“書店で誰でもサンタクロースになれる”をコンセプトに2017年にスタートした「ブックサンタ」は、NPO法人チャリティーサンタと書店が連携した社会貢献プロジェクトだ。
寄付を受け付けているパートナー書店に来店したお客様が子どもたちに贈りたい本を購入し、そのままレジでその本を寄付することで、経済的理由や闘病、被災など厳しい環境に置かれている全国の子どもたちへクリスマスや誕生日のプレゼントとして本が届けられる仕組みだ。
6年目となる今年も11月1日から12月24日に開催される本取り組みについて、チャリティーサンタ運営事務局の清輔夏輝氏、丸善ジュンク堂書店の片田英伸氏、リブロプラスの野上由人氏にオンラインにてお話を聞いた。
【ブックサンタ2022】
◎開催時期:2022年11月1日~12月24日
〉寄付の参加方法、プロジェクトの詳細はこちら
●パートナー書店の募集要項・参加方法
※書店の参加受付締切は9月16日まで
◎参加費:1店舗あたり税込1,100円(拡材一式を事務局より送付)
◎応募方法:応募フォームよりお申し込みください。
◎参加詳細:国内の新刊書店であれば参加可能。店舗オペレーションなどマニュアルも用意されています。
◎お問い合わせ:info@corp.charity-santa.com
本を贈ることの価値や期待感を社会貢献に
――チャリティーサンタは、子どもたちの健全育成のためのチャリティー活動を行うことを目的に、2008年から活動している団体ですね。ブックサンタはどのような経緯で始められた取り組みなのですか。
清輔 以前、日販の広報にいた方とご縁があったことがきっかけです。私たちは設立以来、小さなお子さんがいるご家庭に、クリスマスイブの夜にサンタクロースに扮したボランティアがプレゼントを届ける「サンタ活動」を行ってきました。
その中で、私たちがより良いプレゼントを届けられないかと思っていたこと、彼女も出版取次として社会に貢献できることがあるのではないかと考えていたことから、何度か一緒にミーティングをするうちに、この企画のアイデアが立ち上がりました。▲特定非営利活動法人チャリティーサンタ 代表理事 清輔夏輝 氏
――そこから書店様を窓口に、子どもたちに本を届けるという現在の形につながるわけですね。
清輔 私たちは活動を続けてきた中で、クリスマスとサンタクロースに関する調査を行っています。その分析結果からプレゼントとして本のニーズが高いことは把握していましたし、本を贈ることの価値や期待感は十分に感じていました。
ブックサンタの取り組みを始めて改めて思うことは、本は、僕が幼少期に読んだ数十年前の作品でさえ、価値が変わらずいまでもずっと残っている稀有なアイテムです。中でも児童書には、消費型のコンテンツとは違う、普遍的な価値を感じています。
――2021年は、42都道府県、前年からは154店増の461店舗が参加と、規模が大きく拡大したそうですね。これまで寄付された本は累計6万冊に上ると聞いています。
清輔 2021年の寄付冊数だけで3.5万冊となっており、ありがたいことに大きく伸びています。
――ここ数年は、コロナ禍も子どもたちの生活環境に大きな影響を及ぼしています。活動の過程でその影響を感じられることはありましたか。
清輔 コロナ禍になって、プレゼントを希望される家庭が増えたことは事実です。一方で、コロナ禍という社会状況を反映して記者の方たちの関心も高まり、2020年以降、ブックサンタがメディアで取り上げられることが格段に増えました。それによって集まる寄付の冊数も増えています。
――寄付意識を高めて取り組みを拡大していくためには、世間に広く認知してもらうことも不可欠ですね。
清輔 社会貢献への意識を醸成することも私たちの役割の一つだと考えています。そのため、2020年からは予算をとって広報活動にも力を入れています。
▲寄付された本は、サンタに扮したボランティアが申し込みのあった家庭に届けている
(「ブックサンタ」ホームページより)
告知と継続が寄付と認知を拡大
――チャリティーサンタとリブロ、日販が連携して取り組みが始動したブックサンタですが、野上さんはその当初から関わってこられたそうですね。
野上 「なんとなくこんなことを考えているけれど、書店としてできますか?」という段階で声をかけていただいて。書店側でできることとできないことがあるので、どういう形であれば実施できるのか、具体的な方法を話し合いながら第1回を開催しました。
当初からこの企画に関してはリブロ単独ではなく、いろいろな書店さんと一緒にやろうというプランを持っていました。最初はリブロで実験的にやってみて、ある程度、課題の整理と解決を図り、これならほかのチェーンさんに声をかけても大丈夫そうだということで今に至っています。
