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戦争犯罪はあったのか──。緊迫した心理戦、戦場の「真実」を炙り出す|古処誠二『敵前の森で』

戦争犯罪はあったのか。俘虜収容所にいた北原信助は英人大尉から、執拗な尋問を受ける。古処誠二の最新作は、戦場の真実と、人間の想いを照らし出す。


自衛隊内部の事件を描いた本格ミステリー『UNKNOWN』(現『アンノウン』)でデビューした古処誠二は、第4長篇『ルール』から戦争小説へ転身した。以後、さまざまな戦争小説を発表しているが、第二次世界大戦下のビルマを舞台にしたものが多い。「小説推理」に好評連載され、このたび単行本になった本書も、ビルマが舞台である。

戦争が終わり、ビルマで戦っていた北原信助少尉は、現地の俘虜収容所に収監されている。その北原が、英人大尉に呼び出された。語学将校だという英人大尉は北原に、捕虜の処刑および民間人に対する虐待容疑による、戦犯容疑がかかっているという。インパール作戦で敗軍収容任務についた北原たちに、何があったのだろうか。

物語の半分以上は、北原たちが命じられた敗軍収容任務に費やされている。乾坤一擲のインパール作戦が失敗に終わり、マラリアや負傷などにより自力での撤退が困難な日本兵を、救出しなければならない。しかし、自動貨車大隊から抽出された土屋隊の一員である、見習士官の北原に、実戦経験はなかった。兵補であるビルマ人のモンテーウィン少年は逃亡。部下の佐々塚兵長は、英印軍の軍使として来た山岳民族のラングカンを、勝手に拘束してしまう。さらに対岸の英人指揮官との口合戦に、激しい戦闘と、北原の視点で敗軍収容任務の一部始終が綴られていく。

その合間に、北原と英人大尉のやり取りが挿入される。互いの腹を探り合うような2人の会話は、緊張感に満ちている。それにしても英人大尉が、北原を戦犯と疑う理由は、どこにあるのだろう。読者は、北原視点の部分により、彼が戦犯でないことが分かっている。とすれば単なる誤解なのか。それとも本当のことを知ったうえで、あえて戦犯にしようとしているのか。英人大尉の思惑が明らかになったときは驚いた。ああ、だから物語の時間軸が戦後なのか! ミステリー作家として出発した作者は、戦争小説でもミステリーの趣向を積極的に取り入れている。本書もそのような作品であり、この時代、この場所だから成立する真相に感嘆してしまうのだ。

さらに続けて、ある人物に対する北原たちの想いが露わになる。エピローグによって、その想いが強まる。北原を始めとする日本兵は、勇者でも英雄でもない。だが彼らには、人間として大切な心があった。古処誠二の戦争小説は、極限状態に投げ込まれた普通の人に寄り添っている。だからこそ、胸を打たれるのである。


敵前の森で
著者:古処誠二
発売日:2023年4月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBN:9784575246209


双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・古処誠二さんのインタビューが公開されています。

著者・古処誠二さんのインタビュー記事はこちら

『小説推理』(双葉社)2023年6月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載