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【宮島未奈さんの書店との出合い】『成瀬は天下を取りにいく』静岡書店大賞受賞で感じた故郷の温かさ

宮島未奈さん近影

書店にまつわる思い出やエピソードを綴っていただく連載「書店との出合い」。

今回は、デビュー作『成瀬は天下を取りにいく』で数々の賞を受賞した宮島未奈さんです。

わが道を進む唯一無二の主人公・成瀬あかりを中心に描かれる青春小説が話題をよび、続編『成瀬は信じた道をいく』が1月24日(水)に発売される宮島さん。デビュー作を多くの読者に届けてくれた書店への感謝とともに、静岡書店大賞を受賞したことで感じた故郷への思いを綴っていただきました。

宮島未奈
みやじま・みな。1983年静岡県富士市生まれ。滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー、10万部を突破し話題になる。

 

あたたかいふるさと

『成瀬は天下を取りにいく』はプルーフ配布の段階から多くの反響が届いた。応援団書店「成瀬班」の募集に全国各地の書店が手を挙げてくださり、発売直後のTwitter(現X)にはたくさんの成瀬が売り場に写り込んでいた。

デビュー作が半年で10万部という快挙を達成できたのも、読者に届けてくれた書店さんのおかげである。

わたしの住んでいる滋賀をはじめ、東京、名古屋、岐阜、京都、大阪、福井など、たくさんの書店さんにお邪魔した。どの書店員さんも興奮気味に“成天”の魅力を語ってくださった。はっとするような感想をいただくことも多く、たいへん刺激になった。

とりわけ多くの人から寄せられたのは続編を待望する声だ。もともとわたしは続きを考えていなかったのだが、リクエストに応えるよう書き進めていった。

続編の執筆が一通り終わったわたしに舞い込んだのが、静岡書店大賞受賞の報せである。

静岡書店大賞は静岡の書店さん、図書館員さんの投票によって選ばれる賞だ。小説部門、児童書・新作部門、児童書・名作部門、映像化したい文庫部門の4部門があり、毎年さまざまなジャンルの作品が受賞している。

静岡県富士市出身のわたしは、故郷の賞を受賞できたことに喜びを感じる一方で、ほんの少し後ろめたさを感じていた。というのも、『成瀬は天下を取りにいく』の舞台は滋賀県大津市。発売日には滋賀県知事を表敬訪問し、滋賀のメディアにもたくさん取り上げられた。著者プロフィールに「静岡県富士市出身」と書かれているものの、物語の中に静岡は出てこない。

そんな申し訳ない気持ちも、授賞式のため6年ぶりの静岡駅に降り立った瞬間霧散した。そこは紛れもなく、わたしが慣れ親しんだ街だった。銘菓「こっこ」の広告や、駅ビル「パルシェ」のロゴなど、昔から変わらないものがたくさんある。沼津魚がし鮨の海鮮丼を食べ、おまち(静岡市中心街のこと)を散策しながら、わたしは何度も「懐かしい~」とひとりごちた。

夕方になり、授賞式の控室に入ったわたしを迎えてくれたのは、西武大津店と成瀬あかりのミニチュアだった。静岡書店大賞の主催のひとつである吉見書店さんが自作したという。わたしの著書にこれほどの情熱をかけて向き合ってくれたのかと感動した。

授賞式には200人以上の関係者が出席していた。コロナの影響で、4年ぶりの開催だという。思えばわたしが2021年にR-18文学賞を受賞したときはコロナ禍の真っ只中で、授賞式は新潮社の会議室で10名ほどしか参加できなかった。そのときにデビューしていたら、書店訪問にも制限があったことだろう。R-18文学賞授賞式への無念な思いは決して消えないけれど、こうして新たに晴れやかな思い出ができたのはよかったと思う。

懇親会にはわたしが10代の頃に利用していた谷島屋富士店さんもいらっしゃった。作家として再び出合えたなんて、夢のようだ。持参されていた西武ライオンズのフラッグにサインさせてもらった。

その日のうちに滋賀に帰ったわたしだが、静岡新聞や静岡のローカルテレビ局で取り上げられている様子をWebで確認し、とんでもなく大きな賞をいただいたのだと驚いた。どの媒体も「富士市出身の宮島さん」と紹介してくれていて、故郷の温かさを感じた。

いつかまた、さらに大きくなって凱旋したい。

 

著者の最新刊

成瀬は信じた道をいく
著者:宮島未奈
発売日:2024年01月
発行所:新潮社
価格:1,760円(税込)
ISBNコード:9784103549529

成瀬の人生は、今日も誰かと交差する。「ゼゼカラ」ファンの小学生、娘の受験を見守る父、近所のクレーマー主婦、観光大使になるべく育った女子大生……。個性豊かな面々が新たに成瀬あかり史に名を刻む中、幼馴染の島崎が故郷へ帰ると、成瀬が書置きを残して失踪しており……!? 読み応え、ますますパワーアップの全5篇!

(新潮社公式サイト『成瀬は信じた道をいく』より)

 

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