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  • 持続可能な書店のビジネスモデルとは?那須ブックセンターの挑戦で見えたもの

    2022年03月12日
    本屋を歩く
    ほんのひきだし編集部 諸山
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    栃木県那須町の「那須ブックセンター」が2021年12月31日に閉店しました。同店は、書店空白地帯と呼ばれる地域の中で、継続して運営できる書店のビジネスモデルを構築することを目的にオープン。ベレ出版創業者で現取締役相談役の内田眞吾さんが友人2人とともに「書店と本の文化を拡める会」を結成し、運営にあたっていました。

    ここでは会の代表である内田さんに2017年10月の開業から4年2か月間を総括してもらい、出版社と書店の経営経験をへて、持続可能な書店の運営について、改めて意見を聞かせていただきました。

    (2022年2月1日取材/「日販通信」2022年3月号【特集】「“街の本屋”はなぜ必要か? 3つの挑戦に見るその意義と役割」から一部を編集してお届けします)

    書店と本の文化を拡める会 代表 内田眞吾氏

    1944年 生まれ 大阪府出身
    1967 年 京都大学文学部哲学科卒業
    1968 年 京都大学大学院中退 (株)日本実業出版社入社
    1983年 (有)明日香出版社二次創業に参加
    1999年 (有)ベレ出版設立 社長、会長を経て現在、取締役相談役
    2017年9月 「(株)書店と本の文化を拡める会」設立
    2017年10月13日 「那須ブックセンター」開店

     

    商圏人口3万人以上で書店空白地帯の物件を検討

    ――まずは那須ブックセンター開店の経緯について教えてください。

    初めは、友人の三省堂書店元専務の森雅夫さんと編集者の小中強志さんとで、三省堂書店が運営している留萌ブックセンターの話を端緒に「書店のない地域で書店をやるにはどうすべきか」ということを話していたのがきっかけです。

    書店経験豊富な森さんに「書店のない地域で、持続していける地方書店のモデルを作ったら!」と言うと「初期投資だけで最低3,000万円はかかるので無理」という返事。たまたま私が遺産を相続したところだったので、「その費用は私が寄付してもいい」ということで、実行の方向で検討することになりました。

    それで、旧知の伝手を頼って、さまざまな書店で手腕を発揮されていた谷邦弘さんに店長をお願いしました。結果、谷さんは、ご夫婦そろって那須に移住までしてくださり、本当に頭が下がる思いでした。


    ――さまざまな物件の中から那須町という立地を選んだのでしょうか。

    3人で話した結果、商圏人口3万人以上で書店がない地域の物件を探すことになりました。少なくともランニングコストだけは賄えるように収益を推計すると、家賃はかなり低く抑えるしかありませんでした。結構いろいろと物件を見たのですが、山の上の小学校の廃校であったり、書店を営むにはかなり厳しい立地が多かったです。

    そうこうする中、当時、約1年ほど空き家となっていたコンビニエンスストアの跡地、いまの那須ブックセンターの物件にたどり着いたのです。そこのオーナーは書店の文化的な意義にも共感してくださり、その土地・建物の固定資産税程度という格安の家賃で貸してくださることになりました。

    ――那須ブックセンター(在庫約3万冊、売場面積約50坪)の収支はどのように計算されていたのですか。

    初期投資は私の寄付ということでそこは度外視しました。人件費も含めたランニングコストを賄うことを念頭に、月商300万円が採算ラインと見込んでいました。会の役員3人はもちろん無報酬です。正社員2人(店長含む)とPAスタッフ3人の人件費に、家賃や光熱費などの費用を賄うのに300万円と試算しました。

     

    目標届かず赤字に「マーケティングのミス」

    ――実際の収支はどう推移していたのでしょうか。

    目標月商は300万円でしたが、残念ながら200万円を超えることもありませんでした。正直、申し上げてマーケティングのミスだったと思います。やはり那須町には温泉やゴルフといった行楽的な目的でしか、人は来ませんでした。開店当初から赤字で、初年度は800万円くらいの赤字となりました。

    実は、那須ブックセンターが開店して約半年後の2018年4月、売上が厳しい中、書店経営に精通している森さんが亡くなられました。それで、私が経営に乗り出すことになりましたが、もう一人の小中さんも編集者ですので、書店を経営したことがありません。人件費を削減するなどいろいろと取り組み、次年度以降は500~600万円の赤字幅に減らしましたが、赤字から抜け出すことはできませんでした。

    ――2020年からのコロナ禍の影響は受けましたか。

    ほとんどなかったとみています。コロナ禍でも店舗は営業していました。おそらく一日平均で50人くらいの購入者数だったと思いますが、そこに変化はありませんでした。その分、客単価は高いと思うのですが。また、季節的な需要の増減もあまり感じられませんでした。

    ただ、店を閉めた2021年12月の店頭売上前年同月比は160%以上でした。12月30日と31日は、前年同日比400%、500%で、皆さんにはたくさん買っていただきました。

     

