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3月10日(土)に公開された、映画「坂道のアポロン」。ほんのひきだしでは、原作者の小玉ユキさんに映画の見どころと原作執筆時のエピソードについてお話を伺っています。
小玉ユキ(こだま・ゆき)
9月26日長崎県生まれ。2000年デビュー。2007年~2012年に「月刊flowers」(小学館)にて連載した『坂道のアポロン』で第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。ほかの作品に『月影ベイベ』などがある。現在も同誌にて活躍中で、2018年5月号(3月28日頃発売)より長崎・波佐見を舞台にした『青の花 器の森』の連載をスタートする。
――漫画『坂道のアポロン』は、どんなふうにして生まれた作品なんでしょうか?
薫と千太郎というキャラクターが、まず最初にできていました。「秀才とバンカラで、身長差はこれくらい」「全然友達になりそうもない2人が、互いにとって大事な存在になる話を描きたい」と。
そこから「2人にそれぞれ楽器を持たせよう」「2人の姿が1960年代っぽいから、その頃の音楽で……」「ということはジャズかな?」「それならピアノとドラムをやらせたら面白そうだな」というふうに、どんどん設定と物語が広がっていったんです。
――薫はもともとクラシックでピアノを弾いていて、千太郎に出会ったことでジャズに魅了されていきます。自由な千太郎と、真面目な薫。即興演奏のジャズと譜面重視のクラシックという、2つの音楽にも重なりますね。そんな2人は音楽という“言葉の要らない会話”で仲を深めていきます。
音楽を漫画に描くことには憧れがありました。上條淳士先生の『TO-Y』のような。音もしないのに、それを表現できるなんてかっこいいなあって。ただ、音楽そのものを表現するというより、音楽でつながる人間関係を描きたかったんです。
ジャズに関しても、連載以前から好きではあったんですが、レコードをたくさん集めたり「何でも知っている」というほどではなかったんですよ。
――本作の象徴で、タイトルにもなっている「坂道」は、小玉さんの母校に続く坂道がモデルになっています。映画でも、この坂道で撮影が行なわれました。
『坂道のアポロン』には、「私が男だったらこういう青春を送りたかった」という気持ちも込めています。
描いている時は、薫の視点。千太郎のことがうらやましくて、でも邪魔で、でも放っておけないといういろんな気持ちを渦巻かせながら描いていましたね。
薫が「忌々しい坂だ」とぼやきながらのぼるあの坂道は、この作品の象徴ですし、描いている時もずっとイメージの中心にあったものです。この景色が違ったらまったく違う作品になってしまう。なので映画でも、「必ずこの坂道を使ってほしい」とお願いしました。
▼坂道をのぼる薫と、駆け下りていく千太郎。その姿も対照的です。
――連載は2007年秋にスタートして2012年1月まで、番外編も含めると約5年間にわたって掲載されました。今あらためて振り返って、どんなことを思い出されますか?
毎月毎月、汗水垂らして「締切が…締切が……」って言いながらやっていましたね(笑)。ストーリー展開って、ひと月ごとに物語をやや完結させながら、そこから少し引いたりして考えていくんです。目的地は一つだけれど、そこへたどり着くまでの道のりをそのたびにいくつも考えて、ちょっと進んだらまた別の可能性を考える。ずいぶん前にぼんやりと浮かんでいたものが、ある時突然必要になったりすることもあって、それを毎回もぎ取るようにして選びながら描いていましたね。
『坂道のアポロン』の連載を始めるにあたっては、いくつかイメージカットのようなものを描きました。喧嘩した2人が仲直りするシーン、セッションのシーン、男女4人でダブルデートするシーン……。いくつかわーっと描いておいて、行き着く先、山の頂上として「文化祭のシーン」を決めたんです。それから先はなるようになれと。最終回のイメージはその時にはまだなくて、連載の途中で決まりました。
▼物語が最高潮に盛り上がる、文化祭のシーン。
――“連載は生き物”とよくいわれるそうですが、当初想定していなかった展開や、難産だった局面はありますか?
