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自分を知って、もっと好きになりたい。ジェーン・スーさんに聞く「悩み」との向き合い方

ジェーン・スーさんプロフィール写真

作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティとして活躍するジェーン・スーさん。鋭い観察眼から放たれる“刺さるけど沁みる”言葉の数々は、アラサー・アラフォーの女性を中心に、多くの人々から支持されています。
なかでも人生相談・お悩み相談は、そんなスーさんの「客観的な視線」と「ユーモア」が詰まった真骨頂ともいえるもの。

今回は、悩みとの向き合い方や、そもそもなぜ私たちは悩むのかなど、「悩み」にまつわるあれこれについてお聞きしました。

ジェーン・スー
1973年、東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、『女の甲冑、来たり脱いだり毎日が戦なり。』(文藝春秋)、『私がオバサンになったよ』(幻冬舎)、『これでもいいのだ』(中央公論新社)、『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮社)、中野信子との共著『女に生まれてモヤってる!』(小学館)など著書多数。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」放送中。

女のお悩み動物園
著者:ジェーン・スー
発売日:2020年11月
発行所:小学館
価格:1,650円(税込)
ISBNコード:9784093426183

“真面目に働いてりゃ、悩んで当然! 仕事、友人関係、自分の性格、親兄弟に恋愛まで。あなたの悩みは、きっと誰かの困りごと。”

『女のお悩み動物園』は、雑誌「Oggi」(小学館)で2015年から続くコラム連載を一冊にまとめたもの。「恋人はほしいけど、マッチングアプリって“いい出会い方”なの?」「職場が男社会で、女の私は舐められている気がする」「親がわずらわしくて耐えられない」「どうすれば“親しみやすい人”になれるんだろう」―― 20~40代の女性読者から寄せられた相談ごとを、その内容ではなく「悩んでいる人の特徴・傾向」で分類し、アヒルやヒツジ、フクロウなど、16種類の動物になぞらえて解説しています。

――「ジェーン・スーさんといえば人生相談」というファンの方も多いかと思いますが、スーさんはもともと、プライベートでもよく相談されるタイプですか?

特にそんなことはないですね。友人と食事していて、話の流れで「そういえばさあ……」「じゃあ、こうしてみたらどう?」って提案することはありますけど、「折り入って相談したいことがあるから、時間作ってもらえませんか?」と持ちかけられることはほとんどないです。

お悩み相談をするようになったのは、「ザ・トップ5」というラジオ番組で、発言小町や新聞の人生相談を紹介して勝手にコメントしていたら、放送作家の方が「お悩み相談をやったらどうか」と声をかけてくださったのがきっかけです。それで「ジェーン・スー 相談は踊る」という番組ができて、現在も「ジェーン・スー 生活は踊る」内のコーナーとして続いています。

―― スーさんのお悩み相談コーナーを聞いていると、いつも、「もやが仕分けされていく感じ」というのか、笑い飛ばしてもらうのとも、慰めてもらうのとも違う励まされ方をしているなと感じます。誰かの悩みを聞くとき、答えるときに、心がけていることはありますか?

まず「素直に聞くこと」、ジャッジメンタルにならないことです。変に裏を取ってやろうとしたり、すぐに決めつけて否定したりせずに、まずは相手の立場に立って、その感情を追体験してみます。そうすると、素直に聞けば聞くほど、その人の「本当に言いたいこと」が聞こえてくるんです。たとえば「ひどいことをする人がいて困っている」というお便りなんだけど、「とんでもない人ですね」と一緒にその人を批判してほしいのではなくて、「思いもよらぬことで自尊感情を傷つけられて、とてもつらい。ただただ話を聞いてほしい」と思っているんだな、とか。

そして答えるときは、ボロボロになっている状態の心にも届くような言葉を選ぶようにしています。数ある悩み相談から、私のコーナーを選んでくれたんですから。それはラジオ番組でも、雑誌の連載でも同じです。

ただ、私自身の考え方は変わらないですけど、伝え方はその時代によって少しずつ変わります。言葉の使い方も、配慮するポイントも。それこそ連載が始まった5年前は、少し強めの言葉を使ってもエンターテインメント性として受け取ってもらえていましたけど、今はそうはならないでしょうね。同じ伝え方では、傷つけてしまうだろうと思います。

――「この悩みにはうまく答えられなかった」と思ったことはありますか?