    地元民有志が応援する会を結成! 内田氏「うまく連携できれば」

    ――地元の人たちが那須ブックセンターを応援する会を結成されていましたよね。

    会の代表を務める鐘ヶ江惇さんが那須町から書店を失いたくないという思いから、ボランティア団体「那須ブックセンターを応援する仲間たち」を立ち上げてくれました。結成時は7人くらいでしたが、最終的には登録ベースで数百人にまで増えました。会報「仲間たち通信 那須本屋だより」を年4回発行してくれたり、店の雪かきなどの手伝いをしてくれたりしました。

    さらに、月に1回、10~15人くらいのコアメンバーと店舗スタッフで書店の運営について意見交換会もさせてもらいました。

    しかし、これは私どものミスなんですが、結果的にボランティアの方々と私たちがうまく連携できませんでした。例えば、新たに外商事業を立ち上げて、彼らにその手助けをしてもらって売上を増やそうとか、アイデアベースではいろいろと検討しました。

    ただ、新規開拓、集金と配達の部分で店としては皆さんにお任せするまでには至りませんでした。それが残念で、もっとやりようがあったのかと思います。本当に応援してくださった方々には申し訳なく思っています。

    ▼会報「仲間たち通信 那須本屋だより」創刊号

    ――閉店を決意したのはいつ頃だったのですか。

    昨夏でした。毎月50万円前後の赤字を解消できず、クラウドファンディングなどで寄付を集めるということも考えましたが、赤字を止めないと意味がありません。コロナ禍の時に店を閉めていたら、そこまでの赤字にはならなかったのかもしれません。ここで閉めたら何のために書店を出店したのか分からないと思ったのでずっと開店していました。しかし、これ以上打つ手もなくなり、閉店を決めました。

     

    自治体が初期投資負担するモデルを模索

    ――内田さんたちが目指していたビジネスモデルとは、どのようなものだったのでしょうか。

    那須ブックセンターの初期投資となる開店在庫や店舗の内装費などは私が負担しました。今回は3,800万円くらいかかったのですが、この部分を各地方自治体が負担し、人件費を含めたランニングコストは日々の売上で賄うというモデルです。那須ブックセンターでそのモデルを確立して、書店空白地帯のある地方自治体に提案しようと考えていました。

    やはり、書店の開店の一番のハードルは初期費用です。ここを公共団体なりが負担することで書店のない地域に書店を残せるのではないかと考えたのです。

    ――国や地方自治体などの力を借りなければ、書店を持続的に運営するのは難しいというお考えでしょうか。

    書店の存続のために書店マージン3割という話には賛成ですが、それだけで解決する話ではないように思います。書店経営の課題はマージン率の低さよりも、売上と経費のバランスが悪い点にあるのではないでしょうか。人件費や家賃といった経費負担が重いにもかかわらず、売上が年々厳しくなっており、とてもアンバランスです。しかも、紙の出版市場は縮小が続いています。

    文化を支える拠点である書店は、民営でやるのが理想ですが、残念ながら今のところ私には解決策が見つけられません。環境が整うまでは公共団体が手助け、または直接運営すべきと思います。

    ▼お子さんが読みたい、読ませたい絵本・児童書

    ▼店内に設置されていた「地元伝言板」

     

    利益率よりも出版物の定価3割アップで

    ――そもそも内田さんが私財を投げ打ってまでも、書店を残すビジネスモデルを構築したいと思ったのはなぜでしょうか。

    各地の拠点には文化の発信地としての書店が必要です。文化を持続できるような方法を見つけないといけません。経済も大事ですが、文化も大事。下部構造(経済)が上部構造(政治思想)を規定するとマルクスは言いましたが、その下部構造の下には「文化」があると思うのです。文化を維持することが大目的で、書店の経営が成り立つというのはそのための手段なんです。

    「文喫」になぜ入場料を払ってまで人が集まるのか、これは本当に考えるべきです。ネットで本が買えるのに、入場料を払ってでも人は来る。あれこそ、「本屋の力」を見せてくれた事例です。そこに今までにない発見があり、楽しいから、文喫に行くのです。それが文化であり、本屋の価値なのです。

    ――出版社と書店を経営してみて、出版業界の構造はどう変化すれば、持続的に書店を運営できるとお考えですか。

    商売として本屋が買切でやるならば、正味55~60%くらいはないと、私は難しいと思っています。一方で、出版の多様性という点もありますので、すべてが買切になると、地味な本を出版するのが難しいかもしれません。

    いわゆる、委託にせよ買切にせよ、制度選択できるようにすべきではないかと思います。そのためには書店の仕入れる力とICタグが必要となってきます。自店のマーケットを見て、買切れる商品を見定めて出版社と交渉することで利益率は上がってくるのではないでしょうか。それをICタグを導入して商品管理できれば、実際に運用することができると思います。

    その上で、出版物の定価を3割上げれば、解決する気がします。書店は人件費や家賃といった経費と売上のバランスが悪い。出版社は値上げをしても耐えられる企画で本をつくり、書店はエリアにあった売れる本を仕入れる能力を付けることだと思います。

    ※本インタビューのロングバージョンを掲載した「日販通信」2022年3月号の情報はこちら

     

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