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前代未聞の新漫画賞「MILLION TAG」参加編集者に意気込みを聞く!/少年ジャンプ+編集・林士平 編

〈これは前代未聞の漫画賞であり、漫画SHOWだ。スターはいつも突然、鮮烈にデビューする。〉

昨年12月に開催決定が発表された、漫画家発掘オーディション番組「MILLION TAG(ミリオンタッグ)」。これは、集英社が次世代スター作家を発掘するべく始動させた新たな漫画賞で、選抜された6名の漫画家が編集者とタッグを組んで優勝を目指し、3か月にわたるその選考過程を番組として配信するという前代未聞の方式で行なわれます。

4つの課題を経て優勝者が得るのは、「賞金500万円」「少年ジャンプ+での連載確約」「単行本発売」「アニメ制作(1話分相当)の確約」。募集締切が3月21日に迫るなか、挑戦者を待つ6名の参加編集者から、「少年ジャンプ+」編集・林士平さんと、「マーガレット」編集・ハタケヤマさんのお二人にそれぞれお話を伺いました。

今回は、『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『青の祓魔師』などを担当する林さんのインタビューをお届けします。

――「少年ジャンプ+」は2014年9月に「漫画誌アプリ」としてリリースされ、いまやダウンロード数累計1,700万以上を誇る媒体となりました。林さんは、どんなところに「少年ジャンプ+」の媒体としての特徴・面白さがあると考えていらっしゃいますか?

さまざまな環境でいつでも、そして無料で読める媒体はもはや当たり前になってきていますが、連載作・連載作家の多様さ、質の高さは特徴かなと思っています。「週刊少年ジャンプ」や「週刊ヤングジャンプ」の作家さんが「少年ジャンプ+」(以下、ジャンプ+)で新作を連載して、またそれぞれの連載誌に戻っていくというような、媒体間の行き来も多いです。

―― 2006年の集英社入社以降、数々のヒット作の立ち上げ・連載担当を経験していらっしゃいます。社会人になる前は、林さんにとって“漫画”とはどんな存在でしたか。

幼少の頃から、漫画をひたすら読んできました。「週刊少年ジャンプ」に出会ったのはたぶん小学校1年生か2年生くらいで、当時は『ろくでなしBLUES』(著・森田まさのり)や『まじかる☆タルるートくん』(著・江川達也)、『DRAGON BALL』(著・鳥山明)が連載されていました。他誌の作品だと『バーコードファイター』(著・小野敏洋)や『ドッジ弾平』(著・こしたてつひろ)が好きで、『バーコードファイター』は大人になってから復刊ドットコムで復刊版を書い直しました。大学生のときに発表された幸村誠さんのデビュー作『プラネテス』も好きでしたね。

漫画の面白さを感じた原体験は、子どもの頃って漫画とアニメを区別して認識していなかったので、「未来少年コナン」を繰り返し何度も観たのを覚えています。父がビデオに録ってくれていて、家族で旅行するときの車中でひたすら観ていました。

―― 漫画編集者になってからは、どんな読み方をしていますか? 普段作家さんとどんなやりとりをしているのか教えてください。

編集者として作家さんにお渡しできるのは“客観性”なので、初めにまずさらっと読んで、読者としてどう思ったかを把握したあと、編集者としての視点で読み直して「最後にこうなるなら、ここはこういう演出のほうがもっと効果的かもしれない」「このコマとここのセリフは、こうしたほうがよさそう」というふうに考えます。

〈感覚〉と〈ロジック〉を分けているといったらわかりやすいかもしれません。作家さんにも、1度目に読んだときの感想と、2度目に読んで思ったことは分けて伝えています。具体的にチェックリストを作っているわけじゃないので、どうしても抽象的な話になってしまいますが、テンポやリズム、作品のテーマ、画、セリフ、カット割り、全部見ていて、「漫画としての総合力を高めること」を到達点に、思ったことをお伝えしています。

それから感想のほかに、「たとえばこの作品をピクサーが映像化した場合、どんなタイトルやキャラクターになると思いますか?」「深夜アニメだったら?」「韓国ドラマだったら?」というふうに、視点を変えることで発想の幅を広げるようなお手伝いもしています。

―― 以前別の媒体のインタビューを拝見して、漫画に限らず、本当に幅広く“物語”に触れていらっしゃるんだなと驚きました。客観的な視点は、その膨大な量のインプットに裏打ちされているのだなと。

漫画はもちろん、映画、小説、連続ドラマなど、できるだけ幅広く見るようにしていますね。「もうこれ以上は追いかけられない。読みたいものがまだ山ほどあるのに時間が足りない」と思いながら(笑)。いまは本屋大賞のノミネート作を片っ端から読んでいますが、「このミステリーがすごい!」大賞作も気になっています。小説や映画に関しても、まずは何も考えず読者として読んで、面白いなと思った点を掘り下げるような感じで読んでいます。

―― 現在「MILLION TAG」特設サイトでは、いま担当されている藤本タツキさん(『ファイアパンチ』『チェンソーマン』)のデビュー原稿が公開されています。ご覧になっていかがでしたか。

やっぱりデビュー原稿なので、「うまいな」と思う部分も「まだこの頃は粗かったんだなあ」と思う部分もありましたが、なにより「好きなように思いきり、楽しそうに描いているなあ」と思いました。藤本さんのどの作品を見ても思うことですけれどね。

―― 今回優勝者に対して、連載確約や副賞のほかに「500万円」の賞金も用意されています。漫画賞としては破格といっていい額ですが、これは漫画を描くうえで、どれくらいの金額なんでしょう?

