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声優・斉藤壮馬さんも出演!小説×音楽×朗読の『ラブカは静かに弓を持つ』スペシャルイベントをレポート

安壇美緒さん 斉藤壮馬さん 対談2

小説×音楽×朗読がコラボしたスペシャルナイトが開催

2022年5月の発売以来、第25回大藪春彦賞受賞、第44回吉川英治文学新人賞ノミネート、2023年本屋大賞第2位と高い評価と支持を受けている安壇美緒さんの“スパイ×音楽”小説『ラブカは静かに弓を持つ』。

その累計発行部数が10万部を突破したことを記念して、6月19日(月)、東京・渋谷にて「小説×音楽×朗読“ラブカ”スペシャルナイト」が開催されました。

当日は、本書の帯に推薦文を寄せた声優・歌手の斉藤壮馬さんと安壇さんの対談や、斉藤さんの朗読、ヴァイオリン、チェロ、ピアノで構成されたピアノ三重奏団「TRIO VENTUS」の演奏と、まさに『ラブカ』の世界観を体感できるプログラムで実施されました。その様子をレポートします。

 

ラブカは静かに弓を持つ
著者:安壇美緒
発売日:2022年5月
発行所:集英社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784087717846

あらすじ
少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

(集英社『ラブカは静かに弓を持つ』公式サイトより)

 

弦楽器のチューニングの響きから始まった、“ラブカ”スペシャルナイト。TRIO VENTUSのチェロ奏者である鈴木皓矢さんの姿がライトに照らし出され、チェロの豊かな音色でイベントが幕を開けました。

曲は、バッハの「無伴奏チェロ組曲第1番 プレリュード」。物語にも深くかかわる、まさにオープニングにふさわしい一曲です。

▲TRIO VENTUSの鈴木皓矢さんが奏でるバッハの「無伴奏チェロ組曲第1番」からイベントがスタート

 

その後、ステージに著者の安壇さんが登場。刊行以来、本作が多くの読者に愛されているだけでなく、第69回青少年読書感想文全国コンクール「課題図書」高等学校の部にも選定されるなど、多方面から評価されていることについて、「執筆していた間も、発売当初もまさかこんな展開が待っているとは思いませんでした」と驚きを語りました。

その後、斉藤壮馬さんが登場し、ライターの立花ももさんを進行役に、対談が行われました。

安壇美緒さん 斉藤壮馬さん 対談1

▲左から、斉藤壮馬さん、安壇美緒さん、進行役の立花ももさん

 

『ラブカ』はスパイである主人公の“ハラハラ感”を追体験して書いた(安壇さん)

お二人は昨年秋にもオンラインで対談をしており、その際、自身も小説を執筆している斉藤さんは、安壇さんの前作『金木犀とメテオラ』を読み、「こんな素敵な小説があるなら、僕はもう書かなくていいと思いました」という感想をもらしていたそうです。

安壇さんの小説の魅力を、「幅広い人に愛されるということは、多様な興味を抱かせる魅力的なポイントがたくさんあるということ。個人的には、視点人物のずるさやみっともなさが心にグッときました。2作品とも自分の中の見たくないものを、彼ら彼女らを通して突きつけられている感じで、そこがたまらない。安壇さんの作品でもっとも好きな点のひとつ」と評しました。

そのコメントを受けて安壇さんは、「書いている最中は、どちらかというと主人公の中に入って書いているので、こんな気持ちを出して、読む人に受け入れてもらえるのかなと思いますし、みっともなさに対する恥ずかしさは常にあります」といいます。

また、「(スパイ小説でもある)『ラブカ』は、主人公の橘がいつも追い詰められている状況なので、自分もそのハラハラ感を追体験している心境で、最後の最後まで書いていました」と語りました。

 

映像が浮かんでくるようなキャラクターの魅力はどのように生まれたか

本作の主人公である橘は、社命により著作権法違反の潜入捜査をするため、チェロを習う名目で音楽教室に通い始めます。本作には、音楽教室で同じく浅葉に師事し、そのうちの一人が経営するレストランに集まって、親交を深めていく仲間たちが登場します。

斉藤さんは、そんな「教室の面々の映像もばっと浮かんでくるような、キャラクターそれぞれの魅力も素晴らしい」と感じたそうです。

▲当日は、橘と仲間たちを描いたパネルが、会場ロビーに飾られていた

 