もちろんあります。というか、誰一人として「同じ経験」はしていないし、その人の靴を履いて同じ景色を見たわけではないので、そういう意味では誰の質問にも「うまく答えられた」と思ったことがないです。自分に似ている人の場合も、それはそれで「きっとこういうことだろう」って早合点して見誤っちゃいますから。

「うまく答えよう」と思ったことも、ないかもしれないです。うまく答えることで自分の価値が認められるとか、高まるとか、そんなことはありえない。むしろ「悩み相談が自分のアイデンティティ」みたいになったらおしまいだなと思っています。人の悩みを斬ったつもりでいい気になっているなんて、ものすごくかっこ悪いじゃないですか。

お悩み相談はエンタメとしての側面も持ってはいますけど、私が話している相手はあくまで相談者さんであって、リスナーさんたちに「どや!」って見せるものじゃないんです。逆にいうと、リスナーさんたちが納得した答えでも、相談者さんを傷つけてしまったらそれでおしまいです。どんなふうに重心をもつかの判断は、見誤らないでいたいなといつも思っています。

―― スーさんご自身は、誰かに相談することってあるんですか?

たとえば自宅のインテリアをどうするか悩んで、そういうのが好きな友達に「よさそうなラグがあったら教えてくれない?」って聞いてみることはあります。でも「いま恋人とこういう状況なんだけど、この人とは別れたほうがいいのかな……」みたいな相談はしないですね。愚痴として聞いてもらうことはあっても、アドバイスしてほしいとは思わないです。これまでの経験で解決するやり方を知っているし、だいたいのことは、どちらを選んだってその後の人生に大きく影響することはないんです。どちらが正しいかではなく、そのときの自分の気分で決めてしまっていいことも世の中にはたくさんあると思います。

「家を買うか迷っている」という悩みなら、プロが景気や法律に照らしながら判断基準を教えてくれます。でも特に人間関係は、一人ひとり事情が異なりますから、誰かに相談したところでピンとこない場合も多々あるわけですよ。そもそも自分の置かれた状況を完全に理解してもらうのが難しい。だから、会話することでヒントをもらうことはありますけど、折り入って相談することはないんです。

私も、特に30代の頃は「常に悩みがある」という感じでしたけど、そういうときは思っていること、悩んでいることを書き出してみるといいですよ。それから、他人に期待しすぎないこと。自分の人生と他人の人生を結びつけすぎないことだと思います。そうすれば、自分にも周囲にも優しくできます。

――『女のお悩み動物園』を読んで思ったんですが、一見「私はこのタイプじゃないな」と思っていた動物の思考・行動パターンにも、共感することが多かったんです。それから、「この間までウサギが元気だったけど、最近ヤマアラシが騒ぎ始めたな」とも思ったりしました。「自分の中にいろんな動物が住んでいる」というのは発見でした。

そうそう、実はそうなんですよ。私は今の自分はトラかなあと思うんですが、頭数は少ないものの、たぶんヒツジやラクダも生息しているんですよね。それにしても、ヤマアラシとウサギが同居しているのは疲れそうですね……(笑)。

よく“執着筋が落ちる”という言い方をしているんですが、エネルギーがあるときはどうしてもあれこれ悩みがちです。でも歳を重ねていくにつれて、だんだん悩み続ける体力がなくなっていく。諦めがよくなったり、折り合いのつけ方がわかってきたりして、おだやかになっていきます。そうやって「昔はヒツジがすごくたくさん住んでいたけど、今はほぼ絶滅危惧種状態だな」というふうに、分布も変わってくるんですよね。でもきっと、飼っている動物が限られた種類に収束していくことはないんじゃないかなと思います。

『女のお悩み動物園』で暮らす動物たち
・王子様の登場を待ちわびるラクダさん
・ガーガー騒いで醜くなった残念なアヒルさん
・人を信用しすぎてしまう不用心なヒツジさん
・冷静に状況を見極めるフクロウさん
・親離れできない世間知らずのカンガルーさん
・立派な爪をずっと隠したままのタカさん
・忠犬ハチ公のようにご主人を待つイヌさん
・環境の変化にスルリと慣れるヒョウさん
・理解を超えた人を叩きのめすヤマアラシさん
・意思表示が怖くて声を上げないウサギさん
・自立心旺盛で人たらしなネコさん
・みんなの陽だまり、穏やかなカピバラさん
・期待に応えたくて弱音を吐けないトラさん
・野心とポテンシャルを秘めたユニコーンさん
・立場の違いでぶつかるトリさん
・美しくしなやかに群れるイルカさん

―― ちなみに、一緒にいる人との相性による変化ってありますか? たとえばポッドキャスト「OVER THE SUN」でスーさんと堀井アナウンサーがお話しされているときって、気のおけない女友達と心からおしゃべりを楽しんでいるような、リラックスした印象を受けるのですが……。

