全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第59回は、広島県広島市安佐南区にある、フタバ図書 TSUTAYA MEGA中筋店の書店担当・堺泰樹さんのご登場です。
今回、堺さんが紹介してくださったのは、小野美由紀さんの妊娠出産エッセイ『わっしょい!妊婦』です。
小野さん自身の妊婦生活や、妊娠から出産体験を通じて見えてきた現代社会の問題などを、赤裸々に書き綴ったエピソードが満載の作品です。
本作を読んで、妊娠出産は女性だけのことではなく、男性も関わるべきだと感じた堺さん。そのきっかけとなった本書の魅力について、綴っていただきました。
- わっしょい!妊婦
- 著者:小野美由紀
- 発売日:2023年07月
- 発行所:CCCメディアハウス
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784484222349
夫婦で共感し合える!妊娠出産エッセイ
本書を知ったのは、あるYouTubeチャンネルで紹介されていたからだ。ジャーナリストがゲストとニュースを解説するチャンネルで、普段からジェンダーや文化芸術に関するトピックも多く取り上げられている。このチャンネルの中で、ゲストが紹介していたのが本書だった。
おもしろそうだと思い、自分で読んでみると、とても興味深く引き込まれた。これは店でも売らないといけないと思い、展開している。情報はどこにあるかわからない。とにかく得た情報は、なんでも棚づくりに活かそうと考えている。
本書は、著者の妊活から出産に至る経験を紡いだエッセイである。文体もユーモラスで、笑いながら読める。私にも子どもがおり、妻とも話しながら、共感し合い、本を読んだ。
一方で、妊娠をきっかけに、この社会が「健常者の男性に合わせて設計された社会」であること、ハードモードな社会を生き抜く宣言をするところに、一線を画すものがあると思う。そして、出産を終えて描かれる著者の変化を記した文章は、素敵な出産への賛歌となっていて感動する。
いくつか印象的な文章を取り出してみる。
出生前診断を受けることの悩みについて述べる部分。「社会的な差別のまなざし、福祉の欠如、母親だけに育児の負担がかかる社会構造―それらすべてが、障害のある命を育てにくくしている。(中略)障害のあるなしが怖いのではない。『親の愛』にすべてを一元化する現代社会の構図が怖い」。
また、子どもの性別が女の子だとわかったあとにもこう宣言する。「女に対して投げかけられる、“こうあるべき”という身勝手な視線が、抑圧が、歴史と伝統という接着剤によってべっとりと社会に固着した偏見が、娘の道を細らせて、ふさいでしまわないように。私にできることは、彼女が大きくなるまでに、社会の中のそれらをできる限り減らすことだ。(中略)一人の女として。それは娘のためだけではなく、これから生まれるすべての女の子のために、である。」
私たちは個人的なことを個人の中に閉じすぎている。「個人的なことは政治的なこと」という言葉は、1960年代フェミニズムの有名なスローガンである。妊娠、出産、それに続く子育てはもっと社会に開かれるべきである。
例えば、少子化は問題だと皆が言う。しかし、妊娠や出産、子育ての苦労は自己責任だと言う。女性の問題にしがちである。『わっしょい!妊婦』は、妊娠から出産を通じて、それでも生きていくのだと述べる。これはとても力強い。しかし、本当は男性も一緒に、ちゃんと「わっしょい」と言わなければならないのだ。本書はその一歩になると思う。
◆作り手からのメッセージ◆
「大笑いした」「泣いた」「妊婦さんのつらさを初めてリアルに想像できた」と、男性や出産経験のない女性から感想が届きます。妊婦の視線で社会を書いた作品ですが、思い切りエンタメしています。世界に生まれた全ての存在を寿ぎ、優しくなれる。わっしょい!人間。エッセイ棚でぜひ手にとってみてください。
(CCCメディアハウス 書籍編集部 田中里枝さんより)
フタバ図書 TSUTAYA MEGA中筋店(Tel.082-830-0600)
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