特に、丸善ジュンク堂さんが参加してくださったことで輪がぐっと広がりました。さらに今年は、新刊書店であればどの書店さんにもご参加いただけることになりました。9月16日が参加受付の締切となっており、どこまで店舗数が広がるかはわかりませんが、業界全体での取り組みに育ってきてよかったなと思います。▲リブロプラス 取締役 野上由人 氏
――丸善ジュンク堂さんは2019年からの参加だそうですが、当初から片田さんがご担当なのですか。
片田 私は事務局との打ち合わせの段階で店舗から現在の営業本部に異動してきましたので、その時点からの参加となります。2019年の夏に、弊社も「ブックサンタに参加する」という通達が本部から全店舗にあって、その時にこの活動を知りました。
――ブックサンタについてお聞きになった、最初の印象はいかがでしたか。
片田 所属が店舗であれ本部であれ社会に貢献したいという思いはありますが、書店はさほど利益が出る業態ではありませんので、できることは限られます。その中で、ブックサンタは商品登録など多少の手数は発生しますが、オペレーションも難しくなく、これなら続けていけると思いました。ましてや先ほど清輔さんのお話にもありましたが、本は時を超えて受け継がれていくものでもありますので、書店ならではの良い企画だなと。▲丸善ジュンク堂書店 営業本部 営業企画部片田英伸 氏
――丸善ジュンク堂さんでは1店舗で千冊を超える寄付を集めているお店もあると伺っています。告知などで工夫されていることはありますか。
片田 参加当初からその数が集まったわけではありませんが、2年目、3年目と継続していく中で増えていき、池袋本店や丸の内本店などの大型店では、単店で千冊を超える店が出てくるようになりました。
実施時期は当然どの書店でもクリスマスフェアなどの打ち出しをしていると思いますが、ブックサンタに関しては、まず活動について知らしめることが大事だと思いました。そこで、児童書売場だけでなく、レジ周りなど人通りの多い場所にポスターを貼るように指示を出しました。実施した途端に寄付も増えだしたという報告を受けており、実際に数字も伸びています。
清輔 丸善ジュンク堂さんでは、検索機でも広告を出していただいていましたよね。
片田 そうですね。過去には、提携しているクレジットカードの、郵送で届く利用明細書に広告を載せたこともあります。どちらも担当部署から依頼が来て実施していますが、私のいる部署も宣伝を担当していますので、ブックサンタのような拡大すべき取り組みは、全社でできる限りの露出をしていきたいと考えています。
▲丸善アスナル金山店様では、ポスターとともに寄付された本のタイトルを柱に掲出。告知としてもインパクトのある展開
――リブロさんでは告知に関してどのようにお考えですか。
野上 丸善ジュンク堂さんのような大掛かりな促進はできていなくて、店頭告知を主にしています。
企画を開始した当初は、告知をすることで、サンタクロースの存在を100%信じている子どもたちがその存在を疑うようなことがあってはよくないだろうという懸念もありました。そこで、大人の目にだけ触れるように、ポスターよりもレジでチラシを配ったほうがいいのではないかといった試行錯誤もしましたが、どうやらその心配は必要ないことがわかってきたので、最近はあまり遠慮しなくなっています。
清輔 最初のうちは、こちらからもそのようなお願いをしていました。児童書コーナーという子どもがたくさん来るところにポスターを掲示するのは初めてのことでしたし、場合によってはそれを見た親御さんからクレームが来る可能性もあるのではないかと危惧していました。結果的にそういう声はまったくなかったので、いまはその部分は気にせず実施しています。▲リブロ ベニバナウォーク桶川店様での店頭展開の様子。クリスマスの絵本と一緒に、リースなども用いて華やかに告知
――店頭のオペレーションについても、リブロさんで改良を重ねてこられたとのことですが、どういったところに一番ご苦労されましたか。
野上 お客様が店頭で購入された本をその場で寄付していただくという仕組み自体は当初から変わっていません。ただ、お預かりした本の扱いについては何段階か進化しています。
昨年大きく変わった点としては、預かった本の単品情報をチャリティーサンタ側がウェブ上で収集できる仕組みができたので、どの本が何冊寄付されるのかが事務局でダイレクトにわかるようになりました。店舗でのオペレーションとして、こういった作業が整理されてきたことは大きいですね。
清輔 そのシステムの製作にあたっては、事前に野上さんと片田さんにアイデアをいただき、実際に形にしてみて運用できるかどうかを店舗の皆様にも確認いただくなど、ご協力を得て作っています。
――丸善ジュンク堂さんは、参加にあたってオペレーション上の混乱などはありませんでしたか。
片田 全店の担当者と直接話すのは難しいので、参加した2019年は、通達を繰り返してオペレーションの確認を徹底しました。ミスも多少はありましたが、回数を重ねていくことによって改善されてきています。