堀井さんについていえば、相性がいいんじゃなくて、彼女自身が人をリラックスさせるパワーを持っているんだと思います。この動物園でいうと「カピバラ力(りょく)」が強いんでしょうね。

とはいえ彼女にもトラみたいなところがあるので、私たちは「お昼休憩中のトラ2匹」ってところでしょうか(笑)。

――(笑)。それはトラにとって、心が休まるすごく貴重な時間だと思います。私はできればフクロウみたいになりたいんですが、どうすればいいでしょう。

フクロウさん、うらやましいですよね。自分を律する力があるのがフクロウさんの特徴ですが、その能力を得るのはなかなか難しい。でも「フクロウさんにならなきゃいけない」とか、「自分の中にフクロウはいないから無理だ」ってことではないんです。「こういうとき、フクロウさんならどうするかな」「この場面ではフクロウっぽく振る舞うことにしよう」って、うまく立ち回りたいときに適した動物の特性を思い出して、作ってみればいいんですよ。

―― タイプで分類することって、自分を知るための一歩なんですね。それで、どういう自分が好きかを具体的に想像したり、今のままの自分を受け入れたりする。

そうですね。一口に「悩み」といっても、悩むのがつらくて苦しい人もいるし、時間や悩む体力があるからつい悩んでしまう人もいるし、悩んでいる自分を楽しめる人もいます。自分を知ること、世の中を知ることが、悩みを解決する第一歩なんだと思います。

―― 何度も何度も同じことで悩んでしまうのが悩みだったんですが、その理由がわかってきた気がします。自分を知りたい気持ちが強い一方で、モヤモヤの正体を明らかにされるのが怖かったのかもしれません。悩みや迷いがあって、同じように「指針を得ること」が目的でも、占いの結果よりも、悩み相談のほうが「具体的に、あなたはこうすべきです」と言われているように感じていたので。

雑誌ひとつとっても、女性向けのものって、低年齢向けでも占いやお悩み相談が載っていることが多いですよね。たぶんそれって、早くから自己探究心が強いからだと思うんです。「牡牛座のあなたはのんびり屋さん、エレメントは地です」というような分類をきっかけにして、自分のことを知りたいんだと思います。

もちろんそれは、性差だけでくくるものではないと思います。ただ「悩みを解決したい」という気持ちのベースが「問題を解決したい」なのか「自分を知りたい」なのかによって、どう答えるべきかは変わってきます。そのために、最初にお話ししたように「まず素直に聞くこと」が重要なんだと思います。

―― 最後に、本の情報サイトということで、読書についてのお話を伺えればと思います。過去のインタビューで山田詠美さんの本が好きだとおっしゃっていたのを、もう少しくわしくお聞きしたいなと思っていて。

山田詠美さんの『トラッシュ』が特に好きです。最初に読んだのは高校生のときで、刊行されてすぐに買って読みました。高校生から20代前半くらいにかけては、山田さんの本は発売されたらどれもすぐに買っていたんです。

でも『トラッシュ』が強く印象づけられたのは、それから月日が経って、山田さんに仕事でお会いすることが決まったのをきっかけに再読したときですね。「同じ本なのに読んだときの印象がこんなに違うんだ」「なんだこの感覚、面白い!」って衝撃を受けました。感情移入する人物も違えば、物語そのものの解釈のしかたも違う。ほかの作品を読みなおしても、まるっきり違う物語を読んだような気持ちになったのは『トラッシュ』だけでした。

―― 最近は、どんな本を読んでいらっしゃるんですか?

読書が苦手であまり読む習慣がないので、たくさんは読んでいませんが、最近は男性の視点から男性性について書いた本を読みました。田中俊之さんの『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』や、尹雄大(ユン・ウンデ)さんの『さよなら、男社会』、桃山商事さんの本も面白かったです。「自分に対しても、“仲間”のはずの同じ男性たちに対しても厳しいなあ」と思いながら読みました。

私は自ら“問題解決フェチ”と言っていますが、「男女の本当の公平ってなんだろう」とか、答えの出ないことを深堀りして考えるのも好きなんです。「ここに問題がありそうだ」とあたりをつけて解決策を考えるんだけど、そうすると別のところに歪みが生まれる。「じゃあ、このことについて調べてみよう」と本を読んでしばらく考えていると、時間の経過とともに状況が変わっていて「お、追いつけない……!」と、また調べたり考えたりすることになる。掘り進めて、立ち止まってはまた同じあたりから掘り進めての繰り返しですけど、たとえ答えが出なくても「考えること」が楽しいんです。