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  • 街の書店として、日々の暮らしに馴染む、本との出合いを楽しむ空間に【連載】地域とともに生きる本屋 vol.4

    2022年09月19日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 猪越
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    千葉県習志野市にある京成大久保駅から北へまっすぐに伸びる大久保商店街は、駅前と、日本大学と東邦大学という2つの大学をつなぐ学生街でもあります。この商店街の中ほどで100年続いた書店から事業を承継し、5月10日、新たにブックカフェとしてオープンしたのがnoma booksです。

    同店を経営するのは、これまで飲食業を中心に中小企業の事業支援を手がけてきた馬渡あかねさん。異業種から書店業に参入した経緯と、「行きたくなる、長居したくなる本屋」というコンセプトに込めた思いについてお話を聞きました。noma books
    〒275-0011 千葉県習志野市大久保3-11-19 大和屋ビル2階
    TEL :047(409)3710
    営業時間:平日 10時~21時、土・日・祝 11時~20時

     

    noma books 代表取締役 馬渡あかねさん

     

    コンサルの経験を活かし、本好きの夢を実現

    ――馬渡さんは、どのようなきっかけで書店を開業しようと思われたのですか。

    私は15年ほど前に、夫とともに中小企業向けの経営支援の会社を起業して、業績改善や新規事業のアドバイスを仕事にしてきました。

    ただ、私自身が50歳を過ぎて、同じ仕事をあと10年、いまのペースで続けられるかというと難しいのではないかと感じていて。それなら自分がこの先何をしたいのかと考えたときに、他企業の支援ではなく、自分自身のやりたいことをやってみるのもいいのではないかと思ったのです。

    今までお手伝いしてきた会社は小売や飲食が多かったので、そういった業種をイメージしながら何気なくM&Aのマッチングサイトを見ていたところ、大和屋書店さんが引き継ぎ先を募集されていたのを見て応募しました。

    ――その案件に惹かれたポイントは?

    「自分の思いをつないでくれる経営者を探しています」という大和屋書店さんの言葉と、学生が多い街であることに惹かれました。まずはお店を見てみようとフラッと来てみると、立地はメインの通りが1本伸びた、人の通りがシンプルな商店街で活気もある。お店自体は昔ながらのつくりではありましたが、今も当店で働いてくれている店員さんが迎えてくれて、雰囲気も気に入りました。

    私自身、父が出版社に勤務していたこともあって本だけは自由に買ってもらえたのですが、もっとたくさん読みたいから、大人になったら本屋になりたいと思っていたくらいには本好きでした。それが実現するなら、こんなに素晴らしいことはないと思ったのです。

    ――大和屋書店さんの案件には、20~30人のオファーがあったのだとか。

    大和屋書店さんはお父さんと息子さんが共同で経営されていたのですが、すごく正直な息子さんで、書店業界の厳しい現状を教えてくださる際も、むしろ私を思い留まらせるようなお話しぶりでした(笑)。

    渡された決算書の数字を見直してみて、確かにこれはそのままの形で引き継ぐのは厳しいなと思いつつ、何とかならないかと考えるうちに思いついたのがブックカフェでした。仕事柄、飲食のオペレーションの標準化や、どういう会社と取引するとどれくらいの利益が出るかという数字は把握できていたこともあります。

    また、若い人が多い街なので、SNSを使ってあまり費用をかけずに集客ができるのではないかと考えたこともポイントです。店舗は2階にありますから急に大繁盛することは難しくても、損はしない事業にできるかもしれないと開業を決めました。

    ――業界の厳しさについてお聞きになられても、決意はゆるがなかったのですね。

    確かに利益の出にくい商売ではありますが、返品可能な委託制度も私にとってはありがたくて。万が一うまくいかなくても飲食店に比べるとリスクは抑えられますし、最初は持ち出しになりますが、そこをクリアしてそこそこの儲けが出れば、長く続けられる可能性は高いと考えました。

    このお店をやろうと決心するときに自分に問いかけたのが、いまは本屋がどんどん姿を消しているけれど、本屋は本当にこの世からなくなってもいい商売なのかということでした。インターネット通販がメインになっても困らない世の中だとしたら、あえて私がやる必要はない。そう考えたときに、ネットとリアルでは、本の買い方がまったく違うことに気が付きました。

    ネットで買うときは、どうしても誰かが良いと言っている口コミやランキングをもとにした、いわば大衆に追随するような買い方です。でも本屋に行くときは、知らない作家さんの本や、興味があっても内容がわからなくて買っていなかった本の中身を、自分の目で確認してから買います。

    そういう行為や出合いがあるからこそ、もっと本が好きになったり、自分らしい本が選べたりする。そんなふうに本と出合える場を提供することで、本を好きな人が増えて、もっとたくさんの人たちが知恵や知識を得て暮らしを豊かにしていけるのではないかと思うと、私が本屋をやることにも意味があるのかもしれない。

    多少時間はかかるかもしれないけれど、そんな場としてゆっくり商売を育てていけたらと、お店の状況を整えているところです。
    ▲店名の「noma」には、「誰かにとっての、つかの間の大切な場所になるように」との想いが込められている。中央のソファ席や窓に面したテーブルをはじめ、店内には約20席のイスを配置。壁面以外の什器は可動式となっており、イベントの実施も可能

     

