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滋賀に新ヒーロー誕生!『成瀬は天下を取りにいく』R-18文学賞で史上初トリプル受賞の話題作:わが店のイチオシ本(vol.58 本のがんこ堂野洲店)

全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。

第58回は、滋賀県野洲市にある、本のがんこ堂野洲店の店長・原口結希子さんのご登場です。

今回、原口さんが紹介してくださったのは、第20回「R-18文学賞」で史上初のトリプル受賞(大賞、読者賞、友近賞)を果たした「ありがとう西武大津店」を含む、宮島未奈さんのデビュー作『成瀬は天下を取りにいく』です。

本作は、発売前から西川貴教さん、東村アキコさん、石田衣良さんなど、多くの著名人や書店員から熱い支持を集め、刊行後にはインスタグラムに「#成瀬は天下を取りにいく」で1,000件以上の感想が投稿されるなど、SNSでも話題の作品です。

同店がある滋賀県が舞台の物語で、10万部を超えるベストセラーとなっている本作の魅力について、原口さんに綴っていただきました。

成瀬は天下を取りにいく
著者:宮島未奈
発売日:2023年03月
発行所:新潮社
価格:1,705円(税込)
ISBNコード:9784103549512

 

「成瀬」は、私たちのホームタウンヒーロー!

滋賀県に存在するのは琵琶湖だけ、そしてその湖畔にへばりつくように暮らしているのが滋賀県民。「琵琶湖の水とめたろか!!」、それは滋賀県民が己の尊厳を傷つけられたと感じたときに、怒りとともに心の底から発せられる魂の叫び。そんなステレオタイプで間違った滋賀県民のイメージを持っている方は、今すぐ心を改めてください。

滋賀県にあるのは琵琶湖だけではありません。豊かな山河に広い土地。ちょっと行けば都会、買い物には困らない。ちょっと戻れば田舎、昼間っからさぼってぶらぶらしていても、人がいなくて快適。「滋賀県には琵琶湖しかない」というのは間違いで、むしろ滋賀県には、すべてがあるのだ(海はないです。琵琶湖の水をとめる権限もない、持っているのは京都らしい)。

そんな豊かな滋賀県に、さらに新しい財産が増えました! 今年3月に刊行されてから早半年、文学界の話題を、書店の棚を、席巻している話題の青春小説『成瀬は天下を取りにいく』です!

「成瀬」の存在が初めて世に知らされたのは今から2年前の2021年、「ありがとう西武大津店」で、第20回「R-18文学賞」を受賞したときのことです。「滋賀県に住む朗らかな変人少女が西武大津店の閉店を惜しむ物語が、新潮社の文学賞をとったらしい」と噂は駆け廻り、作品が掲載された雑誌『小説新潮』が飛ぶように売れました。本のがんこ堂全店では、なんと通常の15倍ほどの冊数が売れたと記録されています。

滋賀県民にとって西武大津店の閉店はとてもさみしい出来事であり、県内に2店舗しかない百貨店のうち1店舗を維持することができなかったことには忸怩たる思いがありました。その辛さと屈託を、あたたかく爽やかに癒してくれたのが、主人公の天才変人少女・成瀬あかりと幼馴染の平凡な少女・島崎みゆきの物語です。優しくて朗らかで一本気で、気立てがよくて淡白で、人に合わせず合わさせようともせず、なんかよくわからないところもたくさんあるひと味違った変人、成瀬。物語にちりばめられた滋賀ネタは、地元をネタにされることにあまり免疫のない滋賀県民の心を掴んで離しません。しかも、おもしろくて、よく売れる。なんというすばらしいやつなんだ、成瀬!! その活躍は楽しくて、成瀬は「ヒロイン」というよりも、「ホームタウンヒーロー」と呼びたい存在なのです。

こうして「成瀬」の名前は、私たち滋賀県の書店員たちの胸に強く刻まれました。私たちに理解できる(けど、実行しづらい)正義と、理解できない(し、実行したくもならない)奇行の両方をかろやかに成し遂げてしまう成瀬が、私たちの隣人として琵琶湖のほとりのそこらへんを今もうろうろしているなんて嬉しくて楽しすぎる! 「この女の子を主人公にした小説がもっと読みたいやんね」と同僚と話したこともよくおぼえています。

そうして2年たって成瀬は帰ってきました。予想以上のパワーアップを果たして、全国区のベストセラーとして!(最初からベストセラーだったわけではなく、クチコミと宣伝でじわじわ売上を伸ばしてのロングセラー入りという熱い展開なのですが、話が長くなるので割愛します)

迎え入れる書店側も展開に気合いが入ります。当店では、自分たちが成瀬のクラスメイトだったと仮想して成瀬に贈る色紙を作成しました。これはとても楽しい作業で、色紙にコメントを書いた店員それぞれが、本当に成瀬の友だちになれたような愉快な気分になりました。畏れ多くも宮島未奈先生にいただいた色紙の近くに置かせてもらっています。当店にお立ち寄りの際には、2枚の色紙をぜひご覧ください。

そして、ともにこれからの成瀬の活躍を見守りましょう。成瀬の天下取りへの冒険は始まったばかりなのです!

 
▲店内では、のぼり旗やポスター、「成瀬のクラスメイトだったら」と仮想して成瀬に贈った色紙など、作品への熱い想いが随所に散りばめられている

▲著者のサイン色紙などもあり、本書への愛が溢れたコーナーが目を引く

 

◆作り手からのメッセージ◆

『成瀬は天下を取りにいく』は宮島未奈さんのデビュー作です。この抜群に面白く元気の出る小説を、どうしたら多くの人に届けられるのか、最初は手探りのスタートでした。ですが、本作を読んでくださった方々から熱のこもった推薦をいただき(帯にはなんと12名もの方々の素晴らしいコメントが!)、さらには書店さんが店頭で熱心に推してくださった結果、成瀬はこちらの杞憂はなんのその、ぐんぐん突き進んでいます。その眩しい前途をまだまだ見ていたい!と思わずにいられません。引き続き成瀬と島崎たちを、どうぞよろしくお願いいたします。

(新潮社 出版部 西山奈々子さんより)

 

本のがんこ堂野洲店(Tel.077-586-3226)
〒520-2333 滋賀県野洲市栄5-3