本作の主人公の橘は、チェロを弾いていた経験によりスパイ行為を命じられましたが、自身のトラウマに向き合い、調査に対しても次第に葛藤を深めていく陰のあるキャラクターです。

その人物造形について、安壇さんは「スパイものということで、橘のキャラクターは自然に立ち上がりました」といいます。対して潜入される側の浅葉は、「この人を絶対に裏切ってはいけない」と感じさせる人物として描く必要があり、そのキャラクターの巧みさも相まって、読者もハラハラ、ドキドキさせる、説得力と緊張感ある数々のシーンが生み出されています。

 

▲ロビーには、登場人物のイラストや、作中の印象的なセリフが書かれたパネルも展示

 

執筆活動が声優の仕事にもたらしたのはリズム感の変化(斉藤さん)

作家としての斉藤壮馬さんの印象について聞かれると、「ご自身の内面にファンタジックできれいなものがあるのだろうと感じています。暴力的なものや嫌なものが出てくる小説もたくさんありますが、きれいなテイストのお話を書かれる方だな」との印象を持っているという安壇さん。

斉藤さんは、執筆活動が声優の仕事にもたらした影響について問われると、「リズム感覚が変わったかもしれない」と答えます。

「目で読むリズムと声に出して読むリズムには違いがあるし、個人差も、個人の中でも違いがあります。持論ですが、夏目漱石は句読点通りに読むと誰でも上手く読めますが、太宰治は句読点通りに読むとグルーヴ感がなくなってしまいます。それは、目のリズムというか、視覚的なグルーヴ感があるから。もちろんテクストが最優先されるべきですが、音としてのグルーヴ感を残すためには、あえて句読点を無視しなければならないこともあると考えるようになりました。小説は、そういった総合的なものだと思いますし、だからこそ楽しいですね」

斉藤さんは、「『ラブカ』を読んでいると、映像的なイメージが喚起される部分と、感情が引きずり出される部分とどちらもあります。小説を書くときに、映像的な表現と、言語の領域でしかできない表現の両方を使っているのでしょうか」と質問。安壇さんは、「私は映像的にはあまり文章が読めなくて、絵的にしか浮かばないタイプ」だと回答しました。

「『ラブカ』も音楽家の方がどのように演奏しているのかがわからなかったので、橘は絵のイメージでもってチェロを弾いている」設定にしたといいます。

それを受けて斉藤さんは、「浅葉が橘に言った、『本番は、ちょっと遠くの小窓の向こうに音を届けるように弾いてみて』というアドバイスは、役者としてものすごく理解できたんです。僕は最初に朗読の勉強から始めたのですが、その時の恩師が、『君たちはマイクに向かってしゃべるんじゃない、マイクの向こう側に向かってしゃべるんだよ』と言ってくれた。その言葉がいまの自分の根幹をなしているのですが、浅葉先生が同じことを言っている」と思ったのだそうです。

 

朗読と音楽のコラボレーションで作品の世界観をリアルに演出

「『ラブカは静かに弓を持つ』は、とても読みやすいけれど、それは読むのが非常に難しいということでもあります。この作品をこういった場で朗読させてもらえるのはワクワクしますし、演奏家のような気持ちで自分の全力を賭したいです」と語った斉藤さん。

対談に続いては、そんな斉藤さんによって、橘が浅葉と初めて顔を合わせるシーンの朗読と、TRIO VENTUSのコラボレーションが行われました。

演奏されたのは、ベートーヴェンの「ピアノ三重奏曲第3番」の第4楽章と、「戦場のメリークリスマス」。ピアノ三重奏曲は、チェロにトラウマを持っている橘が潜入調査という使命を抱えている心情を、「戦場のメリークリスマス」は、橘が、トラウマを抱えながらも水の波紋のように音楽を受け入れていく情景を想像しながら奏でられたそうです。

最後には、安壇さんから「自分が書いた小説が、まるで譜面から起こされたような感覚でした。素敵な朗読と演奏に囲まれて幸せです。ありがとうございました」とあいさつがあり、『ラブカは静かに弓を持つ』の世界観がリアルに演出された一夜限りのイベントが幕を閉じました。

 

TRIO VENTUS

▲向かって左から、TRIO VENTUSの廣瀬心香さん(ヴァイオリン)、石川武蔵さん(ピアノ)、鈴木皓矢さん(チェロ)

(写真提供:集英社)