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【ラランド・ニシダさんの書店との出合い】落ちこぼれた私が辿り着いた“深夜書店”の世界

ラランド ニシダ 不器用で

書店にまつわる思い出やエピソードを綴っていただく連載「書店との出合い」。

今回は、7月24日(月)発売の『不器用で』で作家デビューされた、お笑いコンビ「ラランド」のニシダさんです。

初の小説集『不器用で』は、Web小説サイト「カクヨム」で15万PVを獲得した「アクアリウム」をはじめ、器用に生きられない5人の夏の物語を描いた作品集となっています。

年間100冊を読破するなど、「読書芸人」としても知られるニシダさんに、読書歴も垣間見える「書店との出合い」について綴っていただきました。

ニシダ
1994年7月24日生まれ、山口県宇部市出身。2014年、サーヤとともにお笑いコンビ「ラランド」を結成。『不器用で』が初の著書となる。

 

読書は夜と仲が良い

こんばんは。ラランドのニシダと申します。

7月24日にはじめての短編小説集『不器用で』を出版させていただくことになりました。自分の書いたものが書店に並ぶなんて! 読書好きではありましたが、初めての書店との関わり方でドキドキしてしまいます。ふらっと立ち寄った書店に、自分の本にポップが置いてあった日には、その書店のことを大好きになっちゃう。ちょろい人間です。

わたしは大学に7年間通いました。修士とか博士とか、そういった真っ当な理由ではなく学士7年間。最終的には卒業証書をもらうことなく、退学してしまったという履歴書汚し。正確には上智大学に3年間通って退学し、1年の復学準備期間を経て再入学。また3年通って退学しました。

そんなわたしにとって、一番身近な書店というのは上智大学内に設置された購買部と一緒になった書店でした。広くはない店内ながら文学作品も多く、学生であれば1割引で本が買える。サイン本や目当ての特典がない限り、学内書店で本を買っていました。本での出費が多いわたしには最高の書店でした。最初の2、3年は。

わたしが大学に通って3年目。学業の雲行きがどうやら怪しい、もしかしてこのままでは退学するのではと感じ始めたころ。多少の危機感を感じつつ、本を読むことは続けていたのですが、学内の書店で本を買わなくなりました。

学内書店というのは、就活関連の本が山のように置いてあるのです。SPIの過去問集であるとか、業界地図であったりとか、エントリーシートや面接の作法に関するハウトゥー本であるとか、わたしが人生で一度もページをめくったことのない本が店内の入り口近くの広い一角に陣取り、やれ就活へ向かえと急かされるよう、むしろ就活しないやつは入ってはならぬという雰囲気さえ漂っていました。

最高の書店だと思っていたのに、わたしが落ちこぼれたことで、見え方がまるで違ってしまった。同級生や年代の近い知り合いたちが、そのコーナーにいるのを見ることすら嫌でした。

そしてわたしが辿り着いたのが、深夜営業の書店でした。飲み会の帰り、小雨が降り終電で走るのも面倒で、日付が変わる頃の道玄坂から喫煙席のあるカフェを目指して歩いている途中でした。

その瞬間まで、わたしは深夜に書店がやっているなんて知りませんでしたから、とても驚きました。採算が取れるのだろうかという心配が、書店の経営とは無関係のわたしにさえよぎりました。

店内にはほとんど人がおらず、わたし以外には店員がひとりと、仏像の写真集を何冊かカゴにいれているおじさんだけ。ああ、ここがわたしのための書店なのだと、そのとき思いました。人が眠るための時間に本を選ぶという贅沢。文芸コーナーにはわたししかいませんでしたから、すべての本がわたしのために置かれていると思われるような愉悦。東京の深夜の俗っぽい街のムード、そしてそこを行き交う人々から隔てられているのもすばらしい。

読書というのは夜と仲が良いと、子どもの時から思っていました。一番好きな本は、夜な夜な何度も読み返すタイプでした。その楽しみが大人になって、形を変えて戻ってきたような心持ちでした。

アルコールも入っているし、深夜に無用なアドレナリンが出ているからか、今思い返すと良い本のチョイスができたわけではありません。夜の書店からの帰り道は、なんで買ってしまったのだろうと思うことも、しばしばあります。それでも深夜に行く書店がわたしは今でも一番好きです。

本を数冊買い、最初の目的であったカフェの喫煙席に座って、太宰治の『晩年』の文庫本を読んだのが忘れられません。深夜の人気のない書店で誰にも邪魔されることなく自由に選んだ一冊が、全集を買うほど好きで、何度も読んでいた太宰治の『晩年』だったことがまず驚きでした。それだけ好きだったのか、それとも単にそういう気分だったのか。今でも分からないけれど、それでも選んでしまったことに、深夜の書店に行く意味があるのだと思いました。

学生時代に行っていた深夜営業の書店は、今やすべてなくなってしまいました。あの時間が世界からなくなりつつあると思うと、ひどく寂しい。そして夜はちゃんと眠って明日に備えようという、少し大人になった自分もどこかつまらなくなっていくような気がしてしまうのです。

 

著者の作品

不器用で
著者:ニシダ
発売日:2023年07月
発行所:KADOKAWA
価格:1,760円(税込)
ISBNコード:9784041131138

鬱屈した日常を送るすべての人に突き刺さる、ラランド・ニシダの初小説!

年間100冊を読破、無類の読書好きとして知られるニシダがついに小説を執筆。
繊細な観察眼と表現力が光る珠玉の5篇。

(KADOKAWA公式サイト『不器用で』より)

 

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