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  • 「一生涯の学びの場所に」 文教堂とやる気スイッチグループが描く書店の未来

    2022年10月21日
    本屋を歩く
    ライター 谷山宏典
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    本を売るだけではなく、新たな商材やサービスを模索する書店が増えている昨今、文教堂が今年1月から新規事業としてスタートさせたのが「プログラミング教室」です。

    総合教育サービス事業のやる気スイッチグループと人工知能(AI)技術の研究開発で日本を代表するPreferred Networksが展開する「プログラミング教育 HALLO(以下、HALLO)」 に加盟し、全国の文教堂でプログラミング教室を順次開校していく予定です。現在すでに4店舗で教室が運営され、来年早々にも1店舗が加わる見通しです。

    文教堂でプログラミング教室を開校することになった経緯や、書店が教育事業に進出する意義などを、文教堂の半澤伸彦さんと、やる気スイッチグループの横山拓馬さんにお聞きしました。

    半澤さん(左)と横山さん

    半澤伸彦(はんざわ・のぶひこ)
    文教堂運営本部教室事業部部長(日本出版販売より出向)
    1975年生まれ、福島県福島市出身。1998年に大学卒業後、ブックオフコーポレーションに入社。直営事業責任者、子会社代表取締役などを務める。2011年に退社後、人気コンテンツのカフェ&ショップなどのプロジェクトに携わる。2017年日本出版販売に入社、「草叢BOOKS」事業に配属(MPDへ出向)。2019年文教堂に出向。現在は教室事業部部長として「プログラミング教育 HALLO」事業、文教堂独自の研修サービス「ブックトレーニング」事業、シニア対象の教室事業などを担当。

    横山拓馬(よこやま・たくま)
    やる気スイッチグループ事業ディベロップメント本部営業企画部営業企画課長
    1984年生まれ、岡山県倉敷市出身。2012年に大学院修了後、ワークスアプリケーションズに入社。法人営業、営業企画、エバンジェリストを兼任。2018年、AIスタートアップ企業でマーケティング部門事業責任者を務め、大手小売企業との複数プロジェクトを推進。2019年、モバイルオーダー開発のスタートアップ企業でシニアマネージャーを務め、大手アライアンス、開発プロジェクトを担当。2021年、やる気スイッチグループに入社。プログラミング教育 HALLOの加盟営業、営業企画を担当。

     

    学びの「接点」から「場」へ、書店の価値を変換する

    ――そもそもプログラミング教室ではどんなことを教えているのですか。

    横山 「HALLO」では、Preferred Networksが独自開発したプログラミング教材「Playgram」を使って、基礎となるプログラミング的思考から、実際にプログラムを記述する実践的なテキストコーディングまでを学んでもらっています。加えて、コンピュータサイエンスの総合的な知識を身に付けられるのも「HALLO」の大きな特徴になります。

    コンピュータサイエンスとは、端的に言えば「コンピュータを使ってやりたいことができるようになるための知識やスキル」です。ITを使いこなすにはプログラムを書けるだけでは不十分で、サーバーやネットワークのことや、集めた情報をどのように処理するかといった統計の考え方などについて、トータルで身に付けておく必要があります。そうしたITを使いこなすための知識やスキルも「HALLO」で学ぶことができます。

    半澤 「HALLO」の特徴としてほかに、インプットだけではなく、習得した知識やスキルをどう使うかというアウトプットにも力を入れていますよね。

    ▲プログラミング教室内

    ▲授業風景(イメージ)

    横山 ええ。毎月、学習したスキルを使って作品を作り、発表してもらっています。結果として、プログラミングスキルだけではなく、お子様のコミュニケーション力やプレゼンテーション力、表現力の向上にもつながっています。

    「HALLO」は、一人ひとりのお子様のレベルやペースに合わせてレッスンを行っているので、早い子はどんどん先に進んでいくし、ゆっくりと時間をかけて学んでいく子もいます。小学校の低学年なのにテキストコーディングをしたり、複雑なプログラムを作って発表する子もいて、「子どもってすごいな」と日々、感心させられます。

    ――プログラミング教室を文教堂で開校することになった経緯を教えてください。

    半澤 書店を取り巻く環境が年々厳しくなり、文教堂も例外ではなく、新たな書店の姿を模索していました。そうした中で「書店の価値とは何なのか」ということに立ち返ったんです。

    昔から書店には「本を売って、学びを伝播する」という重要な役割がありました。言うなれば、学びの「接点」です。その役割はこれからも変わらないのですが、私たちは書店を単なる「接点」だけではなく、学びの「場」にできないかと考えました。それを事業化したのが書店に教室を併設する「教育プラットフォーム事業」です。具体的な事業内容については、さまざまな可能性を検討してきた中で、やる気スイッチグループさんと出会い、「HALLO」の加盟へと進んでいったのです。

    横山 弊社はこれまで、個別指導塾「スクールIE」など、7つのスクールブランドを展開してきました。「HALLO」は2020年にPreferred Networksとともに新たに立ち上げ、主に直営やFCのスクールを中心に広げてきましたが、実は導入先として書店に注目していたんです。それで文教堂さんにお声がけをさせていただいた、という流れになります。

    半澤 教育プラットフォーム事業を展開するにあたって、その第一歩としてプログラミング教室を選んだのは、今後IT人材の需要が増えていく一方で、育成が追い付かず、人材不足に陥ることが見込まれていたからです。私たちがITスキルを学ぶ場を提供することは、ひいては地域や社会への貢献にもつながっていくのではないか、そんな思いもありました。