野上 弊社もこの5年で取り組み内容は社内的にかなり浸透してきてはいますが、実際は失敗もあります。以前はブックサンタについて理解が浅いスタッフもいて、対応に時間がかかってしまいクレームをいただくこともありました。
片田 同様のケースは弊社でも発生していましたし、毎年新しいスタッフも入ってきます。企画の意味をどのように各人に落とし込んできちんと把握してもらうかは、開始前の課題ではあります。
――そういったご経験から、缶バッジが作られたのですね。
清輔 その通りです。「ブックサンタについてはこのスタッフに聞いてくださいね」という目印としてお渡ししています。
――そのほか、2022年の実施に当たって変更点などはありますか。
清輔 昨年、「目標数の6万冊に達し次第受付を終了する可能性があります」というルールを新たに設定したのですが、今年は上限は設定せず、元の形に戻します。事務局の受け入れ体制の問題で、想定を大幅に超える冊数が集まった場合、キャパを超えてしまう可能性がありました。
しかし、参加書店さんのアンケートでも、「せっかくの志を受けたい」「いつ受付終了するかわからない企画は促進しにくい」といったお声をいただきましたので、今年は想定の倍くらいまでは対応できるよう、先述のシステムをはじめ人員体制も整えています。
①店頭用ポスター:A2やA4のポスター、A4コーナーPOPなど、広報用データはFAQページからダウンロードできる
②書店員さん用の缶バッジ:児童書担当など「ブックサンタについて理解している人」が付けることで、お客様へのスムーズなご案内が可能に
③④レジで参加者にお渡しする参加ステッカーとサンクスレター
次世代に思いをつなぐ取り組みに育てたい
野上 今後は参加書店の輪をどれだけ広げていけるかが課題ですね。参加書店がほとんどないエリアもあるようなので、全国どこでも寄付ができる形ができてくると、当初目指したものに近いかなと思います。
――事務局としては、今後どのように参加書店を増やしていきたいとお考えですか。
清輔 まずは多くの方に趣旨にご賛同いただけるよう、認知拡大に取り組んでいきます。その上で、今年は47都道府県、参加店舗数1,000店という目標を持っています。
また、店舗側の負荷についてお問い合わせをいただくことが多いので、そういった不安を解消すべく、情報をオープンにしていきます。マニュアルのほか、店舗側でのオペレーションについての説明動画も作成していますので、少しでも興味を持っていただいた書店さんにはぜひご覧いただければと思います。
野上 チャリティーサンタで考えられたこの仕組みは当初からよくできていると思っていましたし、とにかく敷居が低いんです。参加コストもそうですが、基本的に書店は本を売るだけで、特別新しいことはしていません。
同様に、お客様も本屋で本を買ってその場に置いて帰るだけなので、個人情報を晒すこともありません。参加するのに手間もかからないし、心理的な負荷も軽くて、簡単にできてしまう。それは誰でもふらっと立ち寄れる、書店という業態の敷居の低さが企画にもマッチしているのでしょう。
――寄付される本の傾向や、寄付してくださるお客様層の特徴などはありますか。
清輔 贈られる本の種類も少しずつ広がってきています。当初は「クリスマスに、厳しい環境に置かれている全国の子どもたちに絵本・児童書を届けよう」をスローガンにしていたのですが、対象を「0歳~高校生の厳しい環境にいる子ども」としているので、中学生、高校生に読んでほしい本の寄付も増えてきて、文庫なども一定数を占めるようになってきました。
野上 基本的には子育て世代の方が多いように思います。ただ私もそうですが、絵本や児童書って自分に子どもがいないとなかなか買う機会がないんです。大半の人が子どものころに読んでいた絵本を覚えていたり、好きな本があったりするけれど、なかなか人にプレゼントする機会がない。ところがこの企画だと、自分や身近に子どもがいなくても本を贈ることができます。なので、老若男女にかかわらず、興味を持ってくださる方の幅は広いと思います。
片田 弊社では、百貨店に入っている店舗が、規模の割には寄付数が多いですね。比較的余裕のある方が多いこともあるのでしょう。また、関西よりは関東の店舗での寄付数が多いです。店頭告知の仕方などの要因もあるのかもしれませんが……。
清輔 それはもしかすると、関東エリアでのメディア掲載のほうが多いからかもしれません。
野上 ブックサンタのことは書店に来てから初めて知る方ばかりではなくて、SNSなどで企画を知って、参加書店を探して来店されるお客様が結構いらっしゃいます。そういう意味では、普段の児童書の売上規模に関係なく、駅に近いところなど、交通の便が良い店舗に寄付が集まる傾向があります。