そうですね、確かに描いていて「そのポイントまで来てみないとわからない」ということはあります。キャラクターが勝手に動き出したりもしますしね。本当はね、薫はもっと“秀才らしい秀才”だったんですよ。顔ももっと美少年で……。
――「メガネかけとってもきれいな顔しとるとね」と(笑)。
クールなキャラを通させたかったんですが、いざ千太郎と会わせてみたら全然違う人になってしまって、1話目から「だめだこいつ」と(笑)。でもそれも描いていて楽しくて、薫はこういうキャラクターなんだなとわかった後は話が転がっていきました。逆に千太郎は、構想していた時から変わらないですね。
悩んだのは、やっぱり“山”を登りきった後です。文化祭へ向かって進んでいたのが弾けた後、「それからどうするか」を描くべき存在がたくさんいて、「さて、どうしようかな」と。
文化祭が終わってからのイメージもできてはいたんですが、そこへ行くまでにどこを通らせるかはすごく考えました。淳兄はどうしよう、薫はどんなふうにしようって。
――アニメ化のときもそうでしたが、原作漫画には、映像で描かれたストーリーを補完してくれる面がありますよね。先ほど伺った「文化祭の後」もそうですし、登場人物たちのバックグラウンドも、原作ではかなり丁寧に描かれています。
『坂道のアポロン』では、登場人物の気持ちの移り変わりを丁寧に描いているつもりです。なぜこうなったか、その時どんなことを考えていたのかということが、漫画だとよりわかりやすく、細やかに伝わると思います。
薫と千太郎の仲が深まっていく過程も、段階を踏んでじわじわ進んでいきますしね。そういった空気感を味わっていただきたいです。
あと、これはアニメにも描かれていないんですけど、大学時代になった薫が〈失ったもの〉を求めてうじうじする感じや、大切な人に再会した時の感動、母親とのエピソードも漫画では読むことができます。映画でやむを得ずカットしたシーンもたくさんあるので、原作を読むと、もうひとつ深く作品の世界が楽しめると思います。特に薫のうじうじしていた時期は、私も楽しんで描きました。
――映画は、モノローグに書かれるような心理描写がほとんど演技だけで表現されていましたよね。ナレーションがすごく少なかったです。
予告編には入っていますけど、本編に関してはほとんど入ってませんよね。アニメの時もそうだったんですけど、演技や音で表現できることは言葉にしないほうが絶対にいいと思うので満足しています。
たとえば薫が千太郎のドラムを初めて聞いて、衝撃を受けて、帰り道に「体が動いちゃうじゃないか」って怒り笑いしながら帰っていくシーン。あれは漫画では言葉にしましたけど、アニメや映画ではセリフもモノローグも入れないほうがいいと思っていたので、映画であのシーンを見たときは、音と動きの表現の的確さに「それ! それです!」と言いたくなりました。
「音が流れるだけでニヤッとしてしまう」「足が勝手にリズムに乗ってしまう」っていう感覚は、音と動きがあれば、言葉がなくても表現できる。漫画はそうはいきませんからね。そういうところが、アニメや映画では見たかったんです。そこをちゃんと描いてくださった監督には感謝しています。
▼これがそのシーン。映画でどう描かれているか必見です!
――「映画で描かれなかったエピソード」というと、『坂道のアポロン』には〈BONUS TRACK〉がありますよね。全9巻の後に刊行された“番外編”という位置づけですが、ファンの間には「これが本当の完結巻だ」という声も多いです。
まさにそうです! 第9巻までしか読んでない方がいたら、今から第10巻だけでも読んでもらいたいですね。知りたかったことが全部書いてあるはずです(笑)。
ちなみに映画で律子の父・勉役をやってくださった中村梅雀さんは、実はこの〈BONUS TRACK〉を読んで勉のキャラクター像をつかんでくださったんですよ。第9巻まで読んだ時点では「ヒロインのお父さん」「レコード屋の店主」という感じで、イメージがまだふんわりしていたそうなんです。でも〈BONUS TRACK〉で勉がどんな思いでムカエレコードを営んでいるのかを知ったことで、イメージがはっきりと輪郭をもったと伺いました。
そういうバックグラウンドがあることを知ったうえで映画を見ると、薫たちを見守る勉のあたたかさがより一層伝わると思います。もちろん、梅雀さんご自身がベーシストということもあって、演奏シーンも素敵ですよ!
(※インタビューの続きは、2018年3月10日に公開予定です)
医師として病院に勤める西見 薫。忙しい毎日を送る薫のデスクには1枚の写真が飾られていた。笑顔で写る三人の高校生。10年前の夏、二度と戻らない、“特別なあの頃”の写真……あの夏、転校先の高校で、薫は誰もが恐れる不良、川渕 千太郎と、運命的な出会いを果たす。二人は音楽で繋がれ、荒っぽい千太郎に、不思議と薫は惹かれていく。ピアノとドラムでセッションし、千太郎の幼なじみの迎 律子と三人で過ごす日々。やがて薫は律子に恋心を抱くが、律子の想い人は千太郎だと知ってしまう。切ない三角関係ながら、二人で奏でる音楽はいつも最高だった。しかしそんな幸せな青春は長くは続かず――
知念侑李 中川大志 小松菜奈
真野恵里菜 / 山下容莉枝 松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.) 野間口徹
中村梅雀 ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:髙橋泉
原作:小玉ユキ「坂道のアポロン」(小学館「月刊flowers」FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
2018年3月10日(土)全国ロードショー
©2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 ©2008 小玉ユキ/小学館