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ヤマト屋書店仙台三越店のフェアの極意とは?「絶滅」も生み出した「ワンコイン文庫」フェアでお得と出合いを提供

ヤマト屋書店仙台三越店 ワンコインフェア

現在、ヤマト屋書店仙台三越店で開催されている「絶滅危惧!!ワンコイン文庫」フェア。ワンコインで買える作品の中からお客様におすすめしたい作品を選定し、展開している企画です。

まとめ買いをするお客様も多いという当フェアについて、同店文庫担当の鈴木典子さんにお話を伺いました。

 

文庫の値上がりをきっかけに、ワンコインで買える作品を一挙に展開

東北地方で最大級の店舗面積を有する仙台三越。ヤマト屋書店仙台三越店は、その定禅寺通り館の地下2階にあります。地下1階はフードガーデン、地下3階は仙台市営地下鉄の勾当台公園駅直結という便利な立地で、幅広いお客様が訪れます。そんな同店で鈴木さんが「絶滅危惧!!ワンコイン文庫」フェアを企画したのは、文庫の値上がりが続いていることがきっかけでした。

「私は当社以外の書店も含めると、新人の頃から30年近く文庫の担当をしています。品出しをしていて改めて感じたのが、文庫は消費税が入ると600円以上になる商品が多くなったなということでした。

紙の高騰やウクライナ情勢の影響などで、値上がりは致し方ない面があるのは承知していますが、私の持っている同じ文庫は300円台なのに……という作品もあって。1,000円札を出してもお釣りが数百円しか来ないのは、廉価で手に入るという文庫の良さの一つが失われてしまった気がして、残念に思っていました。

そこで、あえてワンコインで買える文庫を集めて展開してみようと各出版社の在庫を検索してみたのですが、税抜き450円だとほぼ絶版という結果に。少しずつ単価を上げて、在庫があるものを発注し、入荷した商品にオリジナルの帯を巻いて展開しています」

 

絶滅を危惧していたはずが、まさかの結果も!?

ワンコインで買えるという、限られた条件の中での選書となった今回のフェア。鈴木さんを含む文庫担当2人で選書から実施まで2週間ほどで準備をし、開催にこぎつけました。「そもそも絶滅しかかっている価格帯の文庫なので、選択肢も限られています。小説やエッセイを中心に揃えていますが、出版各社の夏の文庫フェアと同時期にスタートしましたので、(フェアの対象銘柄である)名作とは被らないようにしています」

当初は約100タイトルでスタート。「4冊買っても2,000円で収まる」と、まとめ買いをするお客様やリピーターの姿が目立つそうです。

「何回も売場に足を運んで、フェアの中から本を選んでくださる方がとても多いです。しかもみなさん、1冊ではなく複数冊レジにお持ちになります。

当初はそれぞれ3~5冊しか発注していなかったのですが、追加発注するうちに、出版社で品切れの商品も出てきてしまいました。企画の主旨をお話しした出版社さんからは、『倉庫の在庫がなくなったら絶版になります』と言われたタイトルもあり、何作かは私たちが本当に絶滅(絶版)させてしまったと複雑な思いもあります」

ヤマト屋書店様ワンコインフェア ▲帯は、絶滅危惧種であるイリオモテヤマネコと「値上がりする前に買ってね。絶滅しちゃうよ」というフレーズが印字されたオリジナル

 

フェアのコーナーでは、パネルや棚下に今回のテーマである「ワンコイン」を模した装飾も実施。オリジナルの統一帯が巻かれているので対象作品がわかりやすく、棚の前で足を止めるお客様も多く見受けられます。

「年齢問わず、多くのお客様にお買い上げいただいています。新刊でもない、普通であれば平積みにならないような商品を集めて置いているので、普段から文庫売場に立ち寄られるお客様にはかえって目新しさを感じていただけるのではないでしょうか」

フェアコーナーには、蓮實重彦さんの『伯爵夫人』(新潮文庫)や小学館コロコロ文庫の『ドラえもん』、『ドリトル先生アフリカへ行く』(角川文庫)などバラエティに富んだ作品が並びます。「日本を代表する名作文学をたくさんの方に読んでほしい」と刊行された角川春樹事務所の「280円文庫」も在庫限りとのこと。特に、よしもとばななさんの『キッチン』(新潮文庫)や綿矢りささんの『蹴りたい背中』(河出文庫)などの売行きがよいそうです。

 

「お客様目線」を大切に、喜ばれるフェアを考案

お手頃価格で、意外な作品との出合いも提供してくれるフェアとなっていますが、鈴木さんも「実は、当初はここまで売れるとは思っていなかった」と言います。

「値段をフックに打ち出した企画なので、タイトルとして魅力を感じていただけるか不安がありました。ここ数年は、『。文庫(まるぶんこ)』と謳ったフェアを実施していましたが、今年は違うことをしようと実施したのが今回のフェアです。よい作品は、絶版になってしまう前に、一人でも多くのお客様に届けたいと思っています」

▲昨年まで実施していた「。文庫」フェア。文庫の最後のフレーズを印刷したカバーを巻いて、文庫名は隠して展開

 

フェアを実施する際には、何より「お客様目線」を大切にしているという鈴木さん。

「収支のバランスをとることも必要ですが、まずはお客様に喜んでいただけることが一番だと思っています。今回のフェアに関しても、ほかのスタッフが『4冊お買い上げのお客さんがいらっしゃいました』『みなさんこのコーナーからお求めになりますね』と報告してくれるのも楽しみになっています」

フェアの成功は店舗全体の活性化にもつながっているようで、「今回一緒にフェアを実施したスタッフは2年目の若手なのですが、発注する商品を決めるために目録を家に持ち帰って読んでくれるなど、すごく勉強して取り組んでくれました。人づてに『いつか自分も今回のようなオリジナルのフェアを組めるようになりたい』と言っていたという話を聞いて、とてもうれしかったです」

今後も、「お客様に喜ばれる、さまざまな切り口のフェアを実施していきたい」と意欲的な鈴木さん。いろいろな作家が影響を受けた著者や作品を紹介したり、児童書やライトノベル、一般文芸などジャンルを横断して活躍している作家の作品を並べたりといったフェアを考えているそうです。作家・作品同士のさまざまなつながりや、「この作家さんはこんなジャンルの本も書いていたんだな」といった、発見と新たな出合いを売場で提供していきたいと語ります。

「絶滅危惧!!ワンコイン文庫」フェアは9月末までの展開予定。児童書も担当しているため、10月からは食欲の秋にあわせ、絵本のフェアを準備中です。「絵本には、食育に役立つ本が多いですし、『ノラネコぐんだん』や『パンどろぼう』といった人気シリーズも数多くあります。

昨年は、“パンケーキ”や“果物”など食べ物の種類ごとに絵本を並べ、トレーやトングを添えたビュッフェ形式でフェアを開催しました。今年はお菓子屋さん、パン屋さん、八百屋さんと“お店屋さん”をテーマに、売場でお買い物を楽しんでいただければと考えています」

ヤマト屋書店様ビュッフェ①ヤマト屋書店様ビュッフェ➁

▲昨年のフェアでは、おすしやパン、ホットケーキなど、食べもの別に絵本を集め、ビュッフェの雰囲気を演出。親子連れに喜ばれた

 

さまざまなフェアでお客様を楽しませているヤマト屋書店仙台三越店に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。


ヤマト屋書店仙台三越店(Tel.022-393-8541)
〒980-8543 宮城県仙台市青葉区一番町4-8-15
仙台三越定禅寺通り館 B2F
営業時間 10:00~22:00 ※現在10:00~21:00で時短営業中