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ベストセラーでもメディア化作品でもないけれど「絶対に読んでほしい」一冊を厳選してお届けするプロジェクト「小説太鼓判」。第1弾では江戸川乱歩賞作家・下村敦史さんの『生還者』(講談社)をご紹介し、以来「これぞ本屋大賞ならぬ問屋大賞?!」と注目していただいております。
〉デビュー以降3作品すべてが一級品!乱歩賞作家・下村敦史はミステリー界のディープインパクトだ!
今回ご紹介するのはその第2弾、柚月裕子さんの『ウツボカズラの甘い息』(幻冬舎)です。
家事と育児に追われ、かつての美貌を失った高村文絵。彼女はある日、出かけた先で見覚えのない美女に声をかけられる。大きなサングラスをかけたその女は「加奈子」と名乗り、文絵と同じ中学で同級生だったという。そして文絵に、あるビジネスの話を持ちかける―――。
一方、鎌倉で起きた殺人事件を捜査する神奈川県警捜査一課の刑事、秦圭介と鎌倉署の刑事・中川菜月。聞き込みで、サングラスをかけた女が現場に頻繁に出入りしていたという情報を得る―――。
『ウツボカズラの甘い息』は主人公・文絵の視点から描かれた「文絵パート」と刑事の秦・中川による「捜査パート」の2つで構成され、交互に物語が展開します。そして読者はこれら2つの軸がどこで交わるのか、どう展開するのか予測がつかないまま、物語に呑み込まれていくことになります。2つの軸が実際に交わるのは終盤です。しかし「ようやく繋がってきた!これで事件は解決に向かうはずだ」と油断しているそのときに、本作で一番の衝撃が待っています。
また、女流作家ならではのリアルさで描かれた「女性の美に対する欲深さ」も物語の見どころです。加奈子と出会ったことでセレブな雰囲気に足を踏み入れ、かつての美しさと活力を取り戻す文絵。しかし文絵は次第に加奈子の悪意に巻き込まれていきます。小さなきっかけで平穏な日常に綻びが生じてしまった文絵の姿に、危うさを感じずにはいられませんでした。
気付かないままウツボカズラに呑まれてしまう文絵と、終盤になって作者の掌で転がされていたことに気付く私たち読者。読み終わった後に再度タイトルを眺めて、余韻を味わいたくなる一冊です。
作者の柚月裕子さんは、2008年に臨床心理士が事件の真相を追う『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビューしました。このとき柚月さんは40歳なので、作家としてはやや遅咲きです。しかしその後『最後の証人』や『検事の本懐』といった「佐方貞人シリーズ」を刊行し、2013年には『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞、今年1月には『最後の証人』が上川隆也さん主演でドラマ化されました。
今年に入ってからは『朽ちないサクラ』(徳間書店)、今回ご紹介した『ウツボカズラの甘い息』、『孤狼の血』(KADOKAWA)と新作を3つも発表するなど、精力的に執筆活動をしていらっしゃいます。
近い将来、間違いなく有名作家の仲間入りをするであろう柚月裕子さん。書店員さんからも熱い注目を集めています。この機会にぜひご一読ください!
(提供:ブックスミスミオプシア)