弊社の場合で言うと、通常は郊外のショッピングセンターに入っている、家族連れでにぎわう店舗が児童書の売上順位が高いのですが、ブックサンタの場合、駅前の小さな路面店や乗換駅の中の書店など、普段はそんなに児童書を売らない店舗が寄付を多く受け付けています。書店側にとっては新規顧客の創出にもつながりますね。
児童書はギフトとしての位置づけがあって、特に12月はどこの書店もラッピングラッシュです。そこにブックサンタが加わることで、ギフト需要が高まったととらえています。児童書担当者は、洋服やおもちゃではなくやはり本を贈り物にしてほしいと思っていますので、特にノリノリです。12月のギフト商戦に本という商材をアピールする、よい機会になっています。
清輔 寄付された方のアンケートによると、「この企画をどこで知りましたか」という設問では、「参加書店のポスターやチラシで知った」という方が大体3~4割です。つまり残りの方は何かしら違う媒体で知ったことになりますので、書店さんにとっても、社会貢献に取り組んでいる企業としての認知度アップにつなげていただけるのではないでしょうか。
片田 昨今は特に企業の社会的責任が問われていますし、そうでなくとも何かしら社会に貢献したいという思いは多くの人が持っているのではないでしょうか。ブックサンタは書店がそんなに負担を背負わなくても、全社が一丸となって貢献できます。だからこそスタッフみんなが一生懸命取り組んでくれていますし、社会に役立つ活動をしているという意識が持てる。そういった意味でも、本当にいい取り組みに参加させていただいているなと思っています。
――清輔さんの元にはパートナー書店様や寄付をされた個人の方などから、さまざまな声が届いているかと思いますが、これから参加される方へのメッセージなどがあればお聞かせください。
清輔 このプロジェクトにはたくさんの共感をいただいており、とてもうれしく思っています。
私が一番驚いたのは、子どもたちに本を届けたいという方はもちろんのこと、好きな著者や、好きな書店を応援したい方が多かったことです。たとえば大好きな本を、自分で読む用や保管用、プレゼント用に買ったとしても、せいぜい3~4冊ぐらいしか買えなかったけれど、ブックサンタでは毎年大っぴらに好きな本を薦めることができる。そんな“推し活”ができるという方たちもいらっしゃいます。
同様に、好きな書店に貢献できるのがうれしいという声も届いていて、そういう方たちにこの取り組みを知ってもらえると、みんながハッピーになれる。先ほど野上さんもおっしゃっていましたが、子育て世代に限らず、幅広い方たちに知ってもらえるような広報活動を事務局側でもしていきますし、書店さんにも地元紙などメディアへの働きかけや、SNSでの積極的な発信をお願いしています。
先日、あるご家庭にインタビューをさせていただいたのですが、もともと特に本好きではなかった小学校中学年の女の子が、ブックサンタでクリスマスにプレゼントしてもらったことがきっかけで本が大好きになり、今度は自分の誕生日に同じシリーズの違う本が欲しいとお母さんにリクエストしたそうです。世界の女性の偉人伝だったのですが、本にはびっくりするぐらいたくさんの付箋がついていて、目標とする人物が決まったみたいです。
そこから勉強もすごく頑張っていると聞いて、これをきっかけに将来活躍する子が生まれるかもしれないと、楽しみにしています。
▲清輔さんがインタビューした女の子のプレゼント本には、びっしりと付箋が貼られている。本の様子からも、相当読み込んでいることが伝わってくる。そんな本との出合いがあるのもブックサンタの醍醐味
――誰かの思いが本に託されて子どもたちに届き、未来を育んでいく。そんな輪がどんどん広がってほしいですね。
清輔 この取り組みに共感してくださる方の多くは、幼い頃に読書のポジティブな経験がおありだと感じています。私の知っている経営者で、毎年図鑑を10冊単位で寄付してくださる方がいるのですが、その人は自分が子どものころにもらっていたクリスマスプレゼントが図鑑だったそうです。それが嬉しくて今の自分を作っていると思うから、ブックサンタでも図鑑を寄付しているとおっしゃっていました。
その思いを受け取った子どもたちがまた、次世代にバトンをつなげてくれる。ブックサンタがそういう取り組みとして育っていってくれるといいなと思っています。
野上 特に絵本は、もともと誰かのために買うものなんですよね。自分のために買う人ももちろんいますけれど、基本は子どものため、孫のため、友だちの子どもにプレゼントとして買う。ブックサンタは誰の手に届くかはわからないけれど、「この本を読んでほしい」という気持ちはそのまま、心構えも必要なく、日常の延長でできるのがいいところだと思います。だからこそ書店業界ならではの取り組みとして、どんどん広げられたらいいですね。
▲事務局には、過去に本を届けた家庭や団体からの喜びの声が数多く届けられている(「ブックサンタ」ホームページより)
(2022年7月15日取材)