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【東京都品川区】フラヌール書店・久禮亮太さんのおすすめ本『ストーナー』|「あのとき気づけなかった」人生の煌めきを再発見する、美しい小説(わが店のイチオシ本:vol.74)

フラヌール書店様1

全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。

第74回は、東京都品川区にあるフラヌール書店を営む、久禮亮太さんのご登場です。

フラヌール書店 久禮亮太さん

 

今回、久禮さんが紹介してくださるのは、2014年に邦訳版が刊行され、現在33刷のロングセラーとなっている小説『ストーナー』です。本書は、2023年3月のオープン以来、フラヌール書店でもっとも売れている本だそう。久禮さんのSNSでの発信が重版にもつながったという『ストーナー』の魅力について、久禮さんにたっぷり綴っていただきました。

 

ストーナー

『ストーナー』
著者:ジョン・ウィリアムズ、訳:東江一紀
発売日:2014年9月
発行所:作品社
定価:2,860円(税込)
ISBN:9784861825002

 

地味だけど美しい。ありふれた生活の愛おしさに気づかせてくれる作品

私たちは年を重ね、ふと「結局、何者にもなれなかった人生だったな」と、ある種の安らかな諦めを感じることがあるかもしれません。だけどそれで良かったと心から思える瞬間をこの作品は描きます。文学者への道に挫折した田舎の老教授が「あのとき気づけなかった」人生の煌めきを再発見する、美しい小説です。

この『ストーナー』について、こんな紹介文を書いてTwitter(当時)にアップしたのは2022年の9月3日のことでした。瞬く間に「いいね」やリツイートなどたくさんの反応があり、それは今でも続いていて、824のリポスト、6647の「いいね」、1433のブックマークを記録しています。大好きな小説だからおすすめしたことには違いありませんが、いつもやっている本のおすすめ投稿のひとつとしか思っていなかったので、この大きな反応には驚きました。

実際に店頭でお買い上げいただいた冊数でも、この本はフラヌール書店のトップの座を開業以来ずっと守り続けています。正確に言えば、開業前、目黒のカフェ店内に間借りして出張本屋をやっていたころから、ずっと一番。「わが店のイチオシ本」といえば、間違いなくこれです。

貧しい農家に生まれた青年ウィリアム・ストーナーは文学に魅了され、家業を継ぐ道を捨てて夢を追います。けれど、現実には田舎の大学になんとか職を得て結婚し、メンタルが不安定な妻や子育てに悩んだり職場の人間関係が拗れて落ち込んだり老いた親を看取ったりしながら、私たちも皆そうであるように普通に年をとっていく。それでも、ふとこれまでの人生を振り返ったとき、いっときの道ならぬ恋や時折り訪れる妻子との安寧、教師として教え子に伝えられた文学の輝きなど、ささやかな喜びが思い出されて、案外いい人生だったなと気づく。

はっきり言って、地味な小説です。でも、とても美しい。ささやかな日常の出来事を品のある豊かな語彙で丁寧に描写し、ありふれた生活の愛おしさに気づかせてくれます。

物語のそこかしこで、2つの世界大戦をめぐる情勢が詳細ではないけれど確かな存在として描かれています。遠い欧州から始まった戦争が徐々にアメリカの田舎に暮らす人々の日常に迫り、ウィリアムの人生にも何度も影響を与える。そのたびに私たちは、ウィリアムはこれからどうなってしまうのだろうと気を揉む。そんな不安をよそに、彼の人生はゆっくりと進んでいきます。戦争へと人々を駆り立てる社会の中では、彼が文学と平凡な生活を愚直に愛する生き方こそが、実は何よりも尊い非暴力の精神なのではないかとも思えてきます。

◆作り手からのメッセージ◆

昨年、邦訳刊行から10年を迎えた『ストーナー』ですが、刊行翌年の第1回日本翻訳大賞「読者賞」受賞以来ずっと、久禮さんをはじめとして、ときおり誰かが取り上げてくださって、新しい読者との出会いのきっかけになる、ということが続いています。紹介者と読者に恵まれた一冊です。昨年で没後10年となった東江一紀さんが、最後にどうしても訳したいと熱望したこの小説、まだまだ読まれ続けてほしいと思っています。

(作品社 編集担当 青木誠也さんより)

フラヌール書店様3

 

フラヌール書店

フラヌール書店様2

フラヌール書店 公式サイト

〒141-0031 東京都品川区西五反田5-6-31