書店にまつわる思い出やエピソードを綴っていただく連載「書店との出合い」。
今回は、6月16日に『事故物件怪談 恐い間取り4 全国編』が発売された、松原タニシさんです。
「事故物件怪談 恐い間取り」は、「事故物件住みます芸人」として知られる松原さんが、実際に「ワケあり物件」で体験や取材をした不思議な話をすべて間取り付きで紹介したノンフィクションで、7月25日(金)には、Snow Manの渡辺翔太さん主演の実写映画「事故物件ゾク 恐い間取り」が公開されます。
そんな人気シリーズを生みだした松原さんの幼少期からの読書遍歴は、「事故物件住みます芸人」の活動と通じるものがあるそうです。そこで今回は、松原タニシさんに「影響を与えた作品との出会い」について綴っていただきました。
松原タニシ
まつばら・たにし。1982年4月28日生まれ。兵庫県神戸市出身。松竹芸能所属のピン芸人。
現在は「事故物件住みます芸人」として活動。2012年よりテレビ番組「北野誠のおまえら行くな。」(エンタメ~テレ)の企画により大阪で事故物件に住みはじめ、これまで大阪、東京、沖縄、北海道など日本各地の24軒の事故物件に住む。
事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演する。
著書に『事故物件怪談 恐い間取り1〜4 全国編』、『異界探訪記 恐い旅』『死る旅』『恐い食べ物』『恐い怪談』(以上、二見書房)がある。2025年7月25日(金)には著書「事故物件怪談 恐い間取り」シリーズを原作とした映画「事故物件ゾク 恐い間取り」(配給 松竹)が公開。
今の僕に影響を与えた作品との出会い
子供の頃にハマっていた読書といえば、偉人伝や自伝でしょうか。特に、引退したスポーツ選手の自伝をよく読んでいました。真弓明信『タイガースに捧ぐ』や千葉ロッテのバレンタイン監督『1000本ノックを超えて』など、どうやってそこまで登りつめたのか、その人の過去を探るのが好きだったんです。
子供の頃から、人生を逆行するのが好きでした。普通は活躍している人を見続けますが、僕はその人が引退した瞬間から遡るのがすごく好きなんです。たとえば、みんなは大谷翔平の「今」を追いかけていると思いますが、僕は今、イチローの過去を探っています。
引退する瞬間は、それまで興味を持っていなかった人も含め世の中が興味を示しますが、そこからあとはたいてい興味を持たれなくなったり、忘れ去られてしまったりすることの方が多いと思います。でも僕は、そういった「一つの終わりを迎えた人」の過去に興味がありました。「終わる」その時までどう生きたのか、何を感じ、何を考えていたのか。そこに想いを馳せることで、自分のこれまでやこれからを見つめ直すことができたりします。
今の事故物件住みます芸人の活動と通じるものもあると思います。
生まれて初めて買った偉人の自伝は『波瀾万丈 辰吉丈一郎自伝』でした。
「負ければ引退」とうたっていた辰吉丈一郎と薬師寺保栄の試合をたまたまテレビで見て、辰吉選手のドキュメンタリーも見て、彼に興味を持っていた小学6年生の時に買って読みました。
親の買い物についていくと、スーパーの横にある本屋にいつも行っていたんです。ちょうど読書感想文を書かないといけなかった機会に、書くなら辰吉だ!と思って買いましたね。
ずっと覚えているのは、奥さんのためでも家族のためでもない、俺は俺のためにボクシングをするという一文で、「え? 自分のためにやっていいんや」というのが衝撃でした。家族のために仕事するとか、親のために勉強するとか、愛する人のために戦うとか、それまでテレビや漫画で見て当たり前に思っていたことが覆されたんです。あまりに衝撃的で、そこにマーカーを引いた記憶があります。
スーパー横の書店では、コミックもいろいろ買っていました。
特につの丸先生の『モンモンモン』は、月3,000円の小遣いで、新刊が出たらすぐに買って、初めて自分で全巻揃えたマンガです。
おさる刑務所に捕まった主人公のモンモンが、本人の意思とは無関係にトラブルを解決していき、いつのまにか仲間が増えていくギャグマンガですね。モンモンはいたって真面目で、言っていることは無茶苦茶なんですが謎の説得力があって、周りはどんどん振り回されていきます。本人はふざけているわけではないのに笑えてしまう、その感じが僕にはちょうどよかったんです。
また、モンモンの行動原理は一貫していて、常に弟のモンチャックを守るために動きます。自らの命を顧みないモンモンの姿に最後は涙しました。登場人物はほとんどフルチンだし、オナラやウンチも必ず出てくる下品なマンガなんですけどね、なんか感動するんですよね。
同じくコミック作品ですが、相原コージ先生の『かってにシロクマ』も印象に残っています。僕が小学生だった当時はすでに完結していて、家に1〜4巻だけがあり、足りない巻を同じ本屋で自分で買いました。
動物の生態を面白おかしく描いたギャグ漫画なんですが、主人公の白いヒグマ・シロの初恋相手であるヤマネのちょしちゃんが、シロのお母さんに食べられてしまうエピソードで小学生の僕は号泣しました。
ギャグ漫画のなかに突然描かれる自然の摂理や人生の不条理は、幼少期の自分に深く突き刺さりましたね。こうしたほんわかした日常にこそ突然の悲しみが訪れる現実を教わったように思います。
そう考えると、本屋さんで今の自分に影響を与えた作品にたくさん出会っていますね。
著者の最新刊
『事故物件怪談 恐い間取り4 全国編』
著者:松原タニシ
発売日:2025年6月
発行所:二見書房
定価:1,650円(税込)
ISBN:9784576250540
“本当に起きたこと”だけを静かな筆致で書く怪談と、臨場感あふれる間取り図が「怖すぎる…!」と話題を呼び社会現象に。
最新刊の4作目は、北海道から東北、北陸、関東、名古屋、関西、四国、福岡、沖縄まで、全国の事故物件に実際に住んで体験した&取材した不思議な話を、間取り付きで紹介。
「増築増築増築増築……を重ねる謎の家」「次々と人が死ぬ家」「3億円の事故物件」ほか
(二見書房公式サイト『事故物件怪談 恐い間取り4 全国編』より)