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「おニャン子クラブ」「モーニング娘。」「AKB48」「ももいろクローバーZ」「乃木坂46」……。
それぞれの世代を象徴し、時代を彩るアイドル。一見華やかな存在に見えますが、「かわいいだけ」では生き残れない、過酷な世界に生きています。人気争いはもちろん、近年ではインターネット上におけるファンとの関係や炎上など、新たな問題も浮上しています。
そんな現代のアイドルを描いた、朝井リョウさんの『武道館』。その文庫版が3月9日(金)に発売されました。
結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、
さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。
しかし、注目が集まるにしたがって、様々な種類の視線が彼女たちに向けられるようになる。
そして、ある出来事がグループの存続さえも危うくしてしまい……。〈文藝春秋公式サイト『武道館』より〉
『武道館』で「NEXT YOU」の5人が直面する問題は、ネット社会に生きる私たちにとっても無関係ではありません。
以下は、ネット上で寄せられるコメントに対していかに対応するべきか、主人公・愛子の迷いが表れた部分です。
匿名での悪口、盗撮、執拗なまでの過去の詮索、きっとこれまではこちらから怒ってもよかったであろうことが、日に日に、そうではなくなっている。煽り耐性、スルースキル、それらの言葉は自分たちが小さなころにはこの世になかったのに、本当についさっき生まれたような新しい言葉なのに、その習性をあらかじめ持ち合わせていることを当然のように求められる。
(本書p.113より引用)
誹謗中傷や煽りに対して、耐性がなければやっていけない。しかし、そもそも「誹謗中傷や煽りが気にならない」状態は、人間として自然なのでしょうか……。「エゴサーチはしない」と公言する芸能人がいるのもうなずけます。
音楽はダウンロード販売が主流になり、シングル楽曲にいたってはネット上で無料で視聴できることが当たり前になりました。
そんな中、「NEXT YOU」が行った「CDに握手券をつけて売る」戦略に、批判が集まります。悩む愛子に対し、幼なじみの大地は、
「買う人は、自分で買うって、決めてるわけじゃん」
(本書p.142より引用)
と答え、ぶっきらぼうな口調ながら、真摯に言葉を紡ぎます。
「お金を払うって、自分が何を欲しがってるのか、自分が何だったら満足するのか、すげえ考えるしすげえ選ぶってことじゃん。金も払わないで、何でもある中から手に取り続けてたらさ、そりゃ、自分がどんなヤツかってわかんなくなるよ。金払ってなかったら、期待外れのモンでも、まあいいかってなっちゃうし。めっちゃ良かったモンでも、ラッキー、くらいだし。どっちも同じくらいの距離にあるっつうか」
(本書p.145-146より引用)
「ほしいものにお金を払う」ことの意味を彼なりの言葉で説き、賛否両論の販売戦略の渦中にある、愛子の状況をも肯定する大地。
「愛子は、CD売って、いろんな人たちを悩ませてる。自分はCDだけが欲しいのか、握手だけしたいのか、どっちもいらなかったのか、どっちもほしかったのか、何回握手すれば満足するのか、どれだけ握手しても満足しないのか、音楽が好きなのか、アイドルが好きなのか、どんな売り方だと許せないのか……自分がどんなヤツかって、いろんな人に考えさせてるだろ。それってすげえことだなって俺は思うよ」
(本書p.146より引用)
このシーンは、愛子が抱えるもう1つの悩みへの回答にもなっています。「イメトレ」と称して、動画共有サイトで好きなアイドルの動画を視聴し続けていた愛子。あるとき、「自分がどんなアイドルを一番好きか」がわからなくなっていることに気づいたのです。
インターネットは確かに便利ですが、無料でコンテンツを楽しむことに慣れてしまうと、本当に好きなものと、そうでないものとが、ないまぜになって薄まってしまうのかもしれません。
お金を払うという行為は、買ったものが何であれ、それが自分にとって譲れないものだという証。わが身に置き換えてみても、「好きなアーティストのCDを買う」という行為には、「音楽を手に入れる」ということ以上に、「特別なものを自分の中で明確にする」という意味合いが含まれているような気がします。
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文庫版の解説は、「モーニング娘。」など多くのアイドルをプロデュースしてきたつんく♂さんが執筆。「アイドルにとっての武道館」や「人気が出るアイドルの条件」を論じており、こちらも要チェックです。
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