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「戦争をやめさせなくちゃ」と思わせる力がこの本にはきっとある。村上春樹の新訳で世界的ロングセラー『世界で最後の花』が復刊!

6月14日(水)に、村上春樹さんの新訳で、世界的ロングセラー『世界で最後の花 絵のついた寓話』が復刊されます。この本は、ニューヨーカー誌の編集者で小説、漫画、児童書分野でも活躍したジェームズ・サーバーによって、84年前の第二次世界大戦開戦時に描かれました。戦争を繰り返す人類への皮肉と、平和への切実な願いが込められた「絵のついた寓話」です。

日本では1983年に、『そして、一輪の花のほかは…』というタイトルで刊行され、その後絶版に。フランス語版の翻訳は、ノーベル文学賞受賞者のアルベール・カミュが務めています。

今回は、本書の編集を担当したポプラ社の辻敦さんに、復刊までの経緯と、本書に込めた願いについて綴っていただきました。

 

読む人に「戦争をやめさせなくちゃ」という気持ちを起こさせる力がきっとある

ロシア軍によるウクライナ侵攻を伝えるテレビのニュースを見ながら、ぼくは家でひとり、ソファの上から動くことができませんでした。いま、自分が生きている時代で、こんなにも簡単に戦争が始まってしまうなんて……。戦争について妻と話し、友人と話し、ニュースをチェックし、SNSで戦争のつぶやきを検索して眺める日々が続きました。でも、だんだんと慣れてしまう。あれほどテレビの前で絶望したのに、戦争の報道を見ても何も感じなくなってきているのです。こんな自分がおそろしいと思いました。

 

この、ぼく自身の様子、そして戦争を始めてしまうロシアの姿は、『世界で最後の花』のストーリーと重なりました。戦争がどれだけ悲惨で、むごたらしいことか知っているはずなのに、時間がすぎればその記憶はどんどん薄れてしまう。そして信じられないことに、また戦争が始まってしまうのです。この本はまるで予言のようでした。

しかし、何度も読んでいるうちに、この本はわたしたちへ託された希望ではないかと思うようになりました。作者サーバーは「いまを生きるあなたたちは、これからどうするのですか?」と問いかけているのだと。繰り返される戦争の連鎖をとめるのはわたしたち。戦争のない未来をつくるのもわたしたち。いま起きている戦争は他人事ではないのです。

版権獲得前から村上春樹さんに依頼をしたいと上司には伝えていました。ぼくには何のツテもありませんでしたが、この本なら、このタイミングなら、翻訳を引き受けてくださる可能性は決してゼロではないのではないかと。そして、いかに胸をうつストーリーとはいえども、いちどは日本で絶版になってしまっている本。それを長く読み継がれるものにするためには、村上春樹さんのお力が不可欠なのではないかと。原書とお手紙をお送りしたところ、幸運にも引き受けてくださることになりました。

 

2022年3月に放送されたTOKYO FM「村上RADIO特別版~戦争をやめさせるための音楽~」に寄せた文章で、村上春樹さんはこんなことをお書きになっています。

音楽に戦争をやめさせることができるか?

たぶん無理ですね。でも聴く人に「戦争をやめさせなくちゃ」という気持ちを起こさせることは、きっと音楽にもできるはずです。そしてそういう気持ちが集まって、少しずつでも力を持っていくかもしれません。

本も同じではないでしょうか。読む人に「戦争をやめさせなくちゃ」という気持ちを起こさせることがきっと本にもできるはずです。いまこれを書いているぼく自身も『世界で最後の花』のおかげで、「戦争」を考えるスタートラインに立てました。いまいちど戦争について、家族や友人と話しあってみませんか? 戦争被害を受けた人々に思いを馳せてみませんか? きれいごとかもしれません。でも不可欠な行動だと思うのです。この本がひとりでも多くの読者の、戦争について考えるきっかけになることを心から願っています。

 

世界で最後の花
作:ジェームズ・サーバー、訳:村上春樹
発売日:2023年6月14日
発行所:ポプラ社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784591178102

【内容紹介】
みなさんもごぞんじのように、第十二次世界大戦があり、

町も、都市も、村も、地上からそっくり消えてしまいました。

本も、絵画も、音楽も、地上からなくなりました。人間たちはなにをするでもなく、ただそのへんにぼんやり座りこんでいました。

ある日、それまで花をいちども見たことのなかった若い娘が、たまたま世界に残った最後の花を目にしました。

若い娘は、一人の若者と一緒に、世界に残った最後の花を育てはじめます。すると……

 

書店員さんからの感想が続々!

いち早く『世界で最後の花』を読んだ書店員さんからも、たくさんの感想が寄せられています。その一部をご紹介します。

■本文を読んで、あらためて娘・ローズマリーへの献辞を読むと、泣きたくなる。
(有隣堂戸塚西口店 高橋さん)

■戦争は決して自分と関わりのないことではないと知りました。これは世界中の人たちに読んでほしい。
(水嶋書房くずはモール 井上さん)

■読めば忘れられない1冊になる。
(紀伊國屋書店広島店 藤井さん)

■このシンプルさだからこそ伝わる大事なこと。
(紀伊國屋書店横浜店 川俣さん)

■いつか戦争のない世界になりますように。ジェームズ・サーバーさんと村上春樹さんの想いがこめられたこの本が、全世界を駆け巡りますように。
(丸善名古屋本店 竹腰さん)

■戦争ではなく他の手段で問題を解決できるはず。この物語がそれをあらゆる人に届けてくれたらいいなと思います。誰かの命を考える時間になりますように。
(川上書店ラスカ茅ヶ崎店 鈴木さん)

■“最後の花”を守ること、平和を願うことを、あきらめないで!
(喜久屋書店帯広店 礒野さん)

■戦争がもたらす哀しみの花を閉じ、一人一人が人間らしく生きていける希望の花が開いていく、勇気の種のような物語。
(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡さん)

■「戦争とは」「平和とは」今、改めて考えたい。一本の花すらなくなってしまう前に……。
(柏の葉 蔦屋書店 北辻さん)

■こんなにも短く誰にでもわかる言葉で戦争とはどういうものか、を伝えられるという事に衝撃を受けました。
(岩瀬書店富久山プラスゲオ店 吉田さん)

■ジェームズ・サーバーが娘さんに残した言葉はきっと、子を持つ全ての大人が共感できると思います。
(ジュンク堂書店名古屋店 二村さん)

■誰でも読める「大人のための寓話」だからこそ、家族で読んで、色々と話しあうのにとても適しているなと思いました。
(宮脇書店ゆめモール下関店 吉井さん)


(担当編集:ポプラ社 企画編集部 辻敦)