豊臣秀長・秀吉を知って「豊臣兄弟!」を楽しもう!
2026年1月4日(日)に放送開始予定のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」は、豊臣秀吉の弟・秀長を主人公にした物語です。「秀長が長生きしていれば豊臣家の天下は安泰だった」とまでいわしめた天下一の補佐役・秀長の目線で、戦国時代がダイナミックに描かれます。小一郎(のちの豊臣秀長)役を仲野太賀さん、その兄・藤吉郎(のちの豊臣秀吉)役を池松壮亮さんが演じます。
ほんのひきだしでは、よりドラマを楽しんでいただけるように、放送に先がけて豊臣秀長・秀吉の関連本を短期連載形式でご紹介します。
今回は、『秀吉と豊臣一族研究の最前線』(山川出版社)です。秀吉一族についてわかりやすく解説されています。ぜひ書店店頭で手に取って、ドラマとあわせてお楽しみください。

編集:河内将芳、監修:日本史史料研究会
発売日:2025年12月24日
発行所:山川出版社
定価:1,980円(税込)
ISBN:9784634152588
〈章立て〉
はじめに――秀吉政権の基盤となった「家」の特異性 河内将芳
第I部 秀吉は血縁をどういかしたのか
第一章【秀吉像の変遷】
秀吉の出自はどういわれてきたのか 竹内洪介
第二章【秀吉の実弟】
秀吉の“後継”を期待された豊臣秀長の足跡 播磨良紀
第三章【秀吉の甥――秀次・小吉秀勝・秀保】
豊臣秀次とその弟たちの実像 尾下成敏
第四章【秀吉の子】
秀頼「出生」の謎と、家康との知られざる関係 平野明夫第II部 一族の果たした役割
第五章【高台院“子飼の者”】
変転する豊臣恩顧の大名たち 水野伍貴
第六章【秀吉の妻たち】
「呼称」からみた秀吉との関係――淀殿と松の丸殿 河内将芳
第七章【秀吉の養子戦略】
於次秀勝・小早川秀秋・結城秀康、それぞれの処遇 光成準治
第八章【秀吉の養女と婚姻戦略】
有力大名家を“羽柴家親類”に取り込む 柴裕之第III部 秀吉研究をめぐる新論点
第九章【天変地異と秀吉政権】
二つの大地震と「恠(かい)異(い)」は社会になにをもたらしたのか 河内将芳
第十章【秀吉時代の金・銀・銭の流通】
貨幣史からみた“黄金太閤”の虚像と実像 千枝大志
第十一章【秀吉の名字・姓】
「羽柴」「豊臣」には、どのような意味があるのか 堀越祐一
第十二章【世界認識と対外戦略】
宣教師がみた秀吉の「南蛮外交」 清水有子第十三章〈特論①〉【秀吉の政治・経済・大名統制政策】
太閤検地、刀狩り令、武家官位制は画期的な政策だったのか? 平井上総
第十四章〈特論②〉【秀吉の軍事・外交政策】
惣無事令・朝鮮出兵・豊臣水軍研究の現在 長屋隆幸
進展著しい豊臣政権の研究成果を第一人者がわかりやすく解説
日本史の中で「いまホットな」中世・戦国時代のテーマを厳選した「研究の最前線」シリーズの新刊です。第一線の研究者・河内将芳さんが、わかりやすく最新研究の成果を紹介されています。出自をめぐる論点、刀狩り・惣無事令など政策をめぐる最新研究動向も含め、最新研究の動向から、秀吉政権の実像を解明しています。
秀吉はなぜ天下を取れたのか? その政権基盤のキーワードとして「一族」「血縁」に注目!
弟秀長、甥秀次、実子秀頼の後継者候補、母・妻・妹などの家族、養子や養女も含めた一族について、群雄割拠の戦国時代に終止符を打ち、天下統一を成し遂げた豊臣政権の特異性を、「血縁」「一族」から解き明かしています。
武家史上初の関白に任官された秀吉は、のちに関白職を甥秀次に譲る。秀次は秀吉の姉の子であり、弟の秀長、秀次の弟たち(秀勝・秀保)も含め、その血縁の始点は秀吉の父ではなく母大政所にあった。秀吉の「家」は、当時の武家としてはめずらしく母系により成り立っていたといえよう。そのため秀吉政権が想定していなかった実子誕生により、彼らが結果として排除されていくことになったのも当然であったのかもしれない――。秀吉がつくろうとしていた「家」にとって、実子誕生は後継問題を複雑化していくとともに、政権そのものの短命化にもつながっていくことになるのである。(編者「はじめに」より)
秀吉の代名詞的な政策について知識をアップデート!
刀狩り令、惣無事令、太閤検地、豊臣水軍、朝鮮出兵――。教科書で学んだ代表的な政策も、以前とは異なった観点で捉えられているかもしれません。「いまどう言われているのか」がわかる一冊に仕上がっています。
編者プロフィール
河内将芳
かわうち・まさよし。1963年、大阪府出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。現在、奈良大学文学部教授。『落日の豊臣政権―秀吉の憂鬱、不穏な京都』(吉川弘文館、2016年)、『大政所と北政所ー関白の母や妻の称号はなぜ二人の代名詞になったか』(戎光祥出版、2022年)、『図説 豊臣秀長』)戎光祥出版、2025年)ほか。
【編集者のコメント】
これまでの大河ドラマでは、「秀吉」(1996年)を含め、過去に何度か秀吉物が取り上げられている。今回の「豊臣兄弟!」は、意外にも秀吉の実弟が主人公であり、目新しさを意識したように見える。しかし、このテーマを深読みすると、秀吉本人ではなく、親兄弟など、秀吉一族に焦点をあてることは、歴史における秀吉の存在を分析するうえで、意外に重要なテーマを含んでいる可能性があるのではないか。
閨閥などない庶民の秀吉が、天下統一のうえに関白にまで上り詰めたことは、彼以降の豊臣一族の形成・持続が最大の課題であったことを示している。五摂家以外の関白家の誕生は、豊臣一族が続いていくことが前提であった。ただ単に、後継の秀頼がいればいいのではなく、それを支える一族(他家との婚姻も含め)の存在が必要条件でもあった。
それ故に、豊臣政権を考察する場合、政権の官僚機構の分析だけではなく、豊臣の権威・権力を象徴する一族の形成・持続が重要であった。
そのため、当時子供がいなかった秀吉の後継を期待された実弟・秀長の存在は、いの一番にそれを象徴するものといえる。秀吉は結果的には豊臣一族の形成には失敗し、政権そのものも失うことになるが、秀吉による一族形成のプロセスは、日本の歴史上、ゼロから出発した権威・権力機構の形成過程を考察する極めて貴重な例といえるのではないか。