少なくとも1年、多く見積もって2年くらいは、漫画を描くことに専念できる額だと思います。どこに住んでいるかによって家賃が変わってきますし、アナログかデジタルかでも大きく異なりますが。

たとえばデジタルで描く場合なら、パソコンと高性能の液晶タブレット、机や椅子を初期投資として購入したとしてだいたい35万円。引っ越し費用と家賃で年間70万円くらい。そこに水道光熱費や食費を載せて……と考えると、ごちそうは食べられないかもしれないけれど、アルバイトをせずに、執筆に集中できる環境で過ごせると思います。

「MILLION TAG」は一般的な漫画賞に比べて賞金が高いだけでなく、デビュー前から知名度を上げることができるのも大きなメリットです。これ以上に好条件な賞はなかなかないと思うので、迷っている方もぜひチャンスを逃さず、応募してくれたら嬉しいです。

―― ちなみに連載デビューするまでには、どれくらいかかるものですか。

連載デビューまでの期間って、いわば「準備と修行」のステージなんですよね。新人賞を受賞して担当がついたあと、連載作家のアシスタントをしながら読切作品を発表する。これを何年か続けるのが、たいていの流れです。たとえば藤本さんの場合は、最初にお会いしたのが17歳のときで、連載デビューしたのが23歳なので、……読切をつくっていた期間はだいたい5年くらいでしょうか。その間に読切を数本発表して、『ファイアパンチ』でデビューされました。

―― なるほど。そう考えると今回の「MILLION TAG」は、特典の豪華さ以前に、編集者とタッグを組んで優勝を目指すという時点で新人賞として異例なんですね。しかもその過程を、私たちも見ることができるという。

そうですね。連載候補者の皆さんには、僕たちと組むとこういったサポートを受けられるんだ、ということも感じてもらえるんじゃないかと思っています。

「ジャンプ+」にインディーズ連載枠(※)を設けるように、僕たちもいろんな“面白いものが生まれる方法”や才能を見つけたいなと思っているし、実際、編集者が関わっていなくても面白い作品はたくさんあります。でも、一人で物語を作っているとどうしても、どんどん深く潜っていってしまって、どんな作品にしたいのかわからなくなってしまうことがあると思うんです。

(※)編集者のネームチェックを経ずに作品を連載でき、各話の閲覧数に応じて原稿料などが支払われる仕組み。「ジャンプルーキー!」内の連載争奪ランキングで読者からの人気を得ると、インディーズ連載権を得ることができる。

そういうときに、客観的に作品を見ている存在が常に傍らにいて、すぐに「これって面白いですか?」と意見を聞いてみることができるのは、やはりひとつポイントになるのではないでしょうか。「いろんな人の意見を取り入れすぎない」というのも重要で、たとえば100人でものづくりをしようとすると、出てくる意見が多様なので、最終的に平均的なものに収まってしまうんですよ。一対一でタッグを組むことは、その人の“作家性”をできるだけそのまま出す、補正しすぎないという意味でも重要だと思います。

なので僕は「MILLION TAG」でも、普段作家さんとしているのと同じように、一対一だからこその濃いやりとりをして、客観性をお渡ししながら、一緒に“面白い漫画”をつくりたいなと思っています。「作家さんと一緒に面白いものを作って票を取りにいく、連載を目指す」というのは僕たちの日常なので、それを丁寧にお見せできたらいいですね。

番組をご覧になる方々も、打ち合わせやブラッシュアップも含めた制作過程全体を見る機会はそうそうないと思うので、「漫画が生まれる現場」の熱量を感じて、楽しんでいただけたらうれしいです。

―― 最後に、ほかの参加編集者の方々に何かメッセージがありましたら! MILLION TAGプロジェクトの仲間であり、優勝を競い合うライバルでもありますので。

「ジャンプ+」の面々とは普段もよく話しますけど、「ヤングジャンプ」の李さんや「マーガレット」のハタケヤマさんとは、まだあまりお話ししたことがないんです。なので「一緒に『MILLION TAG』を盛り上げましょう!」という気持ちとともに、皆さんがそれぞれに持っている“面白い漫画”への思いや、そこへのたどり着き方を、僕自身楽しみにしていますと伝えたいですね。僕も自分のやり方を信じて臨みます。

きっとすばらしい才能がたくさん集まると思うので、「『MILLION TAG』第1期生、全員天才じゃない?」と言われるくらい話題になって、優勝者のアニメ作品がシリーズ化されるだけじゃなく、優勝を逃した挑戦者の方々の作品もアニメ化されちゃったりして、集英社での作家デビューを志す方が増えて、そんなふうになったら最高ですね。

 

「マーガレット」編集・ハタケヤマさんのインタビューはこちら

前代未聞の新漫画賞「MILLION TAG」参加編集者に意気込みを聞く!/マーガレット編集・ハタケヤマ 編