ほんのひきだしでは、2026年1月1日(木)から、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、短期連載企画「編集者が激推し!2026年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
KADOKAWA 文芸局・鈴木雄策さんの注目作家は「木野寿彦」さん

木野寿彦(きの・としひこ)
1983年生まれ。福岡県出身。九州大学文学部卒業後、工場勤務や事務職を経験。2025年、「降りる人」で第16回小説 野性時代 新人賞を受賞し、デビュー。
間違いも、失敗も
昨年の第16回小説 野性時代 新人賞受賞作『降りる人』は、題字が手書き風の、へにゃっとした文字だ。このへにゃっと具合が、当初の案ではもっとかなり強かった。あまりにへにゃっとしすぎて4文字目の「人」が「ん」と誤読される恐れがあったため、もう少ししゃんとさせたのだが、著者の木野さんは元バージョンの方が好みだということだった。
「あのへにゃっと感に、浜野(主人公の友人)がいる! と強く思いました。『降りる人』が『降りるん』と見えてしまう間違いも、ふふっと笑うユーモアに感じ、この作品に合っているような気もします」。
続けて、最終的なご判断はお任せします、すごく素晴らしい装丁だと思います、と言っていただきはしたのだが、おっしゃることはよくわかった。とはいえやはり誤読だけは避けたく、最終的にはタイトルの可読性とへにゃっと感の間をとった今の形に落ち着いた。
また、『降りる人』があるランキングで第4位となったときのこと。木野さんははにかみながらこう言った。「すごく嬉しいです。4位という、スポットライトの隣あたりにひっそりいるのも、この作品らしいなと思いました」。
『降りる人』はまさに、この感性をお持ちの木野さんだからこそ書けた作品だと思う。鬱のような状態で仕事を辞めた30歳の宮田の、期間工として働く日常と秘密を描いた本作は、読者を力強く、ぐいっと引き揚げてくれる作品ではない。あるいは、優しく寄り添ってくれることもない。
でも決して否定することなく、隣にいてくれる作品だ。間違いも、理想のようにはいかなかったことも、決して否定することなく。
本作では、初めて帯に、担当編集者としてのコメントを寄せさせていただいた。「この小説に救われる人が、必ずいる。そう強く思えた作品です」。
木野さんはきっとこれからも、木野さんならではの感性で、素晴らしい作品をたくさん書かれていくことだろう。『降りる人』と木野さんに、皆さま、是非ご注目ください。
(KADOKAWA 文芸局 鈴木雄策)
- 降りる人
- 著者:木野寿彦
- 発売日:2025年09月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:2,090円(税込)
- ISBNコード:9784041166048

