書店にまつわる思い出やエピソードを綴っていただく連載「書店との出合い」。
今回は、待望の新作『歌われなかった海賊へ』が10月18日に発売された、逢坂冬馬さんです。
「アガサ・クリスティー賞」を受賞したデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』が、「本屋大賞」や「高校生直木賞」にも選ばれ、累計発行部数が50万部を超えるベストセラーとなっている逢坂さん。
そんな逢坂さんは、“書店訪問”という機会を通じて、さまざまな出会いと回答を得ているのだそうです。書店ならではの“併売”からもたらされるというその内容について、逢坂さんに綴っていただきました。
逢坂冬馬
あいさか・とうま。1985年、埼玉県生まれ。明治学院大学国際学部国際学科卒。2021年、『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞を受賞しデビュー。同作で2022年本屋大賞、第9回高校生直木賞を受賞した。2023年に、ロシア文学者であり実姉の奈倉有里との対談本『文学キョーダイ!!』が刊行された。
小説を映す鏡
小説家として、自らの著した小説がいかなる「ジャンル」として受容されているのかを知ることは、なかなか難しいものがあります。
特に私の場合は難しいもので、デビュー作、『同志少女よ、敵を撃て』は、ミステリ界の偉人、アガサ・クリスティー先生の名を冠した新人賞を受賞した作品でありながら推理要素が皆無であり、冒険小説であると捉えるとしても主題としての「独ソ戦のソ連女性兵士」について先例が豊富とはいえませんでしたから、自分の作品が果たしていかなるジャンルと言えるのか、と問われれば明確な答えは準備していませんでした。つまり果たして私は、自作がどのような本と通底し、いかなる分野と共鳴しているのかを理解していなかった、とも言えます。
小説家の仕事の一つである「書店訪問」は、この疑問に答えをいただく貴重な機会でもあります。『同志少女よ、敵を撃て』は多くの書店で素晴らしい展開をしていただきました。数多くの手書きポップ、そこに綴られた書店員さんたちの思いは今も記憶に残っていますし、またありがたいことに、多くの売り場ではさまざまな関連書籍を併売していただきました。
新人であった私については、当然過去作と併売することはできません。それもあってか、私の著作とともに並ぶ本が何であるかは、各書店によってさまざまに異なっていました。あるお店では独ソ戦の通史、あるお店ではソヴィエト連邦に関する関連書籍、あるお店では過去の戦争小説の名作、そしてあるお店では反戦平和に関する書籍……。書店訪問において、各書店の皆さまが自著を「どのような本と並ぶべきであり、何と共に売るべきと考えたか」を知る機会をいただきました。それらすべての出会いに対して感謝しています。
それらの体験によって、私は自作のジャンルについてある種の回答を得たと感じました。すなわち同一の小説といえど、そのジャンル(すなわちその小説が属すべきカテゴリー)が何であるかは人によって異なるものであるし、各書店に見られる、自作を置く売り場の多様性は、同一作品を受容する側のジャンル分類の自由さ、多様さの発露であるとともに、それら多様な展開の一つ一つが、その小説を映す鏡といえるのです。
これらとは別に、結構な数の書店さんには「売上ランキング」が壁に掲示されており、自作がその中のどこにあるのか、あるいは無いのかを見る際には若干の冷や汗を感じますが、このランキングもまた自作を映す鏡の一つであろうと思っています。
長編第2作、『歌われなかった海賊へ』の出版を終えた今、書店訪問で同じ経験をしています。特に大垣書店イオンモールKYOTO店さんで併売していた、鴋澤歩先生の 『ナチスと鉄道 共和国の崩壊から独ソ戦、敗亡まで』(NHK出版新書)は、本来は執筆の時点で自分が入手しておくべき一冊であり、店頭で同書が自作と並んでいるのを見てその存在を知った際にはこれを速やかに購入し、自らの不勉強を恥じるとともに、書店員さんの慧眼と碩学ぶりに感服いたしました。
私用で書店を訪れ目的の本を買うついでにも、少々の恥ずかしさを覚えながら、時折自分の小説が置いてあるか否かを確認しています。当然そのお店ごとに異なる置き場があり、左右に置かれる本も異なっています。私はその並びのすべてを、自作の鏡として受け取っています。
著者の最新刊
- 歌われなかった海賊へ
- 著者:逢坂冬馬
- 発売日:2023年10月
- 発行所:早川書房
- 価格:2,090円(税込)
- ISBNコード:9784152102751
1944年、ナチ体制下のドイツ。父を処刑されて居場所をなくした少年ヴェルナーは、体制に抵抗しヒトラー・ユーゲントに戦いを挑むエーデルヴァイス海賊団の少年少女に出会う。やがて市内に敷設された線路の先で「究極の悪」を目撃した、彼らのとった行動とは?──本屋大賞受賞第一作。
(早川書房公式サイト『歌われなかった海賊へ』より)
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