    ――やる気スイッチグループから見て、どんなところに「書店の可能性」を感じたのですか。

    横山 私たちは教育サービス事業の会社であり、どうすれば子どもたち一人ひとりにより良いかたちで学びを提供できるかを常に考えています。書店は興味・関心を広げてくれるさまざまな本との出合いがあり、学びの場所として理想的な環境です。

    ▲プログラミング教室の入口

    また、顧客層の親和性も高いと感じていました。本を買いに来る人たちの多くは知的好奇心が強かったり、「何かを知りたい、学びたい」というニーズを持っています。そんな人たちが集まる書店という場で教室を開くことは、集客面においても有利に働くんじゃないかと考えました。

    半澤 書店と教室の相性の良さは、実際に教室を運営してみて、私も感じています。日々、たくさんのお客様がいらっしゃる書店という場所に教室があることで、親御さんとしても子どもを通わせやすいし、安心感があるようです。

     

    「価値あるものを届けたい」。その熱意が力になる

    ――現在、文教堂で運営している教室を教えてください。

    半澤 すでに開校しているのが溝ノ口本店(神奈川県川崎市)、グリーンコート店(東京都文京区)、R412店(神奈川県厚木市)の3教室で、11月には横須賀MORE’S店(神奈川県横須賀市)も開校します。

    ▲一目でプログラミング教室を開講していると分かる溝ノ口本店の外観

    横山 「HALLO」は5歳くらいから中学生までを対象にしています。教室によって多少ばらつきはありますが、全体として小学2年生から小学4年生ぐらいの生徒が多いです。

    半澤 文教堂の教室もほぼ同じですね。

    ――FCに加盟すると、どのような支援が受けられるのですか。

    半澤 教室長やコーチの育成はFC本部の研修や認定制度を通じて行っていますし、運営指導も受けています。また、販促スケジュールをいただき、チラシを配布したり、ポスターを貼ったりする最も効果的なタイミングもご指導いただいています。

    横山 書店に教室を併設するのは初めてのケースでしたが、「スクールIE」などのブランドのFC展開で、教育事業以外の本業を持つ法人への研修や運営指導を長年行っていますので、異業種の方への運営指導などのノウハウはかなり蓄積しています。文教堂さんに対しても「書店だから」という特別なサポートはなく、これまで培ったノウハウを生かすかたちで対応させていただきました。

    半澤 ただ、誤解してほしくないのは、「HALLO」に加盟するだけで自然と生徒が集まり、教室事業が成立するかといえば、必ずしもそうではないということです。当然ながら、教室を併設する店舗のロケーションや、生徒募集にかけられる労力や経費、そして何より関わる人間の熱量ですね。そうしたさまざまな要素が揃って、はじめて事業として成り立たせることができます。

    横山 半澤さんのおっしゃる通り、「教室を開けば生徒が集まり、売上も立つ」という発想だけではなく、価値あるものを一人でも多くの人に届けていきたいという熱意をもって取り組んでいただくことは重要です。

    私が文教堂さんの熱意を強く感じたのは、通りに面した場所に「HALLO」の大看板を独自に掲出して、しっかりPRしていただいたことですね。書店に来るお客様だけではなく、店の前を通りかかる人にも「文教堂が新たにプログラミング教室を始めた」と認知してもらえ、そのことが生徒募集の面でも大きくプラスになったのではないかと思います。

     

    新たな事業が、従業員のチャレンジや成長の機会に

    ――店内に教室を併設したことで、どのような相乗効果がありましたか。

    半澤 教室の生徒さんとそのご家族にはお買い物時に特典がございます。およそ1店舗あたり10万円程度の本や文具をお買い上げいただけているのではないかと思います。

    また、教育プラットフォーム事業を始めたことで社員がこれまでとは違う新しい仕事にチャレンジする機会も創出できたのではないかと。実際、コミック売場の担当者が自ら手を挙げてプログラミング教室の責任者になった店舗があります。

    現在はプログラミング教室が主軸ですが、今後はほかのジャンルの教室も運営していければと考えています。そうした中で人財の幅広い育成や活性化にもつながっていくのではないかと思います。

    横山 私たちとしては、一人でも多くのお子様に「HALLO」に通ってほしいという思いがある一方で、協業を通じて文教堂さんの本業にもシナジーを生み出すことを重視しています。書店での開校は文教堂さんが初めてなので、どんなシナジーを生み出せるかはまだ手探りではあります。現時点で言えることは、毎週書店内の教室に通っていただくことで、お子様や親御さんにとって本や書店が一層身近なものになるのではないかと考えています。

    半澤 先ほどお話ししたように、当社としては将来的にはプログラミング教室だけではなく、さまざまなジャンルの教室を作っていきたいと考えています。そうすることで今プログラミング教室に通っている子どもたちが、社会人になったときには社会人向けの教室に、会社を退職したらシニア向けの教室に、と文教堂に一生涯通っていただけるのではないかと。リカレント教育や生涯学習の場として、書店の価値を作り変えていこうというのが、教育プラットフォーム事業が目指しているところでもあります。

    横山 一生学んでいける場、というのはすごく理想的ですね。半澤さんの話を聞いて、やる気スイッチグループとしても文教堂さんの取り組みを少しでも後押しできるように関わらせていただきたいとあらためて感じました。

    半澤 こちらこそ、ぜひよろしくお願いします。

     




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