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連載Vol.15:筑摩書房の編集者が激推し!2026年の注目作家は【西村亨】『死んだら無になる』

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ほんのひきだしでは、2026年1月1日(木)から、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、短期連載企画「編集者が激推し!2026年の注目作家はこの人」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

筑摩書房 第一編集室・山本充さんの注目作家は「西村亨」さん

西村亨

西村亨(にしむら・りょう)

1977年鹿児島県生まれ。東京都在住。鹿児島県立鹿児島水産高等学校卒業。2023年、「自分以外全員他人」で第39回太宰治賞受賞。同年、南日本文化賞奨励賞を受賞。2024年、『孤独への道は愛で敷き詰められている』が「本の雑誌年間ベストテン」の第3位に選ばれる。

 

手と耳で書かれた文章

初めて西村亨さんの家に行ったのは、とある媒体の取材のときだった。その取材は、文学の新人賞を取ったひとに、どうやって受賞作を書いたのか、書いた場所込みでインタビューするというもので、それで自宅での取材となったのだ。

一見して驚いたのが、あまりにも物がないことで、元々ミニマリスト的傾向もあったのと、太宰賞を取らなかったら本気で自死を考えていて身辺整理をしていたのでこうなったということだった(誤解を呼ぶかもしれないが、これはそこまでして賞を取りたいというよりは、せっかく応募したのだから、その結果を見た上で死にたいというほうが近いです)。

そして、さらに驚いたのが、これまで『人間失格』を優に百回以上は読み返していて、それどころかノートに書写までして、それも一冊だけじゃなく、持ち運び用に小さい手帳などにも書写して、何冊もwritten by NISHIMURAの『人間失格』を作っていることだった。

加えて自分の朗読を吹き込んだ音声を繰り返し聞いているとも言っていて、パッと見パラノイアでしかないのに、真面目さが常軌を逸したラインまでいくと、笑えてくるというのが、なんとも太宰治を彷彿とさせるし、じっさい日本文学の中でも卓越した語り手である太宰の文章を手と耳でそれだけ享受してきたことで、内容への賛否以前に、誰もが認める文章の読みやすさが生まれるのだと、いろいろと腑に落ちた気がした。

太宰賞を受賞したデビュー作『自分以外全員他人』の結末での柳田譲の目もあてられない惨劇としかしそこはかとなく漂うユーモア、柳田譲の過去を描く二作め『孤独への道は愛で敷き詰められている』で全体に漂うファルス感とそこにまじる刺すような哀しみ、西村さんならではの研ぎ澄まされた文章が、世界のすべてをありのままに受け止め、ありのままに返して、生きることの喜びと苦しさを等身大で伝えてくる。

『孤独』の最後、あてどなく世界に放り出された柳田が、それでももう一度生きなおそうとして救いを求めさまよう柳田譲サーガ三作目『死んだら無になる』、その道行きがどうなるか、ぜひその目でお確かめください。

(筑摩書房 第一編集室 山本充)

自分以外全員他人
著者:西村亨
発売日:2023年11月
発行所:筑摩書房
価格:1,540円(税込)
ISBNコード:9784480805157

孤独への道は愛で敷き詰められている
著者:西村亨
発売日:2024年08月
発行所:筑摩書房
価格:1,760円(税込)
ISBNコード:9784480805201

死んだら無になる
著者:西村亨
発売日:2025年10月
発行所:筑摩書房
価格:1,980円(税込)
ISBNコード:9784480805270