタートする同誌が今後、何を発信し、目指していくのか。編集長に就任した森茂穗氏にその思いを綴っていただきました。

Zipper 2022年春号
発売日:2022年03月
発行所:祥伝社
価格:590円(税込)
ISBNコード:9784396880071

 

雑誌にしかできないこと

新しいファッションをストリートから生み出したい。この想いが、5年ほど雑誌編集の仕事から離れていた私が出版業界に戻り、「Zipper」の編集長についた理由だ。

2017年8月に「Popteen」の編集長を藤田ニコルと共に卒業し、私は出版業界を離れた。少年時代に自分自身が読者であり、憧れだった雑誌の編集長を務めることができ、雑誌編集者の仕事をやり切った感があった。

無名だった「みちょぱ」や「藤田ニコル」を表紙モデルに抜擢し、原宿を中心にバブルスというブランドと組んで80年代を思わせるスクールガールスタイルを提案。10代の女の子たちのファッションがみるみるPopteen色に染まっていった。その後、いち早く韓国ファッションに注目し、カラフルキュートな韓国ブランドをどこよりも早く日本で紹介した。今やグローバルスーパースターとなったBTSをファッション誌で初めて取り上げたのも「Popteen」だったと思う。

私自身90年代に「Boon」や「ストニュー」「egg」「Popteen」といった雑誌から強烈な影響を受け、その雑誌が発信するファッションスタイルに染まっていった原体験がある。編集者になったのも、そういった雑誌を作っている人たちに憧れたからだ。それから15年以上が経ち、自分自身が新しいファッションを発信する側になれたことに大きな満足感を得て、これ以上、出版業界でやることはないと思い、IT企業に転職した。

しかしそれから、毎年SNSから生まれた、似たようなファッションがトレンドとなり、どの世代の雑誌の表紙にも特定ブランドの名が踊ることに違和感を感じていた。新しいファッションが生まれてこない。

IT企業に転職して、SNSやネット情報は「今」という瞬間を切り取ったり、誰かの悩みを解決するには便利なツールであり、すべてがロジックとエビデンスで読者のエンゲージメントを獲得できることを知った。だが、一方で「見たこともないおもしろいもの」を創造する力はないこともわかった。

誰も知らない、でも、雑誌を通じて発信することで確実に流行るトレンドを、誰よりも早く切り取ることは雑誌編集者の醍醐味である。しかし、「絶対に流行る」ということを誰にでもわかるように説明することは難しい。誰もが理解できるおもしろさなんて、新たに創造されるファッションにはない。それが流行って、時代を創って、はじめてそのファッションの意義が普通の人たちにも理解される。社内で「なぜこのファッションが流行るのか?」を誰もが理解できるまでに、それはチープでつまらないものになる。

IT企業はファッションカルチャーを生み出す場ではないので、そもそも創造性の機能自体いらないが、私の愛した雑誌が、新しいファッションを生み出せずにいるのがやるせなかった。そんなモヤモヤした気持ちを抱えていたときに「Zipper」復刊に当たり編集長の打診があった。

Z世代から新しいファッションカルチャーを生み出す。そんな想いで編集長の大任を引き受けさせて頂くことにした。多様性を重んじ、環境意識も高いZ世代はアメリカで古着ブームを巻き起こしている。この流れは「Zipper」のためにあるようなものだ。雑誌のコンセプトを「私のおしゃれは自分で決める! ファッションクリエイターズマガジン」と定め、ファッションモデルが出演する場所じゃなく、ファッションを新たに生み出していくコたちが出る場所と定めた。

原宿から世界へ。Zipperから生まれたファッションが、日本のみならず世界を席巻する日を信じて。SNSの力も最大限活用しながら、私の新たな挑戦が始まる。


DONUTS発行/祥伝社発売 「Zipper」編集長
森 茂穗 MORI Shigeho
1978年福岡県生まれ。「東京ウォーカー」など情報誌の編集者としてキャリアをスタート。2010年から「Happie nuts」(インフォレスト)編集長を、2014年から「Popteen」(角川春樹事務所)の編集長を務める。IT企業勤務を経て2022年3月に復刊した「Zipper」の編集長に就任。


(「日販通信」2022年5月号「編集長雑記」より転載)