投資はもちろん、ビジネスや就職活動などさまざまな場面で活用されている「会社四季報」。その信頼される情報は、どのように収集し、世に送り出されているのか、同誌の冨岡耕編集長に綴っていただきました。
- 会社四季報 2022年 04月号
- 著者:
- 発売日:2022年03月18日
- 発行所:東洋経済新報社
- 価格:2,300円(税込)
- JANコード:4910023230420
投資家のバイブルであり続けたい
「会社四季報」は1936年に創刊して以来、企業情報収集の定番としてプロの投資家や個人投資家の皆さんにご愛読いただいている投資雑誌だ。長年にわたって支持されてきた主な理由は「網羅性」と「継続性」と思っている。
四季報は創刊以来、年4回刊行しており、国内の証券取引所に上場している3,800社を超えるすべての企業を掲載している。規模の大小を問わず、1社に割り当てられた半ページ分のスペースに、所在地や従業員数などのほか、財務や株価、株主などの各種データがきっちりと網羅されている。
データブックとして価値が高い四季報だが、中でも特徴的なのが業績予想だ。全上場企業に担当記者を配置しており、取材や開示情報に基づき独自分析した業績予想を今期と来期の2期分掲載している。
四季報記者が会社計画と異なる独自予想をした場合、最終的に会社が四季報予想に近い水準の数値で着地するケースが少なくない。株価を動かす最も大きなインパクトは業績の変化だ。四季報は先取りした独自予想を出しており、多くの投資家が気づく前に業績変化を察知できるということになる。
業績変化は、各ページの欄外を見てもわかる。前の号から大きく引き上げた場合は上向き矢印が2つ、逆に引き下げた場合は下向き矢印が2つという具合だ。さらに、会社予想を大幅に上回る独自の強気予想は、笑顔のニコちゃんマークが2つ並び、通称ダブルニコちゃんと呼ばれる。ページをぱらぱらめくるだけでも、誰でも業績変化が大きい会社をすぐに見つけることができ、読者からも好評だ。
東洋経済新報社は「週刊東洋経済」や「東洋経済オンライン」など各種媒体を発刊しているが、基本的にどの媒体の編集者も記者も全員が四季報の担当企業を持ち、業績予想をしている。経済記者として普段はジャーナリストとして企画や取材活動をする一方、3カ月に1度はアナリストとして個別企業の分析を徹底的に行っており、数字に強い集団といえる。
実は私は30歳過ぎに新聞記者から東洋経済に転職した。週刊東洋経済にはこれまでの延長線上で何とか記事を書けても、四季報の執筆は初めてで戸惑った。ただ、とても新鮮だったことを覚えている。入社してすぐに空運や陸運など数十社の担当企業を持ち、財務やIR担当者をつかまえて必死になって業績予想した。当時は自分が担当していた日本航空(JAL)が経営危機に陥り、取引先企業への影響も広がるなど大変だった。
四季報には【仕入先】【販売先】欄もある。販売先に優良企業の名前が並んでいれば、販売代金の回収をあまり心配する必要はない。その反対に仕入先や販売先に不安視される会社があった場合は注意が必要になる。
株式市場ではこうした連想売買がよく行われる。ある企業の株価が上下したときに、関連する企業の株式も連鎖的に買われたり売られたりする。「風が吹けば桶屋が儲かる」と言われるが、関連企業を知る手がかりとして、仕入先や販売先の企業名は重要だ。
記者が予想する数字によっては、債務超過などで信用不安が一気に広がる。四季報の影響力はかなり大きい。それだけに会社も数字や記事内容に対して要望を言うこともあるが、あくまでも四季報は独自予想だ。読者目線で各企業の本当の姿を届けるために、記者も編集者も日々努力している。
2022年は脱炭素やDX、半導体、メタバース、宇宙などをテーマに新たな競争と協調の時代に入っていくだろう。四季報でも「変化」を大切に届けていきたいと考えている。
東洋経済新報社「会社四季報」編集長
冨岡 耕 TOMIOKA Ko
1975年、松江市生まれ。2007年東洋経済新報社入社。「週刊東洋経済」副編集長などを経て、2021年10月より現職に就任。
(「日販通信」2022年3月号「編集長雑記」より転載)