    スタッフの個性を活かして店舗を運営

    ――カフェゾーン側の棚ではテーマごとにおすすめ本が展開されていて、まさに「本と出合う」提案型の棚づくりですね。

    壁面の棚5本を使って展開していますが、企画のテーマをあらかじめ連絡帳に書いておき、それに基づいてスタッフがリストアップしてくれたものを並べています。

    アルバイトは15人在籍していて、店内には常時スタッフが2名いる体制です。商品の展開に関しては、LINEグループを使って、みんなで話し合いながら決めています。それぞれに得意ジャンルのあるスタッフが揃っているのでおもにその分野を担当してもらっていて、発注については私が確認しますが、ジャンル担当者の意見を反映しながら品揃えを充実させているところです。

    地域で読み聞かせをしているスタッフに児童書の選書を任せるようになってからは、以前より売上が良くなったと聞いていますし、ライトノベルが好きなスタッフは、店外の仲間にも相談しながら棚を作ってくれています。▲子どもの目線に合わせ、手に取りやすいように設えられた児童書棚。向かいにはベンチもあり、ゆっくり本を見ることができる

    ▲階段を上ってすぐのカフェスペースの壁面で、テーマごとに本を提案し、新たな出合いを提供

     

    ――馬渡さんはコンサル業と並行しての経営だそうですね。

    現在は書店業が7割、コンサル業が3割といった形ですが、私は書店業については初心者のため、スタッフの力を借りながら運営しています。大和屋書店さん時代からのお得意様への配達も、元からいるスタッフが「自分のいる間は続けたい」と継続してくれています。

    ――皆さんが活き活きと働いていらっしゃる姿が目に浮かびます。

    シフトが終わってもおしゃべりしていたり、飲食もさまざまな案を出し合ってメニューに加えていったり、楽しんで働いてくれているようです。

    私も実験が好きなので、珈琲は温度やフィルターを濡らすかどうかなどさまざまな条件で試してみて、一番おいしい状態をみんなで確かめて提供しています。

    ――カフェスペースでは、購入前の商品も飲食しながら見ることができるそうですね。

    ブックカフェは基本的に、購入した商品のみ持ち込み可というところが多いですよね。本を大切にしているからこそだと思いますが、洋服は試着してから買いますし、化粧品も試供品があります。本も立ち読みだけで済ます人ばかりではありません。私は業界の外にいたので、体験することによってお客様の層が広がっていくのではないかという思いは強いのかもしれません。

    当店は、「席に余裕があればどれだけ長く座っていただいても構いません」というスタンスです。イスもすべて違う形のものを置いているので、お気に入りの一脚を見つけていただけたらうれしいですね。
    ▲店内に置かれたイスは、すべてデザインが違う。什器は大和屋書店時代のもので、「なつかしい」と反応されるお得意様もいらっしゃるそう

     

    本と緑のある、街に馴染む空間に

    ――レイアウトや内装はどのように変えられたのですか。

    店舗デザインや家具の選定は専門の業者さんに依頼しました。壁面の棚や中央の什器は大和屋書店さんのものを活かしつつ、新しいものを馴染ませながら店づくりをしています。

    本の見せ方についても、デザイナーの知見からアドバイスをもらいました。私は1冊でも多くの本をおすすめしたいとつい詰め込みすぎてしまっていたのですが、陳列においては得策ではないことを教えてもらい、スタッフみんなで試行錯誤しているところです。

    店舗が2階にある難しさも実感していて、書店ということがわかりやすく、少しでも入りやすくなるよう入口の雰囲気づくりを大事にしています。▲1F入口を入った階段横のスペースには、2Fへの誘導を図る雰囲気のある一角が。売場で展開している企画のテーマをここでも案内

     

    ――SNSはInstagramを活用されていますが、写真がとてもオシャレですね。

    写真の力を使うことで、店舗の雰囲気も、言葉だけより伝わりやすいのではないでしょうか。モデルをしているスタッフがいるので、光の使い方など彼女のアドバイスをもとに工夫しています。

    「カフェで何かを注文しないといけないのではないか」「本は買えるのだろうか」と戸惑われる方もいるようで、以前は2階に上がって来られても、さっと出て行ってしまわれるお客様もいました。いまはInstagramやインターネットであらかじめ当店のことをチェックして来店される方が多いです。試し読みもOKと謳っているので、じっくり本を開いて選ぶ方も増えてきました。

     

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    ▲SNSはInstagramを活用。このほかにも、光を効果的に使った写真が、店内の雰囲気をわかりやすく伝えている

     

    ――来店されるお客様に変化はありますか。

    大和屋書店さん時代のお客様は7割方高齢者の方で、お喋りしながら雑誌を買っていかれるご近所の方がメインでした。以前からいるスタッフも多いので、常連のお客様とは自然に会話も弾みます。

    オープンして約2か月が経ち、1回きりで来なくなってしまったお得意様もいる一方、「久しぶりに来たらすごく変わっていてびっくりしました。また来ます」と戻ってきてくれるお客様など、当店のようなスタイルを望んでくださる層がようやく見えてきました。今はその方たちのご要望に耳を傾けながら、品揃えやメニューを調整しているところです。

    本は、商品自体はどこで買っても同じです。あえて当店で買ってくださる理由は何なのか、リピーターになっていただくきっかけはどこにあるのか。想像力を働かせつつ、街の書店として、片道10分程度の散歩がてらに立ち寄ってくださるお客様を想定しているので、日々の生活の中で、本や書店で過ごす楽しみをご提供できるような空間でありたいと思っています。

    (2022年7月19日取材 「日販通信」2022年9月号より転載)

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