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アーリャさん、そのロシア語ぜんぶバレてます!手が届かない孤高のお姫様がデレまくる『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』

どんな言葉もかわいい

ツンと澄ました子の口からぽろっと出る方言を聞くと思わずクラクラするのは、その子の隠された素顔をのぞいちゃったような気持ちになるからで、たぶん外国語でも同じ効果があるはず。もしかしたらもっと威力が高いかも。

ということで、『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』です。絶対かわいいでしょ。題名に偽りなしだったよ。

日本屈指の名門校・私立征嶺学園に通うアーリャさんこと“アリサ・ミハイロヴナ・九条”は、ロシア人のお父さん(アーリャさんの父称から察するにミハイロさんでしょうか)と、日本人のお母さんを持つ女の子。

もうなんでもできちゃう。しかも美しい。とくに目の透明感が私は好きです。彼女の目の描写は、カラーでもモノトーンでもひんやりと涼しくてキレイ。銀色の髪とのコンビネーションも最高。惚れ惚れする。

で、このアイスブルーの美しい目を持つ孤高の美少女は、当然モテるのです。名門校の御曹司がバラ片手にアーリャさんを待ち構えてたりする。

ツンドラの女王か?ってくらい、つめたーく御曹司をあしらうアーリャさん。容赦なし。

そんな誰も手が届かない孤高のお姫様の心は永久凍土のように見えるけれど……?

ロシア語で「かわいい」って言ってるーっ! 吹き出しのキリル文字すらかわいい! でも、まず、そんなあなたがかわいいんだよ!

 

誰も聞き取れないハズのロシア語

アーリャさんは校内では「九条さん」と呼ばれています。気高いお姫様をお名前で呼ぶなんて恐れ多い!というわけ。でも彼女を唯一「アーリャ」と愛称で呼ぶ少年がいます。それが本作の主人公・“久世政近”。

このページを見ただけで「あ、アーリャさんは久世くんのことが好きなんだね」と思いますが、こういうのって当事者たちは気がつかないものなんですよね。

この久世くんがどんな人物なのかというと……、

だらしないんだが一応名門校に通っており、アーリャさんからの蹴りにもさして動じない。そしてアーリャさんの隣に座っています。

そしてアーリャさんは、久世くんのことが内心かわいくてしょうがない。表向きでは久世くんをこれでもかってくらい冷たく罵倒してるのに! で、胸に秘めた思いがあふれるとついやってしまうのが「ロシア語でデレる」なのです。

教室の誰にもわかるまいと思ってロシア語でデレ続けるアーリャさん。表向きとの温度差が激しい。

アーリャさんの気持ちは、彼女だけの秘密……じゃなくて、

よりによって久世くんだけは彼女のロシア語を密かに理解しています。そうとも知らずロシア語でデレ続けるアーリャさん……。久世くん、ロースペックなのかハイスペックなのか全然わからない興味深い人だな。

 

「全部意味伝わってるぞ」は本当か?

いくらロシア語がわかるとはいえ、孤高のお姫様が自分に向かって「かわいい」なんてつぶやく理由を、久世くんは理解できません。そんな彼が導き出した答えは「アーリャは、とんでもないことをみんなの前で密かに言って楽しむ精神的露出狂なのだ」です。乙女心が奇行として処理されてる。切ない!

こうしてアーリャさんのロシア語によるデレはひたすら垂れ流されることに。

さすがの久世くんもアーリャさんが恥ずかしそうにこんなことをロシア語でつぶやいたら「く…ッ!!(かわいいじゃん)」って感じているようなのに、どうしても「俺のことを好きなんだな」とは思えない。惜しい。

いろいろあってこんなものすごい展開になってもなお気づかない! ちゃんと彼女の美しさもかわいらしさも理解しているのになあ……。

でも、大切な女友達ではあるようです。そこは安心。

そしてもっと近づくかな?と思ったら遠ざかる(人を指さすのはロシアではより深刻なマナー違反なんですね)。もどかしいけれどかわいい。

こんな調子なので、しばらくはアーリャさんによる秘密のロシア語デレは続きそう。いろんなロシア語が聞きたいよ。久世くんは早く真の意味でアーリャさんのロシア語を受け止めてくれ。

それはそれとして、海外で「誰も聞いちゃいないだろう」と思って日本語でしょうもないことを言うのはもう絶対にやめよう、と思いました。

(レビュアー:花森リド)

時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん(1)
原作:燦々SUN、漫画:手名町紗帆、キャラクター原案:ももこ
発売日:2023年3月
発行所:講談社
価格:528円(税込)
ISBN:9784065310915


※本記事は、講談社コミックプラスに2023年5月7日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。