全国の書店員さんが、もっともお勧めの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第42回は、兵庫県明石市のリブロ 西明石店の店長・豊田有美さんにご登場いただきました。
旅行の“億劫”を解決する旅の記録
納品やレジで接客をしていると、さまざまなガイドブックや風景の写真集が出版されているなと、改めて思います。
ふと、「私はいくつの都道府県に行ったことがあるのかな?」と思い数えたところ、28都道府県でした。
旅行をしない人から見たら多い数だと思われるかもしれませんが、「日本には47都道府県もあるのに、行ったことがない場所があるというのはもったいないなぁ」と、ある時から思うようになりました。
その“ある時”とは、今回ご紹介する益田ミリさんの『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』を店頭で見かけた時です。「あっ! やっぱりもったいない」と益田さんと同じ気持ちになり、そこから「旅に行くなら訪れたことのない都道府県に」と、思うようになりました。
ただ、旅行をするとなると、「観光名所にいくつ行けるか」「名物のあれを食べなきゃ」などと考えてしまい、なんだか億劫になりがちです。そんな問題の解決策が、『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』には明記されていたのです。
目的は“ただ行ってみるだけ”!
その解決策とは、「何かを学ぶ」などにはこだわらない、ただ行ってみるだけの旅。そうです、目的は“行ってみるだけ”。
例えば、益田さんの訪問30県目の新潟県では「都合がつかず、日帰りで新潟に行くことにする。ゆっくり旅してみたい場所だったのでちょっと残念である。しかも、東京から新幹線に乗ったのがお昼前。
車内でガイドブックを読み(時間を有効に使う旅行にしよう!)と思っていたのに熟睡してしまい、なんの予備知識もないまま新潟に着いてしまった。果たして、旅と呼べるような一日になるのかと心配になる」と書かれています。
そして、「ひとまず新潟駅から歩いて10分ほどの萬代橋を見に行くことにする。5分ぐらい立ち止まって川や橋のたもとを眺める。さて、次はどうしよう」。
私も同じような体験があります。ここを読んで、私も新潟で同じように萬代橋を眺め、そしてふと思い立ちレンタサイクルで海まで走り、冬だったこともあり荒れた海を眺め、いそいそとホテルにチェックインしたことを思い出します。
特別なことをしなくても素晴らしい旅
この話を職場の人や友だちにすると、「旅に行く意味ある?」と口をそろえて言われます。たぶんこの本を読んでいなければ、私も旅に行って何もしないなんて許されない(大袈裟ですが)と思っていたでしょう。
しかし益田さんのお陰で、「何かをする」ではなく「そこに行ってみたい」が目的となったので、私の中では特別なことをしなくても素晴らしい旅だったと、胸を張って言えるようになりました。
現在、コロナ禍で不自由な日々が続きますが、自分の住んでいる町をふらりと歩くだけでも新しい発見があると思います。その発見のお手伝いが少しでもできればと思い、店頭には地元周辺のガイドブックや写真集を置いています。
みなさんも「何かをする」ではなく「そこに行ってみたい」旅をしてみませんか?
◆作り手からのメッセージ◆
編集という職業柄か、プライベートな旅でも、作家さんとの取材旅行かのように、旅の段取りを組んでしまう。でも、この本を読んで、ただそこに行き、自由に、“今”見たいものを見て、“今”食べたい物を食べる旅がどれだけ贅沢かに気づいた。「せっかく行くのだから、もったいない!」は、もう卒業。(幻冬舎 第三編集局 君和田麻子さんより)
リブロ 西明石店(Tel.078-926-0214)〒673-0005
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※営業時間 9:00~20:00
(営業時間短縮中・通常営業時間9:00~21:30、土・日・祝日9:00~20:00)
(「日販通信」2021年3月号「わが店のイチオシ本」より転載)